非正規全国会議、新型コロナウイルスによる影響についての緊急アンケートの回答を受け、提言 (4/6)

第2 提言の理由

 1 提言1について

(1)雇用維持・確保を徹底させる必要性
 政府は、厚生労働大臣名義で、経済団体(使用者団体)に対する雇用維持の呼びかけを行いましたが、きわめて弱い要請に過ぎません。
 感染者が急激に増えた欧州諸国では、政府が、企業に雇用継続を求める措置を出しています。特にイタリアは60日間の解雇禁止措置に踏み出しています。政府は、雇用調整助成金支給要件改善や企業向け特別融資を実施していますが、こうした公的助成を受ける企業には解雇禁止の要件を付すことが必要です。
 アンケートでは、新型コロナウイルス感染症を理由とする解雇や雇い止めを受けたり、退職勧奨(強要)された労働者の声が寄せられています。
 特に、非正規雇用労働者は、元々、継続雇用の保障が十分になされていない不安定な働き方であり、正規雇用以上に、雇用を失うことが多くなっています。特別な規制・措置を行い、雇用維持・確保を徹底させる必要があります。
 具体的には、原則として新型コロナウイルス感染症(感染やその危険等)及びその影響(客足の減少や事業の縮小等)を理由とする雇い止め、内定取り消しを禁止すること、また、労働者からの相談を無料で受けるための、労働者支援の公的行政体制を整えること、また、濫用的な雇い止めをさせないために、雇用継続を要件に経営者を財政的に支援することなどが必要です。

【アンケートの声】
〇アパレル関連の販売に従事するアルバイトの女性。営業時間の短縮、勤務店舗の閉店のために、自宅待機・勤務時間減少、そして雇い止めに遭った。収入が減少したが、転職先を探そうにもどこも同じような状況で求人があるのか、採用されるのか心配(北海道、30代、女性No.4)
〇旅行・観光業のパートタイマー・アルバイト。全社休業につき非正規パート全員解雇(神奈川県、30代、女性No.237)
〇不動産業の契約社員。呼び出しされた翌日から契約満了まで自宅待機命令。満了後契約終了。(千葉県、30代、女性No.270)

(2)雇用における休業補償の必要性
 アンケートでは、仕事の減少を理由に自宅待機を命じられたり、勤務時間・シフトを減らされ、収入が減少したという非正規雇用労働者の声が寄せられています。
 労働者にとって賃金は生活の糧であり、賃金が減少することより、その労働者・その家族の生活が脅かされることになります。
 本来、事業者の判断で休業を行った場合には(不可抗力の場合を除いて)休業手当を支払う義務がありますが、このような場合に休業手当が支払われていない事例が散見されます。したがって、まずは企業に休業手当を支払うべき場合にきちんと支払わせるよう指導する必要があります。なお、新型コロナウイルスに便乗して、休業すべきかどうかを十分検討せずに自宅待機を命じたり勤務時間数を削減したり、ひいては解雇・雇い止めをすることは違法であり、その場合には休業手当ではなく民法536条2項に基づいて100%の賃金を支払う義務がありますので、事業者及び労働者にその点を周知する必要があります。
 休業手当に関しては、厚生労働省が公表している「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年3月30日時点版」問5に「労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。休業手当の支払いについて、不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません。」「具体的には、例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があると考えられます。」とあります。具体例が示されてはいるものの、新型コロナウイルス感染拡大を一律に「不可抗力」と解して休業手当を支払わない事業者もあると思われます。また、真に「不可抗力」で休業手当の支払義務がない場合、その負担は労働者が負うことになります。非正規雇用労働者は普段から低賃金で働き預貯金も十分でない人が多く、毎月得られるはずの賃金が得られないことは、生活困窮に直結します。労働者に「不可抗力」による負担を負わせるべきではありません。
 さらに、休業手当は、本来の賃金の6割に過ぎない(正確には6割以上支払う義務ですが、多くの場合6割しか支払われません)ため、もともと正社員との賃金格差があり、低賃金が横行している非正規雇用の労働者にとっては休業手当だけでは生活できないおそれがあります。
 そこで、政府が労働者に対し、休業手当に上乗せして、又は休業手当が支払われない場合でも、100%の補償をするための特別の措置をとる必要があります。
 また、非正規雇用労働者は時給や日給で働いている場合が多く、勤務時間・シフトの削減による収入減少は、休業手当のみで解決することはできません。このような非正規雇用労働者に対して迅速かつ特別の所得補償を行う必要もあります。
 この点、日経新聞(2020年3月26日)によれば、米欧では、雇用危機回避のために、失業給付や賃金補填を拡充しています。米国は「解雇された人に4ヵ月の休業補償」、ドイツは「休業・時間短縮にともなう賃金減の60%などを政府が補填する制度の要件緩和」、フランスは「休業中の政府補填額を2ヵ月間、最低賃金から原則全額に拡大」、英国は「休業を強いられる従業員の給与の80%を3ヵ月間、政府が肩代わり」、イタリアは「休職か時短勤務になっている人に給与の80%相当を支給」、スペインは「一時的解雇した従業員への手当の給付条件を緩和」などの緊急の導入が相次いでいます。なお、韓国では、京畿道とソウル市で、漏れなくすべての住民を対象とした「災害基本所得(ベーシックインカム)」の支給を決め、政府の措置で同様な所得補償をすることが議論されています。

【アンケートの声】
〇イベント会場施工のアルバイト。コロナによるイベントの減少により正社員を優先するために、2月末から4月末までアルバイトは自宅待機となり仕事がなくなった。約2か月間収入がなくなった(大阪府、20代、女性No.11)
○小中学校向け塾講師。小中学校の休校に合わせ3/4~3/13の間の授業がなくなり、必然的に合計5コマ(約9時間)休まざるを得なくなった。3月分のパート収入がほぼ半減する見込み。(埼玉県、20代、女性、№45)
○製造業補助。元々停滞していた仕事量は、夏あたりに上昇すると言われていたが、コロナにより一層低下し、帰休が増えた。社員には8割の給与があるがパートには何もない。(愛知県、40代、女性、№50)
○飲食店のホールスタッフ(契約社員)。客足激減の為正社員以外は20日間の出勤停止。来月の手取りが半額以下になる見込みで、家賃光熱費等の支払いが足りない。元々貯金する程の手取りも貰っていないので貯金もなく、来月以降の生活を考えると涙が出てくる。(埼玉県、20代、女性、№66)

(3)フリーランスに対する契約打ち切りの制限、休業(所得)補償
 アンケートでは、仕事のキャンセル・契約解除されたが、現在の状況では、別の仕事もなく、いくら個人的に努力をしても仕事を見つけることができないというフリーランスの声が目立っています。
 フリーランスにとって仕事の報酬は生活の糧であり、これが減少することにより、その方やその家族の生活が脅かされることになります。仕事がキャンセルされたり契約解除されたりしても、労働法のルールではなく民法のルールによって解釈されるため、雇用による労働者に不十分ながら認められている補償すらありません。アンケートにも悲痛な声が寄せられています。
 まずは、フリーランスに対する新型コロナウイルス感染症及びその影響を理由とした安易な契約解除・打ち切りを制限する特別措置をとる必要があります。
 また,政府は、フリーランスに対する所得補償については、子どものいるフリーランスに限定して、休校要請に基づき休んだ日についてのみ、労働者の約半額である1日4100円の補償しかしません。このような補償では、極めて不十分です。フリーランスやその家族の生活を保障するためには、仕事を失ったフリーランス全員に対して、迅速かつ特別な所得補償の措置をとる必要があります。
 世界的には、新型コロナウイルス感染症の流行拡大による休業に対して、労働者(被雇用者)に対する賃金補填以外に、自営業者への緊急支援の必要が指摘され、実施されようとしています。例えば、イギリス財務相は3月26日、「コロナウイルス自営業収入支援スキーム」として、この間、収入を失った個人事業主を対象に所得の8割相当額を1カ月最大2500ポンド(約32万円)まで給付金を6月から始まり3か月分一括支給することにしたと報じられています。

【アンケートの声】
〇フリーランスの音楽教室講師。3週間レッスン休講。今後の再開は政府見解次第。3月は無給となりそう(神奈川県、40代、女性No.12)
〇資格試験の試験監督など、フリーランスで働いている女性。ウイルスの影響で試験実施に影響が出て中止になり、請負契約による仕事がキャンセルされた。来月の収入減少が怖い。仕事に応募しても採用されない。(千葉県、40代、女性No.76)
〇出版関係のフリーランスで漫画・イラストレーターの仕事をしている女性。仕事のキャンセル=請負・委託の解除に遭った。子どもが家にいるため働けない。テレワークの夫、休校での子どもがいること、もし感染したときに備える準備などで、働く時間が変更・減少している。子どもは外遊びが必要な年齢だが、安全な所を探すのが難しい(神奈川県、40代、女性No.1)
〇グラフィックデザイナーでフリーランスで働く男性。イベント広告等が、校了直前のイベント自粛で保留状態になった。(東京都、40代、男性No.2)
〇インストラクターのフリーランス。スタジオ内消毒のため、と急に店が休みになり、仕事がキャンセルされた。こちらの都合ではないので、何かの保証はないかと問い合わせしたが、とくに報酬を支払う予定はないと言われた。(神奈川県、40代、女性No.89)
〇翻訳・通訳のフリーランス。学会・国際会議・海外からの商談・講演会などがキャンセルになり、通訳がキャンセル、翻訳の依頼が激減(兵庫県、50代、女性No.209)
〇イベントMCのフリーランス。土日、祝日のイベントMC現場が3月は8本キャンセルに。(埼玉県、40代、女性No.221)
〇演奏家、ピアノ講師のフリーランス。大きなものからイベントのキャンセルが相次ぎ、小さなものもライブハウスが自粛。生徒は高齢の家族がいる人はレッスン退会。終息の気配もないため新規入会も見込めず。(東京都、40代、女性No.243)

(4)特定の業種に対する特別の措置の必要性
 観光、旅行、イベント、飲食、旅客運輸などの業種で、仕事の打ち切り、キャンセルが格段に多くなっています。これらの業種では、元の状態に戻る見込みも立たず、状況はきわめて深刻です。雇用の危機が労働者にしわ寄せされる危険が高まっています。こうした深刻な業種を特別に指定し、雇用安定のための特別措置を、迅速かつ財政的な根拠をともなってとるべきです。

【アンケートの声】
〇イベント会場施工のアルバイト。コロナによるイベントの減少により正社員を優先するために、2月末から4月末までアルバイトは自宅待機となり仕事がなくなった。約2か月間収入がなくなった(大阪府、20代、女性No.11)
〇音楽演奏家・指導者のフリーランス。殆ど全ての仕事がキャンセルされ、収入がほぼ0です。(愛知県、40代、男性No.10)
〇飲食業の契約社員。テレワーク、自宅待機・勤務時間の減少。同僚が出社できなくなり、事務所の頭数が減り電話対応などが滞った(東京都、50代、女性NO.9)
〇飲食業で給仕、配膳、接客などのパート。宴会予約のキャンセルにより、出勤日数減。(静岡県、30代、女性No.7)
〇飲食業でホールスタッフのアルバイト。週5勤務から週3勤務になり、自宅待機・勤務時間減少で収入減(千葉県、30代、男性No.8)
〇スポーツ・イベントの仕事を自営。キャンセルが続き、仕事が3ヶ月ないため、日雇バイト生活。会社自体もあぶなく、無収入。給付金と給与補償を希望(埼玉県、30代、男性No.6)
〇車内販売サービスのパートタイマー・アルバイト。コロナウィルス対策の為の販売列車削減がされています。社員は給料が毎月保障されていますが、パート、アルバイトは、コロナウィルスが理由で、世間もこのような状況だからという事で、休業補償なしで休みを多く取ってもらうよう指示がありました。労働組合もない会社なので、意見を言う場所もありません。毎月の休みは選べず、仕事内容も社員と全く同じですが、昔から、緊急時の安全確認の電話は、パートアルバイトには必要がないなども含めてかなりの待遇の差別がありました。(神奈川県、30代、女性No.157)
〇舞台スタッフのフリーランス。舞台スタッフで一番わかりやすい雇用形態は日雇い労働です。3月いっぱいの仕事(舞台演目)、および5月いっぱいの仕事(演劇祭)が政府からの自粛要請を受け、それぞれ公演中止、時期未定延期になりました。よってその期間の収入がありません。フリーランスの舞台スタッフは仕事がある時とない時が時期によってまちまちで、もともと4月は現場数の少ない月でしたから、補填にはなり得ません。これにより無くなった収入は約70万円程です。現時点での影響で70万不足しているので来年の住民税のことを考えると頭がいたいです。(京都府、30代、女性No.169)
〇ホテル客室清掃のパートタイマー・アルバイト。ホテルの利用客が激減して清掃する部屋数が減ったので勤務時間が減ったり、休みが増えた。今はまだ有給があるのでそこまでではないが、4月以降、有給を消化しつくしたら給料が半分近くしか補償されないので大変。(愛媛県、40代、女性No.208)
〇ホテル・婚礼配膳の派遣社員。週5、6日フルタイムから週1日6時間程度に時間数が減少した(奈良県、20代、男性No.215)
〇IT情報サービス業の派遣社員。社員はテレワーク、派遣社員は全員テレワーク不可とのことで休業扱い(給与補償6割)(東京都、30代、女性No.269)

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