第84回 EUがプラットフォーム労働指令案で合意し最終決定へ進む

2024年3月11日、EU理事会の雇用・社会政策担当閣僚会議で「プラットフォーム労働指令」案をめぐって加盟国の妥協が成立し、事実上、新たな指令として採択されることになりました。形式的にはEU議会など関係機関での手続きがありますが、2021年12月にEU委員会が提示した「指令案」から2年以上にわたる異例の長い経過をへてようやく指令採択が確定することになりました。
この指令は、革新的かつ画期的なものと評価されています。2年間の議論は賛成、反対と大きく分かれ、昨年から今年にかけて紆余曲折を経て土壇場まで成立が危ぶまれていました。EUの中で大国であるフランスが最後まで反対し、ドイツも棄権の態度をとっていために折角の長い時間をかけた議論が霧散するのではないか懸念されていました。ようやく妥協が成立し、EU指令として結実することは大きな意味があります。とくに、第83回のエッセイで紹介したILOのプラットフォーム労働についての条約・勧告を目指す議論を大きく励ますものだと考えます。
その意味で、EUにおける指令採択は、世界の各国から注目されています。日本政府は、「フリーランス法」や「労災特別加入」など僅かな改善による「アリバイ」的な対応を示してきました。ILOのアンケートなどプラットフォーム労働者保護を導入しようとする問題提起を正面から捉えることが必要です。今回は、取り急ぎ新たなEUのプラットフォーム労働指令をめぐる情報を整理し、その意味を考えてみることにします。
 2024年3月21日 SWakita
その後、3月11日の理事会「合意」に基づく指令案は、4月、EU議会で審議され、同月24日、多数の賛成で可決されました。このEU議会で可決された「指令」の条文部分を仮訳しました。かなりの修正をして改善した積りです。→PDFファイル(ダウンロード可能)
 2024年7月13日  SWakita

 EUプラットフォーム労働指令案をめぐる議論経過(2021.12.9~2024.3.11

 EU委員会のプラットフォーム労働指令案 2021.12.9.

 EU委員会は、2021年12月、「プラットフォーム労働における労働条件改善に関する指令案」を採択しました。
 2020年10月、EU委員会は、2021年の作業計画として、労使代表(ソーシャルパートナー)との2段階協議を経て、プラットフォーム労働の労働条件改善のために2021年末に立法をするという構想を示しました。それに基づいて、第1段階協議(2021年2月24日~4月7日)、第2段階協議(2021年6月15日~9月15日)が行われ、さらに、EU委員会は、プラットフォーム企業、プラットフォーム労働者団体、労働組合、加盟国の代表者、学界、国際機関、市民社会などの関係者との意見交換を行いました。

 2021年12月、EU委員会は、「プラットフォーム労働指令案」を発表しました。この指令案は、EU諸国だけでなく、多国籍企業によるプラットフォーム労働が広がる世界各国から大きな注目を集めることになりました。とくに、指令案は、プラットフォームを通じて働く労働者が、形式では自営業であるが、実際には一般の労働者と同様に労働法・社会保障法が適用される「労働者」かをめぐる「雇用上の地位」について、EUの主要国(英国は脱退後)の最高裁判所で相次いだ労働者性を認める判決を背景にしたものでした。

 とくに、直近でプラットフォームを通じて働く「配達員」(=ライダー)について、立証責任を転換する「雇用推定」を定めたスペイン「ライダー法」の雇用推定とアルゴリズム管理の規定の影響を受けて、きわめて「野心的」な内容を含んでいました。(指令案について詳しくは、JIL2022年4月の「労働トピック」参照。)
 この指令案の主な内容は次の通りです。(EP 2023.6)

 【適用範囲】EU域内で営業活動をするデジタル労働プラットフォーム全体に適用されることを前提にしています。EUでは、2021年末には、500を超えるデジタル労働プラットフォームが活動していました。これらのプラットフォームには、Uber、Deliverooなど、国際的な多国籍企業だけでなく、国内または地域を限定した小規模な新興企業も含まれています。多くは、運転や配達など現場型(オン・ロケーション)サービスを提供している企業です。指令案は、こうしたデジタル労働プラットフォームを通じて労働する人々が、プラットフォーム企業との労働関係に対応した適切な法的な雇用上の地位を取得できるようにすることを目的としています。

 【5つの基準】指令案の核心的な内容は、プラットフォームが「使用者」であるかどうかを判断するために、基準となる事実について5つのリストを提供していることです。つまり、①報酬(またはその上限)はプラットフォームが決定すること、②身だしなみ、顧客に対する行為、業務の遂行に関して拘束力のある規則が設けられていること、③業務活動を監督・評価するための電子的手段が設けられていること、④労働時間、アプリをオフにする自由、または代替者を使用する自由に関して制限が設けられていること、⑤企業との間で、専属性や非競合が要求されることです。
 【雇用推定】これらの5基準のうち少なくとも2つを満たすプラットフォームは、法的に「使用者」であると「推定」され、そのプラットフォームを通じて働く者は「労働者」の地位にあることになり、労働法と社会保障法が適用されて、法律に基づく労働権と社会保障の権利を享受することができます。これは、最低賃金(雇用された場合)、団体交渉、労働時間および健康保護、有給休暇の権利、または業務災害に対する保護へのアクセス改善、失業給付および疾病給付、ならびに拠出型老齢年金を受ける権利を意味しています。
 【反証】プラットフォーム企業も、労働者もこの雇用推定による分類に異議を唱えることができます(反証可能推定の原則)。ただ、法的推定を覆すためにデジタルプラットフォームが開始した法的・行政的手続きは、法的推定の適用を一時停止する効果を持つことはできません。

 こうした反証可能な「雇用推定」の仕組みの結果、EU圏内では、170万人から410万人が労働者に再分類される可能性があると推定されています。一方、一部のプラットフォーム企業がビジネスモデルを調整することにより、「真の自営業者」に変更する可能性もあることになります。
 【透明性・アルゴリズム規制】指令案は、また、デジタル労働プラットフォームによるアルゴリズム管理と労働条件について、その公正性と説明責任を確保するため、人的監視を要件としています。そして、プラットフォームが労務管理に使用するアルゴリズムの透明性を高める規制を導入しています。この自動化された決定に異議を唱える権利が認められることになります。とくに注目されるのは、これらの新たな権利は、労働者だけでなく、真の自営業者にも与えられることです。指令案は、また、プラットフォームが国家当局に対して負う事業者の義務を明確化し、その業務とプラットフォームを通じて働く人々に関する重要な情報を国家当局が利用可能にするよう求めることで、透明性を高める意図も提示しています。これは国境を越えて活動するプラットフォームにも適用されます。こうした明確な基準と共通したEUの規則によって、プラットフォームにとっても法的確実性を高め、訴訟コストを削減し、事業計画を立てすることが容易になるとしています。(EP 2023.6)

 EUプラットフォーム労働指令案、2024.3.11、土壇場で「妥協」成立

 2024年3月11日、EU理事会(European Council)は、「理事会がプラットフォーム労働者労働条件改善のための新たなルールに関する合意」をしたと発表しました。EU理事会では、指令案をめぐって議論が分かれていましたが、2024年2月8日に理事会議長国(ベルギー)と欧州議会の交渉代表の間で成立していたプラットフォーム労働指令に関する暫定合意を確認したということです。

 EUでは、この1年間、議会と理事会の間で意見が大きく分かれたために、議長国を中心に困難な調整作業が続いていました。最大の焦点は、プラットフォーム労働者の「雇用分類」をめぐる問題でした。つまり、大部分のプラットフォーム労働者は、形式的には「自営業者」とされていたために、雇用契約に基づく一般の労働者に適用される労働法や社会保障法上の多くの権利を受けることができません(いわゆる「偽装自営業」問題)。こうした「誤分類」を改めて、正しく労働法等が適用される「雇用労働者」(英語では「employee(従業員)」)に「再分類」することがEU加盟国の大部分に共通する問題意識でした。
 ただ、こうした「雇用上の地位」を正しく改めるために、前記の2021年12月に提示されたEU委員会案(「21年委員会案」)は「5つの基準(指標)のうち2以上を満たした場合に『雇用推定』する」という案でした(詳しくは後述)。この案をめぐってEU内での意見が大きく分かれたのです。そして、EU議会は、2023年2月、この「21年委員会案」では再分類に反対するプラットフォーム企業側に対抗策を許してしまう可能性が大きいとして「5つの基準」抜きの「雇用推定」を定める修正案を可決しました。(etui.2023.2.15EU議会Legislative Train Schedule
 しかし、加盟国の中には、「21年委員会案」に対して「厳しすぎる」「革新的すぎる」という見解をもつ国がありました。また、「再分類」を嫌うプラットフォーム企業(Uberなど)からの多額の資金を投じた執拗な「ロビー活動」が各国政府首脳などを相手に展開されて、このロビー活動の影響を受けた政府首脳もありました(アレン琴子「波紋呼ぶ『Uberファイル』 首脳級巻き込む国家スキャンダル?」参照)。また、EUの労働・社会政策による介入を嫌う保守的な立場の政府も「雇用推定」を定める指令に反対の立場をとっていました。

 こうしたEU議会のより積極的な案に対して、EU理事会はこれを受け入れなかったために、議会と理事会の間の交渉が難航することになったのです。とくに、EU理事会の議長国は、各国持ち回りで半年単位で交代しますが、2023年1月からの議長国スウェーデン(保守政権)は、消極的対応をとりつづけました。そして、EU理事会は、2023年6月、EU議会案とは大きく異なって「21年委員会案」が提示した雇用推定発動のための基準「5つ」から、逆に基準を「7つ」に増やしその3以上を前提にすること、特定の場合には「推定を適用しない裁量」を各国当局に認める条項が追加するという案を決定しました。(EU理事会プレスリリース2023.6.12)この大きく後退した理事会案に対して、EU議会代表やスペインなどからは強い反発の声が上がりました。そして、2023年7月に新たな議長国(スペイン)の仲介で、理事会、委員会、議会の「三者協議」で難しい調整論議が続けられたのです。そして、スペイン議長国の任期が終了する直前の2023年12月13日、この「三者協議」で「暫定合意」案がまとまったのです。この「暫定合意」案は、「雇用推定」については、「21年委員会案」の5基準で2以上を満たす場合の発動を踏襲する一方、プラットフォームがいくつかの種類の個人データを処理することを禁止し、プラットフォームがそのために働く自営業労働者に関する情報を管轄の国家機関および労働者の代表者に伝達することを義務づけています。とくに注目されるのは、プラットフォームは、第三者と契約している労働者を利用することで社会保護に関する規則を回避するために仲介業者を利用することは許されないとしました。こうした「アルゴリズム管理」と「仲介業規制」を導入した点できわめて注目すべき内容でした。(EU理事会プレスリリース2023.12.13
 ところが、これまでEUの社会権をめぐる議論で指導的立場をとっていたフランスとドイツが、この「暫定合意」案を受け入れないという異例の態度を示しました。とくに、フランス(マクロン政権)は、理事会で明確な「反対」の立場を表明し、エストニアとギリシャがそれに同調しました。さらに、社会民主党が多数を占めるドイツ政府が、「連立政府内での合意が困難である」という理由で「棄権」に回りました。その結果、2024年12月22日の理事会で、「暫定合意」案は可決されず、多くの労働組合などの関係者から、とくにフランスとドイツの二国に対して強い批判の声が上がり、また、指令不採択への懸念と失望感が広がったのです。(Braveneweurope2023.12.12

 2024年1月からEU理事会の議長国になったベルギーは、プラットフォーム労働指令の採択のために各国間の調整活動を粘り強く進めました。そして、2024年2月8日に2度目の理事会代表と議会代表の間で「暫定合意」を取り付けることができたのです。しかし、この「暫定合意」に対して、再び、フランスは明確に反対を表明しました。また、ギリシャとエストニアが棄権し、ドイツも棄権の立場を維持したために(2024年2月16日)、再び「暫定合意」は可決されず、最終的な決着が不透明な状況になりました。(Euronews2024.2.18

 そして、EU議会選挙が6月に予定されているために最後の機会として3月11日の各国の雇用・社会問題担当閣僚会議に向けて議長国ベルギーを中心に最後の調整活動が行われ、エストニアとギリシャが賛成へ態度を変えました。フランスとドイツの態度は変わりませんでしたが、2024年3月11日、二度目の「暫定合意」案が理事会の賛成多数で復活することになったのです。

 指令案の基本趣旨

 EU議会は、この結果について、2024年3月19日、次のようなプレスリリースを発表しました。

プラットフォーム労働:雇用上の地位に関するEUの新ルールに初めての青信号が灯る。
 - 偽装自営業を是正するための規定
 - アルゴリズムによる決定に基づいて労働者を解雇することはできない。
 - 労働者のデータ保護が強化される

 火曜日、雇用・社会問題委員会は、プラットフォーム労働者の労働条件を改善することを目的とした新法案に関する政治的合意を承認した。
 2月に議会と理事会で雇用された新ルールは、プラットフォーム労働者の雇用上の地位を正しく分類し、偽装自営業を是正することを目的としている。

 また、EUで初めて、事業場におけるアルゴリズム管理と人工知能の使用を規制する。
 プラットフォーム労働指令に関する暫定合意は、雇用・社会問題委員会で賛成37票、反対3票で採択された。

雇用上の地位
 新法は(自営業とは対照的に)雇用関係の推定を導入しており、国内法や労働協約に従い、EU判例法を考慮した上で、支配や指示を示す事実が存在する場合に発動される。
 この指令は、プラットフォームとプラットフォーム労働を行う者との間の力の不均衡を是正することを目的として、EU諸国に対し、国内レベルで雇用の反証可能な法的推定を確立することを義務付けている。立証責任はプラットフォームにあり、雇用関係がないことを証明するのはプラットフォーム次第ということである。プラットフォームが雇用の推定を覆したい場合、契約関係が雇用関係でないことを証明しなければならない。

アルゴリズム管理に関する新ルール
 新規則は、プラットフォーム労働を行う者が、アルゴリズムや自動意思決定システムによる決定に基づいて契約を終了されたり、解雇されたりすることがないことを保証する。その代わり、プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う者に直接影響を与える重要な決定について、人間による監視を確保しなければならない。

透明性とデータ保護
 指令は、プラットフォーム労働者のデータをより強固に保護するルールを導入する。プラットフォームは、個人的な信条や同僚との個人的なやりとりなど、特定の種類の個人データを処理することが禁止される。
 最後に、プラットフォーム労働者とその代理人に対し、アルゴリズムの仕組みや、労働者の行動が自動システムによる決定にどのような影響を与えるかを通知することを義務づけることで、透明性を向上させている。

引用
 報告者のエリザベッタ・グアルミニ(S&D、IT)は、次のように述べた: 「プラットフォーム労働者に尊厳、保護、権利を与える歴史的な合意である。また、真の自営業者を保護し、不公正な競争を是正・防止し、アルゴリズム管理に関する画期的なルールを導入する。指令に反対するロビー活動は非常に激しかったが、我々はそれを実現した: 欧州は市民、社会モデル、経済を守る。欧州は国際レベルでの労働法のパイオニアである」。

次のステップ
 合意された文書は、4月22~25日の本会議で正式に承認される必要がある。その後、理事会でも正式に採択される必要がある。EU官報への掲載後、加盟国は2年以内に指令の規定を国内法に盛り込む必要がある。

 指令案の最終確定をめぐる各界の反応

 以上のように指令不採択が懸念される中、土壇場で指令採択が確定したことについて、既に各界から様々な反応が出ています。その中で主に労働組合や労働者団体の声を調べて見ました。
 まず、Gig Work Projectの2024年3月14日の記事に、3月11日のEUプラットフォーム労働指令合意に対するプラットフォーム労働者運動の参加組織による声明(英語、フランス語、スペイン語)が掲載されています。長く指令の採択を求めてきたEU諸国のプラットフォーム労働者の団体とその支援組織の連名による声明で、この声明へのさらなる賛同を募っています。(声明文は長文ですので、以下の全文の日本語試訳を参照して下さい。黄色部分をクリックすれば全文を読むことができます)

(試訳)プラットフォーム・ワーカー運動の参加組織による声明(2024.3.14) click here

 プラットフォーム労働者と労働組合の団体で構成される大衆的活動主義による4年間の熾烈な闘いの後、私たちは歴史的勝利を達成した。プラットフォーム労働指令(PWD)は欧州機関の三者協議で交渉され、ギリシャとエストニアの予想外のUターンの後、大方の予想を覆して関係閣僚会議(EPSCO)で受け入れられた。
 PWDは、加盟国に、ほとんどの場合、労働者の権利を持たない自営業者として誤分類されているプラットフォーム労働者について、国内法で雇用の推定を実施するよう強制する。この推定により、労働者は労働時間の設定/固定/保証、給与交渉、有給休暇、休日などの権利を持つことができるようになる。また、団体で闘うための組合結成や団体交渉も可能になる。各国の法律に従い、労働者が「自営業者」であることを証明するのは企業次第となる。これまでは労働者に立証責任があり、労働者は何年もかかる訴訟手続きで偽装自営業者であることを証明しなければならなかった。
 この指令はまた、アルゴリズム管理を規制し、プラットフォームによる自動的な決定から労働者を保護し、他のデジタル保護の中でも労働者の自動監視を禁止している。『Tracking Exposed』によって明らかになったスキャンダルを知れば、この措置は大きな意味を持つ。Glovo社は、労働者がアプリケーションを使用していないときでさえも労働者を監視しており、そのデータを労働者の同意なしに第三者に販売していたのだ。
 私たちの組織は、偽装自営業者モデルを利用したプラットフォームからの詐欺行為と長年闘ってきた。これらの億万長者ロビーが擁護するウーバー化(Uberization)モデルは、雇用モデルを破壊し、社会的対話を妨害しようとしている。
 2月にブリュッセルで開催された『ウーバー化に代わる選択肢』の最後のフォーラムで、私たちは、ウーバー化は配達員や乗客の交通手段だけの問題ではないという事実を主張した。ホテルの客室係、家事労働者、クリックワーカー、清掃員、コンテンツ司会者、さらには教師や心理学者も対象である。このモデルは現在、労働人口の大部分に関係しており、あらゆる労働者を脅かす可能性がある。
 私たちは、労働条件の改善を目の当たりにする労働者と連帯して祝杯を挙げるが、批判的で慎重な姿勢を崩さない。PWDは各国の法律に基づいているため、「ウーバー・ファイル」スキャンダルに見られるように、フランスですでに行われているように、プラットフォーム・ロビーが影響力を行使し、自分たちに有利なように法律を変更する門戸を開いている。私たちは、調査ジャーナリストたちに、ロビーが私たちの権利と民主主義をどのように損ない続けるかについて、私たちに情報を提供し続けることを奨励する。
 PWDは法律を無視した者に対する罰則を定めていない。ベルギーとスペインは悲しいが良い例である。この2カ国には、雇用の推定とアルゴリズムの透明性に関する法律があるが、一部の企業はこの義務に従わず、まったく平然と行動している。これらの法律は、今のところ配達員の具体的な生活に何の変化ももたらしていない。私たちは、こうした企業を管理し、権力を監督するメカニズムを期待している。
 最後になるが、数多くの企業、特にデリバリー・セクターの企業が、不安定な状況にある個人の労働力を搾取することで急成長を遂げている。指令の本文は、多くの場合、非正規/非正規雇用の労働者が長年にわたって行ってきた労働を考慮に入れていない。非正規労働者を正規化することは立法府の責任であると主張する。長年にわたって搾取してきた企業の関与のもとで働くことによって命を危険にさらしてきた(あるいは失ってきた)人々のために、正規化の道を設定することが不可欠である。
 このように、私たちは、待望されていた雇用とアルゴリズム管理権の推定を歓迎するが、各国の法制化という点では企業の次のステップに慎重であり、非正規労働者に関する規制の欠如に批判的であり続ける。さらに、何が「プラットフォーム労働」とみなされるのか、また、例えばコンテンツ・モデレーターやアマゾンの倉庫労働者など、一部の集団が取り残されるのかどうかを確認することを楽しみにしている。もしそうであれば、そのことを指摘するつもりである。
 私たちは、労働者集団、労働組合、活動家、研究者からなる国境を越えた運動として、PWDの実施状況を注視し、企業による私たちの権利の回避に対して(街頭や法廷で)行動を起こす。
何があろうと、闘いは続く

署名
ライダー×デレチョス(スペイン)
ラ・メゾン・デ・ブルール(ベルギー)
ライダーズ・コレクティブ(オーストリア)
労働・アルゴリズム・社会観測所(スペイン)
リーフェランド・ワーカーズ・コレクティブ・ベルリン(ドイツ)
タクシー・プロジェクト(スペイン)
エリートタクシー(スペイン)

  • その他の労働組合・労働者団体としては次のような声明や反応がありました。
    国際労連(ITUC) 2024.3.19 「EU改革: 新しい労働形態における労働組合の権利を一歩前進させる」
     Luc Triangl 書記長 プラットフォーム労働と企業の持続可能性・デューディリジェンスの二つのEU指令について、「これらの指令は、重要なことに、労働者自身が所有し管理する組織として、労働組合の重要な役割を認め、働く人々の声を代弁し、彼らの利益を促進し、彼らの権利を擁護するものである。企業に責任を負わせる新しい指令は、労働者の地位に関係なく、すべての労働者の権利を世界的に尊重する新しい社会契約を求める私たちの要求に合致している。この指令は、プラットフォーム労働者やサプライチェーンで働く労働者を搾取から適切に保護する必要があるという、労働組合が長年にわたって掲げてきた立場を正当化するものである。」
    欧州労連(ETUC)2024.3.11 「プラットフォーム労働:労働組合は数百万人の労働者のために勝利する」
     Ludovic Voet書記 「我々は勝利した。労働組合が変化をもたらした。偽装自営業者のスキャンダルを解決するための解決策がついに打ち出された。本日の決定により、デジタル・プラットフォームを通じて労働する何百万人もの人々が、最低賃金、傷病手当、休日手当、社会保障をだまし取られることがなくなる。これまで労働者と労働組合は、圧力をかけ続けるために徹底的に闘ってきた。我々は、組織化したすべての労働者と、この大勝利をもたらした労働組合を誇りに思う。この種の法律としては世界初となるこの法律を確保するためには、欧州レベルで力を合わせることが極めて重要だった。欧州議会と理事会における労働者の盟友の強力なコミットメントが、この法律を成立させた。加盟国は粘り強く、プラットフォーム企業の煙幕を見破った。今日、彼らは労働者の味方をした。スペインとベルギーの理事会議長国の、この法案を通すという決意に敬意を表する。今こそ各国政府は迅速な実施に備える時である。」
    UNI Europa (サービス産業の労働者700万人を組織するUNI Europa地域組織)
     ORoethig地域書記 「EUプラットフォーム指令は労働者にとって画期的な出来事だ!今、加盟国は、デジタル労働プラットフォームがこれ以上使用者としての責任を回避せず、社会的対話と団体交渉に参加することを保証しなければならない。」
    イタリア労働総同盟(CGIL(Collettiva2024.3.12)
     Nicola Marongiusi さん(CGIL団体交渉・産業労働政策責任者)「ギリシャ、ドイツ、エストニア政府に対する欧州労働組合総連合(EUC)と欧州の諸労働組合組織の啓発行動が良い結果をもたらしたのだから、これは前向きな結果である。各加盟国がプラットフォーム労働者の正しい契約を定める手続きを決定する一方、自営業に分類される労働者の正しくない利用に対抗するため、立法・法的措置の両面から各国間の調整が強化される。今後は、指令の国内法化のタイミングと各国の法制度に与える影響を検証する必要がある。イタリアが賛成票を投じたことは良い兆候である」
    イタリア労働連合(UIL) 2024.3.13 「プラットフォーム指令の保護を強化するよう政府に要請する」
    Tiziana BOCCHI 書記長 「Uilとして、私たちは、国内法化法において政府が指令に規定された保護を強制可能かつ実効性のあるものにするだけでなく、すべてのプラットフォーム労働者のために、明確な法的分類と、欧州の合意によって確立されたものよりも高いレベルの経済的・社会的保護を達成することを視野に入れて、それらを強化することを確保するために全力を尽くす。」
    イタリア労働者組合同盟(CISL) 2024.3.11 「ライダー指令 欧州理事会がプラットフォーム労働者に関する合意を確認したのは良いこと」
     Salvatore Pellecchia Fit-Cisl書記長 「我々は、イタリアがこの指令の国内法化に向けて早急に行動を起こすことを信じているが、同時に、物流・物品輸送・海運に関する全国協約をまだ適用していないすべての企業の積極的な反省を期待する。これらの理由から、私たちは関連する使用者団体に議論を改めて要請するつもりである」
    労働者委員会(CCOO)(スペインの第一ナショナルセンター) 2024.3.12 「デジタルプラットフォーム労働指令に関するEUの合意を歓迎する
CCOO、デジタルプラットフォーム労働指令に関するEUの合意を歓迎する (日本語訳)  Click here

CCOO、デジタルプラットフォーム労働指令に関するEUの合意を歓迎する

12/03/2024

デジタルプラットフォームにおける労働者の雇用
 CCOOにとって、デジタル・プラットフォームに関するEU雇用・社会政策担当閣僚理事会での合意は、業務関連性の推定を認めるものであり、重要な前進である。最終文書が採択されれば、スペインはライダー法で認められた権利をすべてのデジタル・プラットフォームに拡大するため、指令の国内法化を行わなければならない。
 CCOOは、デジタル・プラットフォームで働く何百万人もの人々の権利と労働条件を保証するこの協定の採択を歓迎する。
2021年に社会的対話の文脈で合意されたスペインの先駆的なライダー法を参考に、欧州委員会は同年12月、デジタル・プラットフォームで働く人々の労働条件と社会的権利を改善するための指令案を提示した。
 それ以来、この法律は長く困難な道のりを歩んできた。それぞれのステップの前には、異なる政府、政党、議会グループの間で何度も交渉が行われ、プラットフォーム・ロビーからの強い圧力が伴ったが、これには欧州の労働組合運動が対抗してきた。
幸い、各国ロビーからの圧力は成功せず、昨日、雇用・社会政策担当閣僚理事会(EPSCO)はベルギー議長国から提出された最新の提案をほぼ全会一致で採択した。この合意は4月に欧州議会で承認されなければならないが、これは原則的に法的な措置であり、それ以上の手続きは必要ない。しかし、ロビー団体が行動を起こす最後のチャンスでもあるため、警戒を怠らないようにしなければならない。
 スペイン議長国時代に暫定合意が成立したが、理事会では十分な支持を得られなかった。しかし、情報と協議の権利、労働組合の役割の承認、アルゴリズムによる管理権に関しては参考とされ、昨日の合意でもその文言が維持されている。アルゴリズムや自動化されたシステムに基づいて決定を下すことはできない。人々に直接影響を与える決定については人間の監視が保証される。プラットフォームは、アルゴリズムとその決定が彼らにどのような影響を与えるかについて、労働者とその代表者に通知する義務がある。
さらに、提案されている指令は、国内法、既存の労働協約、欧州の判例法に従い、プラットフォームによる支配と指示を示す事実によって引き起こされる雇用関係の推定を定めている。さらに、そのような雇用関係がないことを証明できるか否かはプラットフォーム次第となる。
 この規制に青信号が灯ることは、対面であれオンラインであれ、あらゆる分野の労働プラットフォームで働く何百万もの人々にとって、従業員の地位が認められ、労働条件が改善されることを意味する。欧州委員会の試算によれば、これは500万人以上の偽装自営業者の再分類を意味する。
 わが国では、欧州指令によって、最終的に承認された指令の国内法化が実施されれば、ライダー法の雇用の推定が他のデジタル・プラットフォームにも適用されることになる。CCOOにとって、この規制は第一歩であったが、我々は常にデジタル経済とプラットフォーム全体に対する規制の枠組みを確保するために努力してきたのである。

 EUプラットフォーム労働指令(最終案)についての所感

 以上、EUのプラットフォーム労働指令案は、このような指令としては異例の長い期間にわたって紆余曲折を経て土壇場で妥協が成立しました。この最終的な確定からまだ10日しか経過していません。情報が少ない中でWeb情報を集めて何とか全体像がぼんやりと浮かんできたところです。
 私は、昨年12月13日、議長国(スペイン)の仲介で「三者協議」を経てようやく「暫定合意」が成立したときに、このテーマでのエッセイを書きかけていました。ところが、フランス、とくにマクロン大統領が強硬な反対の立場を表明しました。また、社会民主党が中心のドイツが棄権の立場をとり続けました。その結果、12月22日の理事会で、「暫定合意」は受け入れられないことになってしまいました。そのために書きかけたエッセイを中断せざるを得なくなっていました。失望感が各界から表明されましたが、私自身も同様でした。とくに、「暫定合意」案が示す条文を読むと日本にとっても参考になることが少なくなかったからです。
 なかでも日本でほとんど議論されていない「アルゴリズム管理」や「仲介業」(違法派遣会社など)の規制は、大きな意味があると思います。ただ、それらについては関連情報を集めることが必要ですので後日の課題としたいと思います。そこで、今回は、「雇用推定」導入に絞って考えて見ました。なお、EUでは、プラットフォーム労働者の団体交渉など集団的な権利は、各国で広く認められ、さらに、2022年9月のEU委員会のガイドラインでEU27ヵ国で認められることになっています。したがって、今回の「雇用推定」導入は、主に個別的な労働法や社会保障法関係に影響を与える問題です。
 日本では、労働法や社会保障法の適用対象である「労働者」の範囲は、その就労の「実態」に基づいて判定することになっています。大学で学び、教えてきた「労働法の基本中の基本」でした。この基本は現在まで変わっていないと思います。
 ところが、現実の労働関係では、労働者と使用者(企業)の間の力関係が余りにも大きいので、使用者(企業)側が故意に「労働者性」を否定したときには、労働法の適用を受けられない「名ばかり自営業(個人事業主)」とされる人は、労働法の適用を実現するのはきわめて困難になります。本来の労働者としての権利を実現するためには、労働組合を通して対抗することが一番現実的です。ところが、日本の場合、数十万、数百万人が加入する「産業別組織」が一般的な欧州の労働組合とは違って、労働組合は「企業別」ですので、大企業でない中小零細企業では労働組合が弱小か、多くの場合、労働組合自体が存在していません。
 労働組合が十分に機能しない場合には、労働基準監督署や職業安定所、社会保険事務所など労働法や社会保障法の適用を企業(事業主)に求めるのが「労働・社会保障行政」です。ところが、1980年代以降、労働・社会保障分野で規制緩和が進み、状況が大きく後退しました。労働・社会保障行政は、法違反が蔓延していても、それを放置するだけでなく、ある段階になると「ここまで違法状態が蔓延したら、厳しい監督・規制は現実的でない」という口実で、「違法状態」を追認し、その違法状態を「合法化」をする立法をすることになったのです。違法な偽装請負の蔓延を放置しておいて、それを追認した1985年「労働者派遣法」は、その典型でした。
 これは、「偽装自営業(個人請負)」による労働法・社会保障法の適用を認めない悪徳使用者(企業)についても、同様でした。労働者派遣法制定と同じ1985年の「労働基準法研究会報告書」が提示した「労働者性判定基準」は、従来の労働者性判定基準を「内勤正社員」をモデルにきわめて狭く限定するものでした。これはその後の「偽装自営業」の広がりを許すことになった点で、まさに「規制緩和」の方向と軌を一にするものでした。
 しかし、世界的には、こうした労働者の権利を狭く限定し、違法・偽装による使用者責任回避の労働慣行を規制する方向に転換したのです。1990年代後半以降、EUやILOでは「非標準雇用」の規制、さらには「ディーセント・ワーク」実現の方向に大きく舵を切ったのです。とくに、2006年のILO「雇用関係」勧告(第198号)は、「偽装雇用」慣行の弊害排除を目指す、画期的な内容を含む重要な国際文書でした。今回のEUプラットフォーム労働指令は、この2006年ILO勧告が示した方向の延長線に位置づけられるものです。同勧告では、契約形式でなく「事実優先」に労働者性を判定することを原則として位置づけました。そして、「雇用推定」による判定方式の選択も推奨しています。今回のEU指令の議論では、「雇用推定」の前提となる基準をめぐって5つないし7つの基準が議論されましたが、ILO勧告では、「一つ以上」の基準での「雇用推定」発動も可能であると示唆しています。
 日本政府は、2006年ILO総会で第198号勧告採択に賛成しました。本来なら、1985年の労働者性判定基準を、この2006年勧告に基づいて見直すことが必要だったと思います。しかし、日本政府は、現在まで、そうした措置をとらずにきました。むしろ、70年以上前の1985年の労働者性判定基準を維持したまま、2023年に「フリーランス法」を制定しました。
 残念ながら、日本の立法・行政では、ILO第198号勧告が示唆する判定基準や「雇用推定」による立証責任の転換の考え方は、受け入れられていません。とくに、集団的な関係でも企業側は「自営業者」であるとして団体交渉に応じない態度をとり続けてきました。この点では労働委員会や裁判を通じて争った結果、団体交渉が実現する可能性があります。しかし、団体交渉実現までに5年もかかったために、その間に労働組合からの脱退する人が多く、組合は力をうしなったという例が少なくありません。その結果、違法な企業側の対応が蔓延する、きわめて不正義・不公正な現実が広がってしまっています。個別関係でも「偽装自営業」を争うのは労働者側に過大な負担を課すことになっています。
 プラットフォーム労働の広がりで、労働法や労働組合の役割が大きかったEUでも、日本の労働者が経験しつづけている問題状況が広がろうとしていました。今回のEUのプラットフォーム労働指令による「雇用推定」の導入は、各国に委ねるという点で当初の案からは後退しましたが、各国は国内法化で「雇用推定」導入を真剣に検討・実現しなければなりません。それによって、これまで蔓延してきた不正義・不公正な労働慣行の広がりを抑制する道を大きく開いた点で画期的な意味をもっていると思います。
 以下、取りそぎ、下記の通り、最終案(英語版)を日本語仮訳してみました。急いで訳したのでまだまだ誤訳やミスがあると思います。引き続き修正を続けています。お気づきのことがあれば、ご指摘いただければ幸いです。

 (参考)EUプラットフォーム労働指令(最終案)条文の日本語仮訳

 前文

 前文は、(1)~(73)の段落に分かれています。以下、10段落毎(最後は、61~73段落)にまとめました。文中の太字(ゴチック)は、訳者が読みやすくするために付けたものです。また、括弧([ ])は、原文にあった注の番号ですが、ここでは省略しました。以下、Clickして訳文を読むことができます、

前文(1)~(10)段落

(1) 欧州連合条約(TEU)第3条に従い、欧州連合の目的は、とりわけ、完全雇用と社会的進歩を目指し、均衡ある経済成長と高度に競争的な社会市場経済に基づいて、欧州の人々の幸福を促進し、欧州の持続可能な発展に努めることである。
(2) 欧州連合基本権憲章(「憲章」)第31条は、すべての労働者が、その健康、安全、尊厳を尊重する公正かつ適正な労働条件を得る権利を規定している。同憲章第27条は、事業所内で情報および協議を受ける労働者の権利を保護する。憲章第8条は、すべての人が自分に関する個人データを保護される権利を有すると規定している。憲章第12条は、すべての人があらゆるレベルにおいて集会および結社の自由に対する権利を有することを規定している。憲章第16条は、事業を行う自由を認めている。憲章第21条は無差別の権利を規定している。
(3) 2017年11月17日にイェーテボリで宣言された欧州社会権の柱(「柱」)の第5原則[4]は、雇用関係の類型や期間にかかわらず、労働者は労働条件、社会的保護へのアクセス、訓練に関して公正かつ平等な待遇を受ける権利を有すること、法律や労働協約に従い、使用者が経済状況の変化に迅速に適応するために必要な柔軟性が確保されることを規定している;質の高い労働条件を確保する革新的な雇用形態を育成し、起業家精神と自営業者を奨励し、職業の流動化を促進し、非典型契約の濫用を禁止するなど、不安定な労働条件につながる雇用関係を防止すること。第7原則は、使用者は雇用関係から生じる権利と義務について雇用開始時に書面で知らされる権利を有し、解雇に先立ち、労働者はその理由を知らされ、合理的な予告期間を与えられる権利を有し、効果的かつ公正な紛争解決にアクセスする権利を有し、不当解雇の場合には適切な補償を含む救済を受ける権利を有すると規定している。柱となる第10原則は、使用者が労働における健康と安全を高水準で保護される権利と、雇用の場において個人データを保護される権利を有することを規定している。2021年5月のポルト社会サミットでは、柱に付随する行動計画[5]を歓迎した。
(4) デジタル化は仕事の世界を変え、生産性を向上させ、柔軟性を高めているが、同時に雇用や労働条件に対するリスクもはらんでいる。自動モニタリングや意思決定システムを含むアルゴリズムベースの技術は、デジタル労働プラットフォームの出現と成長を可能にしている。新しい労働形態のデジタル・インタラクションや仕事の世界における新しいテクノロジーは、適切に規制され、実施されれば、従来そのようなアクセスがなかった人々にも、適正で質の高い仕事にアクセスする機会を創出することができる。しかし、規制がなければ、テクノロジーによる監視を招き、権力の不均衡や意思決定の不透明性を増大させるだけでなく、適正な労働条件、労働における安全衛生、平等な待遇、プライバシーの権利に対するリスクを伴うことになる。
(5) プラットフォーム労働は、顧客にサービスを提供するデジタル労働プラットフォームのデジタルインフラを通じて個人が行うものである。プラットフォーム労働は様々な分野で発生し、デジタル労働プラットフォームの種類、対象分野、実施業務、プラットフォーム労働を行う個人のプロファイルにおいて、高度な異質性を特徴としている。アルゴリズムによって、デジタル労働プラットフォームは、そのビジネスモデルに応じて、業務の遂行、報酬、顧客と業務遂行者の関係を、多少なりとも組織する。プラットフォーム労働は、電子ツールを通じてオンラインのみで行われる場合もあれば(「オンラインプラットフォーム労働」)、オンラインコミュニケーションプロセスとその後の物理的世界での活動を組み合わせたハイブリッドな方法で行われる場合もある(「オンロケーションプラットフォーム労働」)。既存のデジタル労働プラットフォームの多くは、複数の加盟国または国境を越えて活動やビジネスモデルを展開する国際的な事業者である。
(6) プラットフォーム労働は、より簡単に労働市場にアクセスしたり、副次的な活動を通じて追加収入を得たり、労働時間の編成においてある程度の柔軟性を享受したりする業務を提供することができる。また、プラットフォーム労働は急速に進化しており、その結果、新しいビジネスモデルや雇用形態が生まれ、既存の保護制度から逃れられることもある。したがって、契約関係の性質に関係なく、プラットフォーム労働を行う人に対する適切な保護措置をこのプロセスに付随させることが重要である。特に、プラットフォーム労働は労働時間の予測不可能性をもたらし、雇用関係と自営業者の活動、使用者と労働者の責任の境界を曖昧にする可能性がある。雇用上の地位の誤分類は、既存の労働権および社会権へのアクセスを制限する可能性が高いため、雇用された者に結果をもたらす。また、労働者を正しく分類している企業に対して不平等な競争条件をもたらす。加盟国の労使関係制度、課税基盤、社会保護制度の適用範囲と持続可能性に影響を与える。このような課題はプラットフォーム労働よりも広範であるが、プラットフォーム経済においては特に深刻であり、差し迫った課題である。
(7) いくつかの加盟国における裁判例では、特にデジタル労働プラットフォームが一定の指示や支配を及ぼしている分野において、ある種のプラットフォーム労働における雇用上の地位の誤分類が根強く残っていることが示されている。デジタル労働プラットフォームは、そのプラットフォームを通じて労働する者を自営業者として分類することが多い。「独立請負契約者」であっても、多くの裁判所は、プラットフォームが事実上の指揮・統制を行い、その主たる業務活動に組み込んでいると判断している。そのため、これらの裁判所は、自営業者と称される者をプラットフォームに雇用された労働者として再分類している。
(8) アルゴリズムによる自動化された監視・意思決定システムは、仕事の割り振り、個々の割り当ての価格設定、作業日程の決定、指示、遂行された仕事の評価、インセンティブの提供、制裁の賦課など、管理職が通常企業で行う機能をますます代替している。特にデジタル労働プラットフォームは、そのインフラを通じてプラットフォーム労働を組織・管理する標準的な方法として、このようなアルゴリズムシステムを使用している。このようなアルゴリズム管理の対象となるプラットフォーム労働を行っている人は、アルゴリズムがどのように機能するのか、どの個人データが使用されているのか、自分の行動が自動化システムによる決定にどのように影響するのかに関する情報にアクセスできないことが多い。労働者の代表者、プラットフォーム労働を行う者のその他の代表者、労働監督機関およびその他の権限のある機関も、この情報にアクセスできない。さらに、プラットフォーム労働を行う者は、自動システムによって下された決定または支援された決定の理由を知らないことが多く、その決定について説明を受けたり、その決定について担当者と協議したり、異議を申し立てたり、是正や必要に応じて救済を求めたりする可能性がない。
(9) プラットフォームが複数の加盟国で、または国境を越えて運営されている場合、特にオンラインプラットフォーム労働に関しては、プラットフォーム労働がどこで、誰によって行われているかが不明確であることが多い。また、国家当局は、プラットフォーム労働を行う者の数、雇用上の地位、労働条件など、デジタル労働プラットフォームに関するデータに容易にアクセスできない。これは適用される規則の施行を複雑にしている。
(10) 欧州連合全体の労働条件と労働権の最低基準については、さまざまな法的文書が規定している。これには特に、透明で予測可能な労働条件に関する欧州議会および理事会指令(EU)2019/1152、労働時間に関する欧州議会および理事会指令(EC)2003/88/EC[7]、派遣労働に関する欧州議会および理事会指令(EC)2008/104/EC[8]、その他、労働安全衛生、妊娠中の労働者、ワーク・ライフ・バランス、有期労働、パートタイム労働、海外派遣労働者指令などに関する具体的な文書が含まれる。さらに、欧州連合司法裁判所(「司法裁判所」)は、労働者が他の業務を遂行する機会が著しく制限される「待機」時間は、労働時間とみなされるとの判決を下している[9]。欧州議会および理事会指令2002/14/EC[10]は、EU域内の企業または事業所の従業員の情報および協議の権利に関する最低要件を定めた一般的枠組みを確立している。

前文(11)~(20)段落

(11) 労働者と自営業者のための社会保護へのアクセスに関する2019年11月8日の理事会勧告[11]は、加盟国に対し、すべての労働者と自営業者のための社会保護制度の正式かつ効果的な適用、適切性、透明性を確保する措置を講じるよう勧告している。
(12) 欧州議会および理事会規則(EU) 2016/679[12] は、個人データの処理に関する自然人の保護を保証し、特に、自動化された個人の意思決定に関するものを含め、個人データの合法的、公正かつ透明な処理に関する保護措置とともに、一定の権利および義務を規定している。
(13) 欧州議会および理事会の規則(EU)2019/1150[13]は、オンラインプラットフォームの運営者が提供するオンライン仲介サービスを利用するビジネスユーザーの公正性と透明性を促進する。
(14) 既存の連合法は一定の一般的な保護措置を定めているが、プラットフォーム労働における課題には、さらに具体的な措置が必要である。持続可能な方法でプラットフォーム労働の発展を適切に枠組みするためには、プラットフォーム労働に起因する課題に対処するため、プラットフォーム労働者の最低限の権利と、プラットフォーム労働を行う者の個人情報保護を改善するための規則をEU連合が定める必要がある。連合内でプラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位を正しく決定することを容易にする措置を採用するべきであり、国境を越えた状況を含め、プラットフォーム労働に関する透明性を向上させるべきである。さらに、プラットフォーム労働を行う者には、透明性、公正性、説明責任を促進するための権利を提供すべきである。これらの権利は、団体交渉の行使を含め、アルゴリズム管理における労働者の保護と労働条件の改善も目指すべきである。これは、法的確実性を向上させ、デジタル労働プラットフォームとオフラインのサービス提供者の間の公平な競争条件を目指し、連合におけるデジタル労働プラットフォームの持続可能な成長を支援する観点から行われるべきである。
(15) 欧州委員会は、欧州連合機能条約(TFUE)第154条に従い、プラットフォーム労働における労働条件の改善について、社会的パートナーとの2段階協議を実施した。これらの事項に関して交渉に入るという社会的パートナー間の合意はなかった。しかし、自動監視・意思決定システムの利用を含め、プラットフォーム労働の出現に現行の法的枠組みを適応させることによって、この分野でEU連合レベルで行動を起こすことが重要である。
(16) さらに、欧州委員会は、デジタル労働プラットフォーム、プラットフォーム労働を行う者の団体、学界、加盟国、国際機関の専門家、市民社会の代表者など、関連する利害関係者と広範な意見交換を行った。
(17) この指令はプラットフォーム労働者の労働条件を改善し、プラットフォーム労働者の個人情報を保護することを目的としている。両目的は同時に追求され、相互に補強し合い、不可分に結びついているが、一方が他方にとって二の次になることはない。TFEU 第153条(1)項(b)については、本指令は、プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位の正確な決定を支援し、国境を越えた状況を含むプラットフォーム労働の労働条件と透明性を改善すること、およびアルゴリズム管理における労働者の保護を目的とした規則を定めている。TFEU第16条に関して、本指令は、プラットフォーム労働における関連するアルゴリズム管理手続きの透明性、公正性、説明責任を高めることにより、個人データの処理に関するプラットフォーム労働を行う自然人の保護を改善するための規則を制定する。
(18) 本指令は、司法裁判所の判例を考慮した上で、各加盟国で有効な法的効力、労働協約または慣行によって定義される雇用契約または雇用関係を有する、または事実の評価に基づき有するとみなされる、EU連合内でプラットフォーム労働を行う者に適用されるべきである。個人データの処理に関連するアルゴリズム管理に関する規定は、雇用契約または雇用関係を持たないプラットフォーム労働の使用者にも適用されるべきである。
(19) 本指令は、デジタル労働プラットフォームを通じて組織されるプラットフォーム労働が域内で行われることを条件に、その設立地に関係なく、また他に適用される法律に関係なく、すべてのデジタル労働プラットフォームに適用される義務的規則を定めるべきである。
(20) デジタル労働プラットフォームが他のオンラインプラットフォームと異なる点は、自動監視または意思決定システムを使用して、プラットフォームが提供するサービスの受領者の要求に応じて、単発または繰り返し、個人が行う労働を組織する点である。自動化された監視および意思決定システムは、プラットフォーム労働を行う人の個人データを処理し、特に労働条件に影響を与える意思決定を行い、または支援する。これらの特徴により、デジタル労働プラットフォームは、ライドヘイリングや輸送サービス派遣の伝統的な形態のような、より伝統的なサービス提供の組織形態と比較して、独立した専門家によるサービス提供を組織する明確な形態となっている。さらに、デジタル労働プラットフォームの構造的組織における複雑性の増大は、その速いペースでの進化と密接に関係しており、しばしば労働の組織化において「可変性ジオメトリー(variable geometry)」を持つシステムを生み出す。例えば、デジタル労働プラットフォームが、デジタル労働プラットフォーム自体または同じ企業グループ内の別個の事業体を受け手とするサービスを提供する場合や、サービス提供システムにおいて一般的に認識される伝統的なパターンを曖昧にするような方法で労働を組織する場合があり得る。

前文(21)~(30)段落

(21) 個人によって行われる労働の組織化は、最低限、デジタル労働プラットフォームとの契約関係(その名称と性質にかかわらず)を有し、特定の労働の遂行に対応可能(available)な個人による労働の供給と、サービスの需要とのマッチングにおける重要な役割を意味するはずである。これには、支払い処理などの他の業務も含まれる。個人によって行われる労働を組織するのではなく、サービス提供者が労働者に到達するための手段を提供するにすぎないオンラインプラットフォーム。例えば、サービスのオファーや依頼を広告したり、特定の地域で対応可能なサービスプロバイダを集約して表示したりするなど、プラットフォームが関与することなく、エンドユーザーが利用できるものは、デジタル労働プラットフォームとみなされるべきではない。デジタル労働プラットフォームの定義には、短期的な配慮の賃貸など、資産の搾取や共有を主目的とするサービスの提供者や、専門家でない個人が物品を再販できるようにする者、ボランティアの業務を組織する者は含めるべきでない。人や商品の輸送や清掃など、個人によって行われる仕事の組織化が必要かつ不可欠であり、単に些細で純粋に付随的な要素ではないサービスの提供者に限定すべきである。
(22) 労働者代表の取り決めやプロセスは、それぞれの歴史、制度、経済・政治状況を反映して、加盟国によって異なる。十分に機能する社会的対話を可能にする条件の中には、社会的対話に参加するために必要な関連情報にアクセスでき、結社の自由と団体交渉の基本的権利を尊重する強力で独立した労働組合と使用者組織の存在がある。
(23) 現在24の加盟国が批准している国際労働機関(ILO)労働者代表条約第135号(1971年)によると、労働者代表は、労働組合代表、すなわち労働組合または当該組合の組合員によって指名または選出された代表、または被選出代表、すなわち国内法令または労働協約の規定に従って事業 の労働者によって自由に選出された代表であり、その職務に当該国の労働組合の専権事項として認 められている業務を含まない代表のいずれであっても、国内法または慣行に基づいてそのような代表とし て認められた者とすることができる。同条約は、同一の事業において労働組合の代表と選挙で選ばれた代表の両方が存在する場合、その代表は、関係する労働組合またはその代表の立場を損なうために用いてはならず、また、選挙で選ばれた代表と関係する労働組合またはその代表との間の協力を奨励すべきであると述べている。
(24) 加盟国はILO団結権及び団体交渉権条約第98号(1949年)を批准しており、それによると、使用者又は使用者団体の支配下にある労働者団体の設立を促進するために指定された行為、又は使用者又は使用者団体の支配下に当該団体を置く目的で、財政的その他の手段により労働者団体を支援する行為は、ILO加盟国が反対する干渉行為とみなされる。国家は労働者組織を保護する必要がある。本指令に基づく情報・協議の実際的な取り決めを定め、または実施する際に、使用者と労働者の代表が協力の精神をもって、事業または施設と労働者の双方の利益を考慮し、互恵的な権利と義務を十分に考慮して働くことを確保するために、このような行為に対処することが重要である。
(25) プラットフォーム労働を行う者が、デジタル労働プラットフォームと直接の契約関係を持たず、プラットフォーム労働を行う仲介者と関係を持つ場合もある。このようなプラットフォーム労働の組織方法は、下請けチェーンを含む膨大で複雑な複数当事者関係や、デジタル労働プラットフォームと仲介業者間の責任の曖昧さをもたらすことが多い。仲介者を通じてプラットフォーム労働を行う者は、デジタル労働プラットフォームのために直接プラットフォーム労働を行う者と同様に、雇用上の地位の誤分類およびオートメーション監視または意思決定システムの使用に関連するリスクにさらされる。したがって、加盟国は本指令に基づき、デジタル労働プラットフォームと直接契約関係にあるプラットフォーム労働を行う者と同レベルの保護を享受できるようにするため、適切な措置を定めるべきである。加盟国は、適切な場合、連帯責任制度を含む適切なメカニズムを構築すべきである。
(26) プラットフォーム労働における偽装自営業者に対抗し、雇用上の地位の正しい決定を促進するため、加盟国は、プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位の誤分類を防止し、これに対処するための適切な手続きを設けるべきである。これらの手続きの目的は、国内法、労働協約、または司法裁判所の判例を考慮した慣行によって定義された雇用関係の存在を確認し、それによってプラットフォーム労働者が関連する連合法、国内法、労働協約に従って他の労働者と同じ雇用権を完全に享受できるようにすることであるべきである。雇用関係の存在が事実に基づいて立証される場合、使用者として行動する当事者または当事者は明確に特定されるべきであり、活動部門で適用される組合法、国内法、労働協約に基づく対応する使用者の義務を遵守すべきである。
(27) 当事者が使用者であると判明し、指令2008/104/ECによる派遣会社であるという条件を満たす場合、当該指令に基づく諸義務が適用される。
(28) 事実優先の原則とは、雇用関係の有無の判断は、主として実際の雇用関係に関する事実によって導かれるべきであるという意味である。報酬を含む仕事の遂行であって、当事者の説明によるものではない。ILO雇用関係勧告198号(2006年)に従った雇用関係は、契約条件が一方の当事者によって一方的に決定されることが多いプラットフォーム労働の場合に特に関連する。
(29) 国内レベルであれ、国境を越えた状況であれ、自営業者の地位の濫用は、無申告労働と頻繁に関連する 偽装申告労働の形態である。偽装自営業は、雇用関係に特徴的な条件を満たしながら自営業者であると宣言された場合に発生する。このような虚偽の申告は、多くの場合、一定の法的・財政的義務を回避し、法を遵守する企業と比較して競争上の優位性を生み出すために行われる。司法裁判所[14]は、国内法の下で自営業者に分類されても、その独立が単なる仮のものであり、それによって不完全就業関係が偽装されている場合には、その者が連合法の意味において労働者に分類されることを妨げるものではない[15]と判決している。
(30) 雇用上の地位の正しい決定を確保することは、プラットフォーム労働を行う真の自営業者の条件改善を妨げるべきではない。2022年9月30日付の欧州委員会通達は、自営業者の労働条件に関する労働協約への欧州連合競争法の適用に関するガイドラインを含み、欧州委員会によれば、労働条件に関する自営業者とデジタル労働プラットフォームとの間の労働協約はTFEU101条の適用範囲外であることを示している。しかし、そのような労働協約の導入が、本指令が追求する目的、特に雇用上の地位に関してプラットフォーム労働を行う者の正しい分類を損なわないことが極めて重要である。

前文(31)~(40)段落

(31) 例えば、デジタル労働プラットフォームは、直接的な手段だけでなく、制裁措置やその他の形態の不利な扱いや圧力を適用することによっても、指示や統制を行う可能性がある。プラットフォーム労働の文脈では、プラットフォーム労働を行う者が、権限のある機関に対し、契約関係の実態とそこから派生する権利を主張するために必要なツールや情報に適切にアクセスすることが困難な場合が多い。さらに、自動監視および意思決定システムによるプラットフォーム労働者の管理は、デジタル労働プラットフォームからの不透明な情報の流れによって特徴付けられる。プラットフォーム労働のこうした特徴は、偽の自営業者として誤分類される現象を永続させ、その結果、雇用上の地位の正しい決定と、プラットフォーム労働者の適正な生活・労働条件へのアクセスを妨げる。したがって、加盟国は、プラットフォーム労働を行う者が雇用上の地位の正しい決定を確認する際の効果的な手続き上の円滑化を規定する措置を定めるべきである。この観点から、プラットフォーム労働を行う者に有利な雇用の推定は、プラットフォーム労働者の生活・労働条件の改善に大きく貢献する効果的な手段である。したがって、このような関係は、支配と指示を示す事実が発見された場合、司法裁判所の判例を考慮し、加盟国で有効な法的効力、労働協約または慣行によって定義された雇用関係であると法的に推定されるべきである。
(32) 効果的な法的推定には、国内法がプラットフォーム業務を行う者が推定から実際上容易に利益を得るようにすることが必要である。法的推定に基づく要件は負担の大きいものであってはならず、プラットフォーム労働を行う者が、デジタル労働プラットフォームに対する力の不均衡な状況において雇用関係の存在を示す証拠を提出する際の困難を緩和するものでなければならない。推定の目的は、プラットフォーム労働を行う者とデジタル労働プラットフォームとの間の力の不均衡に効果的に対処し、是正することである。法的推定の適用は、プラットフォーム労働を行う者の再分類に自動的につながるべきでない。デジタル労働プラットフォームが法的推定を覆そうとする場合、デジタル労働プラットフォームは、司法裁判所の判例を考慮し、問題の契約関係が加盟国で効力を有する法的効力、労働協約または慣行によって定義される雇用関係ではないことを証明すべきである。
(33) プラットフォーム労働者の雇用関係を正しく決定し、それによって労働者が組合法、国内法および労働協約に由来する関連権利を享受できるようにすることで、プラットフォーム労働者の労働条件を改善するという本指令の目的に沿って、プラットフォーム労働を行っている者の雇用上の地位が問題となるすべての関連行政手続きまたは司法手続きにおいて、法的推定が適用されるべきである。本指令は、税務、刑事および社会保障手続において法的推定を適用する義務を加盟国に課すものではないが、本指令に従い、推定がすべての加盟国で効果的に適用されることが極めて重要である。特に、本指令のいかなる規定も、加盟国が国内法の問題として、当該推定を当該手続き、 またはその他の行政手続きもしくは司法手続きにおいて適用すること、または、推定が適用された 手続きの結果を、他の法律分野に基づいて再分類労働者に権利を提供する目的で承認することを 妨げるものであってはならない。
(34) 法的確実性の観点から、法的推定は遡及的な法的効果を持つべきではなく、したがって、… [本指令の国内法化の日]から始まる期間にのみ適用されるべきである。従って、当該日以前の雇用関係の存在の可能性と、その結果生じる当該日までの権利および義務に関連する雇用法は、本指令より前の国内法および指令(EU)2019/1152を含むEU法に基づいてのみ評価されるべきである。
(35) プラットフォーム労働を行う者とデジタル労働プラットフォームとの関係は、司法裁判所の判例を考慮し、各加盟国の法的効力ある雇用法、労働協約または慣行に定められた定義に従い、雇用関係の要件を満たさない場合がある。加盟国は、前述の定義に基づき、当該関係が雇用関係ではないことを証明することにより、法的推定を覆す可能性を確保すべきである。デジタル労働プラットフォームは、関係の法的性質を決定するすべての事実的要素、特に業務を管理するアルゴリズムを完全に把握している。従って、問題の契約関係が雇用関係ではないことを主張する場合、立証責任はプラットフォームにあるはずである。司法手続きまたは行政手続きにおいて推定に対する反証が成功しても、その後の司法手続きまたは上訴において、国内手続き法に従って推定が適用されることを排除すべきではない。
(36) 支援措置の枠組みを通じて法的推定を効果的に実施することは、すべての関係者にとって法的確実性 と透明性を確保するために不可欠である。そのような措置には、一般市民への包括的な情報の普及、デジタル労働プラットフォーム、プラットフォーム労働を行う者、社会的パートナー、および権限のある国家機関に対する具体的かつ実践的な勧告の形式によるガイダンスの策定、および国内法および慣行に沿った効果的な管理および監督の提供が含まれる。
(37) 加盟国の権限のある国内機関は、プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位の正確な決定を確保するため、特に国内法及び慣行で対応可能な情報交換を含む、加盟国間の協力を利用すべきである。
(38) これらの措置は、司法裁判所の判例を考慮し、当該加盟国で効力を有する法的効力、労働協約または慣行によって定義される雇用関係の存在を正しく決定することを支援するものでなければならず、適切な場合には、真正の自営業者としての分類の確認を含む。国内当局の人員配置を決定する加盟国の権限を強調しつつ、当該当局が本指令の規定を執行する任務を遂行できるようにするためには、十分な人員配置が必要である。そのためには、権限のある国内機関に適切な人的資源が必要であり、必要な技能を有し、適切な訓練を受けることができ、アルゴリズム管理の分野における技術的専門知識の対応可能性(available)を提供する必要がある。ILO労働監督条約第81号(1947年)は、労働監督官の実効的な任務遂行のために十分な数の労働監督官を決定する方法について示している。権限のある国家機関の決定により、プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位が変更された場合、権限のある国家機関は、実施しようとする監督及び取締りを決定する際に考慮すべきである。
(39) 規則(EU)2016/679は、個人データの処理に関する自然人の保護のための一般的な枠組みを確立しているが、プラットフォーム労働の文脈における自動監視または意思決定システムの使用による個人データの処理に関連する懸念に対処する具体的な規則を定めることが必要である。規則(EU)2016/679の第88条は、既に加盟国が雇用の文脈における従業員の個人データ処理に関して、権利と自由の保護を確保するため、法律または労働協約により、より具体的な規則を定めることができると規定している。本指令は、プラットフォーム労働における自動システムによる個人データ処理に関して、より具体的な保護措置を規定することにより、プラットフォーム労働を行う者の個人データのより高度な保護を提供するものである。特に、本指令は、自動化された意思決定の使用と透明性に関して、規則(EU)2016/679に関連するより具体的な規則を定めている。本指令はまた、特に個人データの自動処理によって意思決定が行われ、または支持される場合、その個人データの保護を保護するために、プラットフォーム労働の文脈における規則(EU)2016/679に対する追加措置を定める。その意味で、本指令における個人データの保護に関する用語は、規則(EU)2016/679に定められた定義に照らして理解されるべきである。
(40) 規則(EU)2016/679の第5条、第6条および第9条は、個人データが合法的、公正かつ透明な方法で処理されることを求めている。このことは、デジタル労働プラットフォームが自動監視および意思決定システムによって個人データを処理する方法に一定の制限があることを意味する。それにもかかわらず、プラットフォーム労働の特殊なケースでは、個人データの処理に対するプラットフォーム労働を行う人の同意は、自由に与えられるとは想定できない。プラットフォーム労働を行う者とデジタル労働プラットフォームとの間の力の不均衡を考慮すると、多くの場合、プラットフォーム労働を行う者は、真に自由な選択ができないか、または契約関係を損なうことなく同意を拒否または撤回することができない。したがって、デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う人が個人データの処理に同意したことを根拠として、プラットフォーム労働を行う人の個人データを処理すべきではない。

前文(41)~(50)段落

(41) デジタル労働プラットフォームは、自動監視システム、およびプラットフォーム労働を行う人を支援または影響を与える決定を行うために使用される自動システムによって、プラットフォーム労働を行う人の感情的または心理的状態に関するいかなる個人データも処理してはならず、私的な会話に関するいかなる個人データも処理してはならず、プラットフォーム労働を行う人がプラットフォーム労働を提供または実行していない間にいかなる個人データも収集してはならない、また、人種または民族的出身、移民の地位、政治的意見、宗教的または哲学的信条、障害、慢性疾患またはHIVの状況を含む健康状態、感情的または心理的状態、労働組合への加入、性生活または性的指向を推測するために個人データを処理してはならない。
(42) デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う人のバイオメトリクスデータを、識別、すなわち、その人のバイオメトリクスデータをデータベース内の多数の個人の保存されたバイオメトリクスデータと比較することによってその人の身元を確定すること(1対多の識別)を目的として処理すべきではない。これは、規則(EU)2016/679およびその他の関連するEU法および国内法の下で個人データの当該処理が合法である場合、デジタル労働プラットフォームがバイオメトリクス検証、すなわち、同一人物が以前に提供したデータと本人のバイオメトリクスデータを比較することによる本人確認(1対1の検証または認証)を実施する可能性には影響しない。
(43) バイオメトリクスに基づくデータとは、表情、動作、脈拍数、音声、キーストローク、歩行など、自然人の身体的、生理的、または行動的特徴、信号、または特性に関連する特定の技術的処理から生じる個人データであり、自然人の識別を可能にするか、または確認するかは問わない。
(44) デジタル労働プラットフォームが使用する自動監視および意思決定システムによる個人データの処理は、プラットフォーム労働を行う人の権利および自由に対する高いリスクをもたらす可能性が高い。したがって、デジタル労働プラットフォームは、規則(EU)2016/679の第35条に規定された要件に従って、常にデータ保護影響評価を実施すべきである。自動意思決定システムによる決定がプラットフォーム労働者、特にプラットフォーム労働者に及ぼす影響を考慮し、本指令はデータ保護影響評価の文脈におけるプラットフォーム労働者及びその代表者との協議に関するより具体的な規則を定める。
(45) 規則(EU)2016/679に規定されていることに加え、デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働者の労働を含む、プラットフォーム労働を行う者に影響を与える決定を下す、または支援するために使用される自動監視システムおよび自動システムに関して、透明性および情報提供義務を負うべきである。例えば、労働割り当てへのアクセス、収入、安全および健康、労働時間、昇進またはそれに相当するもの、およびアカウントの制限、停止または終了を含む契約上の地位などである。また、このような自動システムに関してプラットフォーム労働を行う者に提供されるべき情報の種類と、どのような形式で、いつ提供されるべきかを規定すべきである。個々のプラットフォーム労働者は、制度およびその特徴が直接自分自身および該当する場合には労働条件に影響する限りにおいて、効果的に知らされるよう、簡潔かつ単純で理解しやすい形でその情報を受け取るべきである。また、関連するすべてのシステムに関する包括的かつ詳細な情報を要求する権利も有するべきである。このような自動化システムに関する包括的かつ詳細な情報は、プラットフォーム労働を行う者の代表者及び権限のある機関がその機能を行使できるようにするため、その要請に応じて国の権限のある機関にも提供されなければならない。
(46) 規則(EU)2016/679の第20条に従ってデータ主体が管理者に提供した個人データのポータビリティの権利に加えて、プラットフォーム労働を行う者は、デジタル労働プラットフォームの自動監視および意思決定システムの文脈における労働の遂行を通じて生成されたあらゆる個人データ(評価およびレビューを含む)を、支障なく、構造化され、一般的に使用され、機械で読み取り可能な形式で受け取り、別のデジタル労働プラットフォームを含む第三者に送信し、または送信させる権利を有するべきである。デジタル労働プラットフォームは、本指令および規則(EU) 2016/679に基づく権利を行使するために、プラットフォーム労働を行う者に対して、無償で効果的なデータポータビリティを促進するツールを提供すべきである。
(47) 場合によっては、デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う者との関係を正式に終了させないが、プラットフォーム労働を行う者のアカウントを制限する。これは、アカウントへのアクセスまたは作業割り当てへのアクセスを制限することを含め、アカウントを通じてプラットフォーム労働を行う可能性に課されるあらゆる制限として理解される。
(48) デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う人を管理する際に、自動監視または意思決定システムを広範に利用している。電子的手段による監視は侵入的である可能性があり、そのようなシステムによって行われた、または支援された決定、例えば、仕事の割り当ての提供、収入、安全および健康、労働時間、訓練へのアクセス、組織内での昇進または地位、契約上の地位に関する決定は、人間の管理者または監督者と直接接触することがないプラットフォーム労働を行う人に直接影響を与える。したがって、デジタル労働プラットフォームは、人間による監視を確保し、自動監視または意思決定システムによって行われた、またはサポートされた個々の意思決定が、該当する場合、労働条件および労働における平等待遇を含め、プラットフォーム労働を行う人に与える影響の評価を定期的、少なくとも2年ごとに実施すべきである。評価プロセスには、労働者の代表が関与すべきである。
(49) 規則(EU)2016/679は、データ管理者に対し、データ主体の権利と自由および正当な利益を保護するための適切な措置を講じることを求めている。その規定には、最低限、情報主体が管理者側の人的介入を受け、自らの見解を表明し、決定に異議を唱える権利が必要です。アルゴリズム管理の文脈における規則(EU)2016/679に加え、プラットフォーム労働を行っている人の契約関係またはアカウントの制限、停止、終了の決定、または同等の不利益の決定がプラットフォーム労働を行っている人に与える重大な影響を考慮すると、これらの決定は常に人間によって行われるべきである。プラットフォーム労働におけるアルゴリズム管理の文脈における規則(EU)2016/679に加え、プラットフォーム労働を行う者は、自動意思決定システムによって行われた決定、決定の欠如、または該当する場合、サポートされた一連の決定について、デジタル労働プラットフォームから不当に遅延することなく説明を受ける権利を有するべきである。
(50) 理事会指令89/391/EEC16は、使用者に労働安全衛生リスクを評価する義務を課すなど、職場における労働者の安全と健康の改善を奨励する措置を導入し、使用者が実施すべき予防の一般原則を定めている。自動監視・意思決定システムは、プラットフォーム労働者の安全や心身の健康に大きな影響を与える可能性がある。

前文(51)~(60)段落

(51) 指令 2002/14/EC に基づき連合レベルで規制されている労働者代表の情報と協議は、効果的な社会的対話を促進する鍵である。デジタル労働プラットフォームによる自動監視または意思決定システムの導入または使用の大幅な変更は、プラットフォーム労働者の労働組織および個々の労働条件に直接的な影響を及ぼすため、デジタル労働プラットフォームがそのような決定を下す前に、適切なレベルでプラットフォーム労働者の代表者に情報を提供し、効果的に協議することを保証するための追加措置が必要である。アルゴリズム管理システムの技術的な複雑さを考慮すると、プラットフォーム労働者の代表が、必要に応じてプラットフォーム労働者またはその代表によって選ばれた専門家の支援を受けて、協議を準備できるように、情報は適切な時期に提供されるべきである。指令 2002/14/EC に含まれる情報と協議の措置は、本指令の影響を受けないままである。
(52) 労働者代表が不在の場合、自動監視・意思決定システムの導入または大幅な変更について、デジタル労働プラットフォームから労働者に直接通知することが可能でなければならない。
(53) 自営業者は、プラットフォーム労働を行う者の一部を構成する。デジタル労働プラットフォームによって使用される自動監視または意思決定システムが、彼らの個人データの保護および収益機会に与える影響は、プラットフォーム労働者に与える影響と同様である。したがって、アルゴリズム管理における個人データの処理に関連する自然人の保護に関する本指令の権利、すなわち、自動監視または意思決定システムの透明性、個人データの処理または収集の制限、人間による監視および重要な決定の見直しに関する権利は、雇用関係にないプラットフォーム労働を行う者にも適用されるべきである。労働における安全衛生、プラットフォーム労働者またはその代表者の情報および協議に関する権利は、組合法から見て労働者に特有のものであるので、彼ら(自営業者)には適用されるべきではない。規則(EU)2019/1150は、プラットフォーム労働を行う自営業者が同規則の意味において事業の利用者とみなされる限り、公正性と透明性に関する保護装置を提供している。重要な決定の人的レビューに関しては、事業利用者に関しては、規則(EU)2019/1150の特定の規定が優先されるべきである。
(54) 自動化された監視および意思決定システムに関する情報および相談を含むデジタル労働プラットフォームの義務は、自動化された監視および意思決定システムがデジタル労働プラットフォーム自体によって管理されているか、デジタル労働プラットフォームの代わりにデータ処理を行う外部サービス提供者によって管理されているかに関係なく適用される。
(55) 特に、プラットフォーム労働者が労働を行っている加盟国とは別の国に設立されている場合、権限のある国内機関が、デジタル労働プラットフォームが労働法および規制を遵守していることを確認できるようにするため、デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働者が行う労働を、その労働が行われている加盟国の権限ある機関に申告すべきである。国境を越えたレベルを含む体系的で透明性のある情報システムは、デジタル労働プラットフォーム間の不公正な競争を防止するためにも極めて重要である。この義務は、他のEU文書で定められた申告または通知の義務に取って代わるべきものではない。
(56) 特に、関連するEU法の一貫性のある、効率的かつ効果的な適用と執行のために、加盟国間の協力と情報交換を促進し、協調的かつ共同的な労働監督を調整・支援し、国境を越えた労働移動の問題に関する分析とリスク評価を実施し、無申告労働に取り組む加盟国を支援する。そのため、多くのデジタル労働プラットフォームの国境を越えた活動に関連する課題、およびプラットフォーム労働における無申告労働に関連する課題に取り組む上で、重要な役割を担っている。
(57) デジタル労働プラットフォームを通じてプラットフォーム労働を行う者が雇用されたプラットフォーム労働に関する情報、その人数、契約上または雇用上の地位に関する情報、およびそれらの契約関係に適用される一般条件は、関連当局がプラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位を正しく判断し、法的義務の遵守を確保すること、およびプラットフォーム労働者の代表者が代表機能を行使することを支援するために不可欠である。また、これらの当局および代表者は、提供された情報に関する追加的な明確化および詳細をデジタル労働プラットフォームに求める権利を有するべきである。
(58) 配信プラットフォームにおける無申告労働の利用は、いくつかの加盟国で証明されている。この慣行は身分証明書のレンタルを通じて行われており、プラットフォームに登録した労働の権利を持つプラットフォーム労働を行う者が、そのアカウントを不法滞在の移民や未成年にレンタルしている。これは、不法滞在の第三国人を含むこれらの人々に対する保護の欠如を伴い、その状況はしばしば、報復や国外追放のリスクを恐れて司法へのアクセスを制限する結果となる。欧州議会および理事会指令2009/52/EC17 は、不法滞在の第三国人の雇用者に対する制裁および措置に関する最低基準を規定している。この指令に規定されている透明性の義務と仲介業者に関する規則は、指令2009/52/ECとともに、プラットフォーム労働における無申告労働の問題に対処するために強く寄与している。さらに、デジタル労働プラットフォームは以下のことが重要である。プラットフォーム労働者の身元を確実に確認する。
(59) プラットフォーム労働を行う者が適時、効果的かつ公平な紛争解決と、被った損害に対する適切な補償を含む救済を受ける権利を利用できるようにするため、当指令に適用されるべきである。具体的には、効果的な法的保護を受ける権利の基本的性質を考慮し、プラットフォーム労働 を行う者は、本指令に基づく権利侵害の疑いが生じる雇用またはその他の契約関係が終了した 後も、かかる保護を引き続き享受すべきである。
(60) プラットフォーム労働を行う者の代表者は、国内法及び慣行に従い、本指令から生じる権利又は義務のいずれかを行使するための司法又は行政手続において、プラットフォーム労働を行う者 1 人又は数人を代表することができるものとする。プラットフォーム労働を行う複数の者の代理として、または複数の者を支援するために請求を行うことは、手続き上および財政上の障壁、または報復の恐れにより、他の方法では行われなかったであろう手続きを促進する方法である。

前文(61)~(73)段落

(61) プラットフォーム労働の特徴として、プラットフォーム労働を行う者が互いに知り合い、デジタル労働プラットフォームに対する利益を守る観点からも、互いに、またその代表者とコミュニケーションを取ることができる共通の事業場がないことが挙げられる。したがって、デジタル労働プラットフォームの労働組織に沿って、プラットフォーム労働を行う者が互いに個人的かつ安全に連絡を取り合ったり、その代表者から連絡を受けたりできるデジタルコミュニケーションチャネルを構築することが必要である。デジタル労働プラットフォームは、個人データの保護を尊重し、これらの通信にアクセスまたは監視することを控える一方で、デジタルインフラ内または同様の効果的な手段を通じて、そのような通信チャネルを作成すべきである。
(62) プラットフォーム労働を行う者は、苦情に対処できる物理的な事業場がなくても、特に場所での労働において暴力やハラスメントのリスクにさらされている。ハラスメントおよびセクシャルハラスメントは、プラットフォーム労働者の健康および安全に悪影響を及ぼしやすい。プラットフォーム労働に関して、加盟国は効果的な報告チャネルを開始するなどの予防措置を提供すべきである。加盟国はまた、プラットフォーム労働における暴力およびハラスメントと闘う効果的な措置を支援し、特に自営業者のための適切な報告ルートを含めることが奨励される。
(63) 本指令に規定された権利及び義務に関する行政手続又は司法手続において、雇用上の地位の立証を可能にする労働の組織に関する要素、特にデジタル労働プラットフォームが労働の特定の要素を管理し、又は労働の遂行を指示しているかどうか、及び自動監視又は意思決定システムの使用に関するその他の要素は、デジタル労働プラットフォームが所有している場合があり、プラットフォーム労働を行う者及び権限のある機関が容易にアクセスできない場合がある。したがって、各国の裁判所または権限のある機関は、デジタル労働プラットフォームに対し、秘密情報を含め、その管理下にある関連証拠の開示を、当該情報を保護する効果的な措置の下で命じることができるべきである。
(64) 本指令が、プラットフォーム労働を行う者の個人情報の保護を確保するために、プラットフォーム労働に関連する規則(EU)2016/679に関連するより具体的な規則および追加規則を規定していることを考慮すると、規則(EU)2016/679に言及されている各国の監督機関は、これらの保護措置の適用を監視する権限のある機関であるべきである。規則(EU)2016/679の手続き的枠組み、特にその第VI 章、第VII 章および第VIII 章は、本指令のより具体的かつ追加的な規則の施行、特に監督、協力および一貫性のメカニズム、救済、責任および罰則(同規則の第83条(5)に言及される金額を上限とする行政制裁金を課す権限を含む)に関して適用されるべきである。
(65) プラットフォーム労働の文脈で使用される自動監視または意思決定システムは、プラットフォーム労働を行う者の個人データの処理を伴い、プラットフォーム労働者の労働条件および権利に影響を及ぼす。したがって、データ保護監督当局および権限のあるその他の機関は、データ保護監督当局の独立性に影響を与えることなく、関連情報を相互に交換するなどして、国境を越えたレベルも含め、本指令の施行に協力すべきである。
(66) 本指令による保護を有効にするためには、プラットフォーム労働者に関しては解雇から、自営業者に関しては契約解除から、また口座の停止を含む同等の措置から、本指令により付与されたそれぞれの権利を行使するプラットフォーム労働者を保護することが不可欠である。
(67) 本指令の二重の目的、すなわちプラットフォーム労働における労働条件の改善と個人情報の保護は、加盟国によって十分に達成されるものではなく、むしろ共通の最低要件を確立する必要性から、連合レベルでよりよく達成されるため、連合はTEU第5条に定める補完性の原則に従い、措置を採択することができる。同条に定める比例原則に従い、本指令はその目的を達成するために必要な範囲を超えるものではない。
(68) 本指令は最低限の要件を定めているため、プラットフォーム労働を行う者により有利な規定を導入し維持する加盟国の特権はそのまま残されている。本指令によってより有利な規定が導入されない限り、雇用関係の存在を確認する仕組みなど、既存の法的枠組みの下で雇用された権利は引き続き適用されるべきである。本指令の施行は、この分野における既存の連合法または国内法に定められている既存の権利を削減するために使用することはできず、また、代表者に与えられている既存の特権と同様に、本指令の対象分野における保護の一般的レベルを削減するための有効な根拠とすることもできない。
(69) ソーシャル・パートナーの自主性は尊重されるべきである。加盟国は、特定の条件下で、プラットフォーム労働者の全体的な保護を尊重しつつ、特定の規定と異なる労働協約を維持、交渉、締結、実施することをソーシャルパートナーに認めることができるべきである。
(70) 本指令の実施に際し、加盟国は、中小企業(SMEs)の創造と発展を妨げるような形で、不必要な行政的、財政的、法的制約を課すことを避けるべきである。したがって、加盟国は、特に零細企業や行政負担に注意を払いながら、中小企業が不釣り合いな影響を受けないようにするため、国内法化措置が中小企業に与える影響を評価するよう求められている。
(71) 加盟国は、社会的パートナーが共同して要請する場合、および加盟国が本指令のもとで求 められる結果を常に保証できることを確保するために必要なすべての措置を講じることを条件に、本指 令の実施を社会的パートナーに委託することができる。また、加盟国は、国内法および慣行に従い、社会的パートナーが効果的に関与し、本指令の規定の実施を視野に入れた社会的対話を促進・強化するための適切な措置を講じなければならない。
(72) 説明文書に関する加盟国と欧州委員会の2011年9月28日の共同政治宣言(18 )に従い、加盟国は、正当な場合には、移管措置の通知に、指令の構成要素と国内法化手段の対応する部分との関係を説明する1つ以上の文書を添付することを約束した。本指令に関して、立法者はそのような文書の送付を正当なものとみなす。
(73) 欧州データ保護監督当局は、欧州議会および理事会規則(EU)2018/1725の第42条1項[19]に従って諮問を受け、2022年2月2日に意見を発表した[20]、はこの指令を採用している:

 条文

 第1章 総則  第1条 主題と範囲 第2条 定義 第3条 仲介業者

第1条 主題と範囲
 1. この指令の目的は、プラットフォーム労働における労働条件と個人情報の保護を改善することである:
  (a) プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位を正しく判断しやすくするための措置を導入すること;
  (b) プラットフォーム労働におけるアルゴリズム管理の透明性、公正性、人的監視、安全性、説明責任を促進する。
  (c) 国境を越えた状況を含め、プラットフォーム労働の透明性を向上させる。
 2. この指令は、司法裁判所の判例を考慮し、加盟国で施行されている法的効力、労働協約または慣行によって定義される雇用契約または雇用関係にある、または事実の評価に基づき雇用関係にあるとみなされる、連合内でプラットフォーム労働を行うすべての者に適用される最低限の権利を定めるものである。
 本指令はまた、雇用契約または雇用関係にない者を含め、連合内でプラットフォーム労働を行う者に適用されるアルゴリズム管理に関する措置を規定することにより、個人情報の処理に関する自然人の保護を改善するための規則を定めている。
 3. 本指令は、設立地に関係なく、また他に適用される法律に関係なく、連合内で行われるプラットフォーム労働を組織するデジタル労働プラットフォームに適用される。
第2条 定義
 1. 本指令においては、以下の定義が適用されるものとする:
  (1) デジタル労働プラットフォーム」とは、以下の要件をすべて満たすサービスを提供する自然人または法務部門を指す:
   (a) 少なくとも部分的には、ウェブサイトやモバイル・アプリケーションなどの電子的手段を通じて、遠隔地で提供される;
   (b) サービスの受領者の要請により提供される;
   (c) これは、必要かつ本質的な構成要素として、報酬の見返りとして個人が行う仕事の組織化を伴うものであり、その仕事がオンラインで行われるか、特定の場所で行われるかは問わない;
   (d) 自動化された監視または意思決定システムの使用を含む;
  (2) 「プラットフォーム労働」とは、デジタル労働プラットフォームを通じて組織され、デジタル労働プラットフォームまたは仲介業者と個人との間の契約関係に基づいて、個人によって組合内で行われるあらゆる労働をいい、個人または仲介業者とサービスの受領者との間に契約関係が存在するか否かを問わない;
  (3) 「プラットフォーム労働を行う者」とは、契約関係の性質又は関係者による指定にかかわらず、プラットフォーム労働を行う個人をいう;
  (4) 「プラットフォーム労働者」とは、プラットフォーム労働を行う者で、司法裁判所の判例を考慮し、加盟国で有効な法律、労働協約または慣行により定義される雇用契約を有するか、または雇用関係を有するとみなされる者をいう;
  (5) 仲介者」とは、プラットフォーム労働をデジタル労働プラットフォームで対応可能(利用可能)にする目的で、またはデジタル労働プラットフォームを通じて対応可能な自然人または法人をいう:
   (a) 当該デジタル労働プラットフォームおよびプラットフォーム労働を行う者との契約関係を確立する、または
   (b) は、そのデジタル労働プラットフォームとプラットフォーム労働を行う人との間の下請連鎖にある;
 (6) 「労働者代表」とは、国内法および慣行に従い、労働組合やプラットフォーム労働者によって自由に選出された代表など、プラットフォーム労働者の代表を意味する;
 (7) 「プラットフォーム労働を行う者の代表」とは、労働者の代表、及び国内法及び慣行で規定されている限り、プラットフォーム労働者以外のプラットフォーム労働を行う者の代表を意味する;
 (8) 「自動監視システム」とは、電子的手段により、個人データを収集することを含め、プラットフォーム労働を行う者の業務遂行または職場環境内で行われる活動を監視、監督または評価するために使用されるか、またはそれを支援するシステムをいう;
 (9) 「自動意思決定システム」とは、電子的手段を通じて、プラットフォーム労働者の労働条件を含む、プラットフォーム労働を行う者に重大な影響を与える意思決定、特に、採用、労働割り当てへのアクセスおよび組織、個々の割り当ての価格設定を含む収入、安全および健康、労働時間、訓練、昇進またはそれに相当するものへのアクセス、アカウントの制限、停止または解約を含む契約上の地位に影響を与える意思決定を行う、または支援するために使用されるシステムを意味する。
 2. 第1項(1)に定めるデジタル労働プラットフォームの定義には、資産の搾取または共有を主目的とするサービスの提供者、または専門家でない個人に商品の再販を許可するサービスの提供者は含まれないものとする。
第3条 仲介業者
 加盟国は、デジタル労働プラットフォームが仲介者を利用する場合、仲介者と契約関係にあるプラットフォーム労働を行う者が、デジタル労働プラットフォームと直接契約関係にある者と同程度の本指令に基づく保護を享受できるよう、適切な措置を講じるものとする。そのため、加盟国は国内法および慣行に従い、適切なメカニズムを確立するための措置を講じるものとし、これには適切な場合、連帯責任制度が含まれるものとする。

 第2章 雇用上の地位  第4条 雇用上の地位を正しく判断すること 第5条 法的推定 第6条 支援策の枠組み

第4条 雇用上の地位を正しく判断すること。
 1. 加盟国は、第5条に従って雇用関係の推定を適用することを通じ、司法裁判所の判例を考慮しつつ、加盟国において効力を有する法律、労働協約又は慣行により定義される雇用関係の存在を確認することを目的として、プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位を検証し、かつ、その正確な決定を確保するための適切かつ効果的な手続を整備しなければならない。
 2. 雇用関係の存否の判断は、当事者間で合意された契約上の取り決めにおいて雇用関係がどのように分類されているかにかかわらず、プラットフォーム労働の組織における自動監視または意思決定システムの使用を含め、実際の労働の遂行に関する事実によって主に導かれるものとする。
 3. 雇用関係の存在が立証された場合、使用者の義務を負う当事者は、各国の法制度に従って明確に特定されなければならない。
第5条 法的推定
 1. デジタル労働プラットフォームと当該プラットフォームを通じてプラットフォーム労働を行う者との間の契約関係は、加盟国において効力を有する国内法、労働協約または慣行に従い、かつ、司法裁判所の判例を考慮した上で、支配および指揮を示す事実が認められる場合、雇用関係であると法的に推定されるものとする。デジタルレイバープラットフォームが法的推定を覆そうとする場合、デジタル労働プラットフォームは、問題の契約関係が、司法裁判所の判例を考慮した上で、加盟国において効力を有する法的効力、労働協約または慣行によって定義される雇用関係ではないことを証明しなければならない。
 2. そのために、加盟国は、プラットフォーム労働を行う者の利益となる手続き上の円滑化を構成する雇用の効果的な反証可能な法的推定を確立しなければならず、加盟国は、その法的推定が、プラットフォーム労働を行う者またはその代表者の雇用上の地位を確認する手続きにおける要件の負担を増加させる効果を持たないことを確保しなければならない。
 3. この法的推定は、プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位の正しい決定が問題となる、関連するすべての行政手続または司法手続において適用される。法的推定は、租税、刑事および社会保障に関する手続には適用されない。ただし、加盟国は国内法の問題として、これらの手続きに法的推定を適用することができる。
 4. プラットフォーム労働を行う者及び国内法及び慣行に従ってその代表者は、プラットフォーム労働を行う者の正しい雇用地位を確認するために第3項第1号に掲げる手続を開始する権利を有する。
 5. 権限のある機関は、プラットフォーム労働を行う者が誤って分類されている可能性があると考える場合、その者の雇用上の地位を確認するため、国内法及び慣行に従って、適切な措置又は手続を開始しなければならない。
 6. 第29条第1項に定める日以前に締結され、当該日になお継続している契約関係については、本条にいう法的推定は、当該日から開始する期間にのみ適用される。
第6条 支援策の枠組み
 加盟国は、法的推定の効果的な実施と遵守を確保するため、支援措置の枠組みを確立するものとする。特に以下のことを行う:
  (a) デジタル労働プラットフォーム、プラットフォーム労働を行う者、および社会的パートナーが、法的推定を理解し、反証の手続きを含めて実施するための、具体的かつ実践的な勧告の形を含む適切なガイダンスを作成する;
  (b) 雇用上の地位の正しい決定に関する規則を遵守していないデジタル労働プラットフォームを積極的に特定し、標的を定め、追及するために、権限のある国内機関のためのガイダンスを作成し、異なる権限のある国内機関間の協力も含め、国内法および慣行に沿った適切な手順を確立する;
  (c) 特に、権限のある国家機関によりプラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位の存在が確認された特定のデジタル労働プラットフォームについて、適切な場合には、当該管理および検査が比例的かつ非差別的であることを確保しつつ、国家機関により実施される効果的な管理および検査を規定する。
  (d) 権限のある国家機関が(b)に規定される業務を遂行できるよう、権限のある国家機関に対する適切な訓練を提供し、アルゴリズム管理の分野における技術的専門知識の対応可能性を提供すること。 

 第3章 アルゴリズム管理  第7条 自動モニタリングまたは意思決定システムによる個人データ処理の制限 第8条 データ保護影響評価 第9条 自動モニタリングまたは意思決定システムの透明性

第7条 自動モニタリングまたは意思決定システムによる個人データ処理の制限
 1. デジタル労働プラットフォームは、自動化された監視または意思決定システムによって、以下のことを行ってはならない:
  (a) プラットフォーム労働を行う人の感情的または心理的状態に関する個人データを処理すること;
  (b) プラットフォーム労働を行う他の人物およびその代理人とのやり取りを含む、私的な会話に関する個人情報を処理すること;
  (c) プラットフォーム労働を行う者がプラットフォーム労働を提供または実行していない間、個人データを収集すること;
  (d) 基本的権利の行使を予測するために個人データを処理する組合結成の権利、団体交渉や行動の権利、あるいは情報提供や協議を受ける権利など、憲章で定義されている権利を含む;
  (e) 人種または民族的出身、移住の状況、政治的意見、宗教的または哲学的信条、障害、慢性疾患またはHIV感染状態を含む健康状態、感情的または心理的状態、労働組合への加盟、個人の性生活または性的指向を推測するために個人データを処理すること;
  (f) プラットフォーム労働を行う者の、規則(EU)2016/679の第4条(14)に定義されるバイオメトリックデータを処理し、そのデータをデータベースに保存された個人のバイオメトリックデータと比較することにより、その者の身元を確認すること。
 2. 本条 の規定は、募集又は選考手続の開始時から、プラットフォーム労働を行うすべての者に適用さ れる。
 3. 自動監視および意思決定システムに加え、本条は、デジタル労働プラットフォームが、プラットフォーム労働を行う者に何らかの影響を与える意思決定を支援または行う自動システムを使用する場合にも適用される。
第8条 データ保護影響評価
 1. 自動監視および意思決定システムによるデジタル労働プラットフォームによる個人データの処理は、規則(EU)2016/679の第35条(1)の意味において、自然人の権利および自由に対して高いリスクをもたらす可能性が高い処理の一種である。当該規則の第35条(1)に従い、自動監視および意思決定システムによる個人データの処理が、本指令の第7条に定める処理の制限を含め、プラットフォーム労働を行う者の個人データの保護に与える影響の評価を実施する場合、当該規則の第4条(7)に定義される管理者として行動するデジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う者およびその代表者の意見を求めるものとする。
 2. デジタル労働プラットフォームは、労働者代表に評価を提供しなければならない。
第9条 自動モニタリングまたは意思決定システムの透明性
 1. 加盟国は、デジタル労働プラットフォームに対し、自動監視または意思決定システムの使用について、プラットフォーム労働を行う者、プラットフォーム労働者の代表者、および要請に応じて権限のある国内機関に通知するよう求める。その情報には、懸念がある:
  (a) 自動意思決定システムによって支援または実施されるすべての種類の意思決定(かかるシステムが、重要な方法でプラットフォーム労働を行う人に影響を与えない意思決定を支援または実施する場合を含む);
  (b) 自動監視システムに関しては
   (i) そのようなシステムが使用されているか、導入の過程にあるという事実;
   (ii) サービスの受領者による評価を含め、当該システムにより監視、監督または評価されるデータおよび行為のカテゴリー;
   (iii) モニタリングの目的と、それを達成するためのシステムのあり方;
   (iv) 当該システムで処理される個人データの受領者または受領者のカテゴリー、および事業グループ内を含む当該個人データの送信または転送;
  (c) 自動意思決定システムに関して
   (i) そのようなシステムが使用されているか、導入の過程にあるという事実;
   (ii) そのようなシステムによって下される、あるいはサポートされる意思決定のカテゴリー;
   (iii) そのようなシステムが考慮するデータのカテゴリーと主なパラメータ、および自動意思決定におけるそれらの主なパラメータの相対的な重要性(プラットフォーム労働を行う人の個人データや行動が意思決定に影響を与える方法を含む);
   (iv) プラットフォーム労働を行う者のアカウントを制限、停止、または終了する決定、その者が行った労働に対する支払いを拒否する決定、および契約上の地位に関する決定、またはそれと同等もしくは不利な影響を及ぼす決定の根拠。
 2. デジタル労働プラットフォームは、第1項で言及される情報を、電子形式であってもよい書面の形式で提供しなければならない。情報は、明確かつ平易な言語を用いて、透明で分かりやすく、容易にアクセス可能な形式で提示されなければならない。
 3. プラットフォーム労働を行う者は、遅くとも最初の就業日において、労働条件、労働組織又は労働実績の監視に影響を及ぼす変更の導入に先立ち、又は要求があればいつでも、該当する場合には労働条件を含め、直接影響を及ぼすシステム及びその特徴に関する簡潔な情報を受け取らなければならない。また、本人の求めに応じて、関連するすべての制度とその特徴に関する包括的かつ詳細な情報も提供しなければならない。
 4. 労働者代表は、すべての関連制度およびその特徴について、包括的かつ詳細な情報を受け取るものとする。労働者代表は、当該制度の使用前、または労働条件、労働組織、もしくは労働実績の監視に影響を及ぼす変更の導入前、もしくは労働者代表の要請があればいつでも、当該情報を受け取らなければならない。権限のある国家機関は、要請があればいつでも、包括的かつ詳細な情報を受け取らなければならない。
 5. デジタル労働プラットフォームは、採用手続または選考手続を受ける者に対して、第1 項で言及される情報を提供しなければならない。当該情報は、第2 項に従って提供され、簡潔で、当該手続において使用される自動監視または意思決定システ ムにのみ関係するものでなければならず、当該手続の開始前に提供されなければならない。
 6. プラットフォーム労働を行う者は、規則(EU)2016/679に基づくサービスの受領者の権利に悪影響を及ぼすことなく、評価およびレビューを含む、デジタル労働プラットフォームの自動監視および意思決定システムの文脈において、労働の遂行を通じて生成された個人データのポータビリティの権利を有するものとする。デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う者に対し、規則(EU)2016/679第20条および本項前段にいうポータビリティ権の効果的な行使を容易にするためのツールを無償で提供するものとする。プラットフォーム労働を行う者の要請により、デジタル労働プラットフォームは、当該個人データを第三者に直接送信するものとする。

 第3章 アルゴリズム管理  第10条 自動化システムの人間による監視 第11条 人間によるレビュー 第12条 安全衛生 第13条 情報と協議 第14条 労働者の情報 第15条 プラットフォーム労働者の代表以外の、プラットフォーム労働を行う者の代表に関する特別の取り決め

第10条 自動化システムの人間による監視
 1. 加盟国は、デジタル労働プラットフォームが、労働者代表の関与のもと、定期的に、いかなる場合でも2年ごとに、デジタル労働プラットフォームが使用する自動監視および意思決定システムによって行われた、または支援された個々の意思決定が、プラットフォーム労働を行う者に与える影響(該当する場合、労働条件および労働における平等待遇を含む)の評価を実施し、監督することを確保するものとする。
 2. 加盟国は、デジタル労働プラットフォームに対し、自動化された監視または意思決定システムによって行われ、または支援された個々の意思決定の影響を効果的に監視および評価するために、十分な人的資源を確保するよう求めるものとする。デジタル労働プラットフォームにより監視および評価の機能を負わされた者は、自動化された決定を無効にすることを含め、その機能を行使するために必要な権限、訓練および機関を有するものとする。これらの者は、その職務を行使することによる解雇またはこれに準ずるもの、懲戒処分、その他の不利益な取り扱いからの保護を享受するものとする。
 3. 第1項で言及された監督または評価が、自動監視および意思決定システムの使用における労働差別の高いリスクを特定した場合、または自動監視および意思決定システムによって行われた、または支援された個々の決定がプラットフォーム労働を行う者の権利を侵害したことを発見した場合、デジタル労働プラットフォームは、将来そのような決定を回避するために、適切な場合、自動監視および意思決定システムの修正またはその使用の中止を含む必要な措置を講じなければならない。
 4. 第1 項に基づく評価に関する情報は、プラットフォーム労働者の代表者に伝達されるものとする。また、デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う者及び権限のある国家機関の要請に応じて、この情報を対応可能(available)にしなければならない。
 5. プラットフォーム労働を行う者の契約関係もしくはアカウントを制限、停止もしくは解除する決定、または同等の不利益を与えるその他の決定は、人間が行うものとする。
第11条 人間によるレビュー
 1. 加盟国は、プラットフォーム労働を行う者が、自動意思決定システムによって行われた決定または支援された決定について、不当に遅延することなくデジタル労働プラットフォームから説明を受ける権利を有することを確保するものとする。口頭または書面による説明は、明確かつ平易な言語を用いて、透明かつ分かりやすい方法で提示されなければならない。加盟国は、デジタル労働プラットフォームが、プラットフォーム労働を行う者に対し、決定に至った事実、状況および理由を話し合い、明らかにするために、デジタル労働プラットフォームが指定する連絡担当者へのアクセスを提供することを確保しなければならない。デジタル労働プラットフォームは、当該コンタクトパーソンがその機能を行使するために必要な権限、訓練および機関を有することを保証しなければならない。デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働を行う者のアカウントを制限、一時停止または終了するために支持された決定、または該当する場合、自動意思決定システムによって行われた決定、プラットフォーム労働を行う者が行った労働に対する支払いを拒否する決定、プラットフォーム労働を行う者の契約上の地位に関する決定、同様の効果を有する決定、または雇用もしくはその他の契約関係の本質的側面に影響を及ぼすその他の決定の理由を、不当に遅延することなく、遅くとも発効した日に、書面でプラットフォーム労働を行う者に提供するものとする。
 2. プラットフォーム労働を行う者及び国内法又は慣行に従ってプラットフォーム労働を行う者のための代表者は、デジタル労働プラットフォームに対し、第1項にいう決定の見直しを要請する権利を有する。デジタル労働プラットフォームは、当該要請に対し、プラットフォーム労働を行う者に対し、不当に遅延することなく、かつ、いかなる場合にも要請の受領後2週間以内に、電子形式であってもよい書面の形式で、十分に正確かつ十分に立証された回答を提供しなければならない。
 3. 第1項の決定がプラットフォーム労働を行う者の権利を侵害する場合、デジタル労働プラットフォームは、遅滞なく、いかなる場合にも、決定の採択から2週間以内に、当該決定を是正しなければならない。かかる是正が不可能な場合、デジタル労働プラットフォームは、被った損害に対して十分な補償を提供しなければならない。いかなる場合においても、デジタル労働プラットフォームは、将来そのような決定を行わないために、適切な場合、自動意思決定システムの修正またはその使用の中止を含む必要な措置を講じるものとする。
 4. 本条は、国内法および慣行、労働協約に定められた懲戒・解雇手続きには影響しない。
 5. 本条は、規則(EU)2019/1150の第2条(1)に定義される業務利用者でもあるプラットフォーム労働を行う者には適用されない。
第12条 安全衛生
 1. プラットフォーム労働者に関して、労働における安全および保健の分野における理事会指令89/391/EECおよび関連指令に影響を与えることなく、デジタル労働プラットフォームは以下を行うものとする:
  (a) 特に、労働災害、心理社会的リスク、人間工学的リスクの可能性に関して;
  (b) これらのシステムの保護措置が、職場環境の特殊性に鑑みて特定されたリスクに対して適切であるかどうかを評価する;
  (c) 適切な予防・保護措置を導入する。
 2. 本条第1項の要件に関し、デジタル労働プラットフォームは、理事会指令89/391/EECの第10条および第11条に従い、プラットフォーム労働者および/またはその代表者の効果的な情報、協議および参加を確保しなければならない。
 3. デジタル労働プラットフォームは、プラットフォーム労働者に不当な圧力をかけたり、プラットフォーム労働者の安全や心身の健康を危険にさらすような方法で、自動監視システムや意思決定システムを使用してはならない。
 4. 本条は、自動意思決定システムに加え、プラットフォーム労働者に何らかの影響を与える意思決定を支援または行う自動システムを使用する場合にも適用されるものとする。
 5. 暴力およびハラスメントからの保護を含め、プラットフォーム労働者の安全および健康を確保するため、加盟国は、デジタル労働プラットフォームが効果的な報告手段を含む予防措置を講じることを確保しなければならない。
第13条 情報と協議
 1. 本指令は、情報およびコンサルテーションに関する指令89/391/EEC、または指令2002/14/ECおよび2009/38/ECに影響を与えないものとする。
 2. 本条第1項で言及される指令に遵守することに加え、加盟国は、指令2002/14/ECの第2条、ポイント(f)及び(g)で定義されるように、デジタル労働プラットフォームによる労働者代表の情報及び協議が、自動監視又は意思決定システムの導入又は使用の大幅な変更につながる可能性のある決定も対象とすることを保証するものとする。本項の目的上、労働者代表の情報及び協議は、指令2002/14/ECに規定されている情報及び協議権の行使に関する様式と同じ様式の下で実施されるものとする。
 3. プラットフォーム労働者の代表は、情報および協議の対象である事項を検討し、意見を形成するために必要な限りにおいて、選択した専門家の支援を受けることができる。デジタル労働プラットフォームが当該加盟国において250人を超える労働者を有する場合、専門家の費用は、相応のものであることを条件に、デジタル労働プラットフォームが負担するものとする。加盟国は、支援の有効性を確保しつつ、専門家の要請頻度を決定することができる。
第14条 労働者の情報
 プラットフォーム労働者の代表がいない場合、加盟国は、自動監視または意思決定システムの導入または使用の大幅な変更につながる可能性のある決定について、デジタル労働プラットフォームが当該プラットフォーム労働者に直接通知することを確保しなければならない。情報は、電子形式であってもよい書面の形で提供され、明確かつ平易な言語を使用し、透明でわかりやすく、容易にアクセスできる形で提示されなければならない。
第15条 プラットフォーム労働者の代表以外の、プラットフォーム労働を行う者の代表に関する特別の取り決め
 プラットフォーム労働者の代表以外のプラットフォーム労働者労働者の代表者以外のプラットフォーム労働を行う者の代表者は、第8条第2項、第9条第1項および第4項、第10条第4項ならびに第11条第2項に基づき労働者の代表者に与えられる権利を、個人データの保護に関してプラットフォーム労働者ではないプラットフォーム労働を行う者のために行動する限りにおいてのみ、行使することができるものとする。

 第4章 プラットフォーム労働の透明性  第16条 プラットフォーム労働宣言 第17条 プラットフォーム労働に関する関連情報へのアクセス

第16条 プラットフォーム労働宣言
 加盟国は、デジタル労働プラットフォームに対し、当該加盟国の法律に定められた規則および手続きに従い、プラットフォーム労働者が行う労働を、当該労働が行われる加盟国の権限のある機関に申告するよう求めるものとする。
 このことは、国境を越えた状況において加盟国の関連機関に労働を申告しなければならないという、EU法に基づく特定の義務に影響を及ぼすものではない。
第17条 プラットフォーム労働に関する関連情報へのアクセス
 1. 加盟国は、デジタル労働プラットフォームが権限のある機関およびプラットフォーム労働を行う者の代表者が以下の情報を対応可能(available)とすることを保証するものとする:
  (a) 当該デジタル労働プラットフォームを通じてプラットフォーム労働を行っている人の数を、活動のレベルおよび契約上の地位または雇用上の地位別に分類したもの;
  (b) デジタル労働プラットフォームによって決定され、それらの契約関係に適用される一般条件;
  (c) 当該デジタル労働プラットフォームを通じてプラットフォーム労働を定期的に行っている人の平均活動時間、1人当たりの週平均労働時間、平均活動収入;
  (d) デジタル労働プラットフォームが契約関係にある仲介業者。
 2. 加盟国は、デジタル労働プラットフォームが、プラットフォーム労働を行う者が雇用された労働およびその雇用上の地位に関する情報を権限のある国内機関に提供することを確保しなければならない。
 3. 第1項にいう情報は、当該デジタル労働プラットフォームを通じてプラットフォーム労働を行っている者がいる加盟国ごとに提供されなければならない。第1項の(c)については、この情報は要求があった場合にのみ提供されるものとする。情報は、少なくとも6カ月ごとに、また、第1項の(b)については、条件が実質的に変更されるごとに、更新されなければならない。
 4. 第1項に定める権限のある機関およびプラットフォーム労働を行う者の代表者は、雇用契約に関する詳細を含め、提供された情報について追加の説明および詳細をデジタル労働プラットフォームに求める権利を有する。デジタル労働プラットフォームは、不当に遅延することなく、根拠のある回答を提供することにより、当該要請に応じるものとする。
 5. 零細企業、中小企業または中堅企業であるデジタル労働プラットフォームに関して、加盟国は、第3項に従って情報を更新する期間を1年に1回に短縮することを規定することができる。

第5章 救済および執行  第18条 償還を受ける権利 第19条 プラットフォーム労働を行う人に代わって、またはそれを支援するための手続き 第20条 プラットフォーム労働を行う人のためのコミュニケーション・チャンネル 第21条 証拠へのアクセス 第22条 不利な扱いや結果からの保護

第18条 償還を受ける権利
 規則(EU)2016/679の第79条及び第82条に影響を及ぼすことなく、加盟国は雇用又はその他の契約関係が終了した者を含むプラットフォーム労働を行う者が、本指令に起因する権利の侵害の場合、適時、効果的かつ公平な紛争解決及び被った損害に対する適切な補償を含む救済を受ける権利を確保するものとする。
第19条 プラットフォーム労働を行う人に代わって、またはそれを支援するための手続き
 規則(EU) 2016/679の第80条に影響を及ぼすことなく、加盟国は、プラットフォーム労働を行う者の代表者及び国内法又は慣行に従ってプラットフォーム労働を行う者の権利を擁護することに正当な利益を有する法人が、本指令から生じる権利又は義務を行使するために司法手続又は行政手続に関与できることを確保するものとする。これらの法人は、国内法及び慣行に従い、本指令に起因する権利又は義務の侵害があった場合、プラットフォーム労働を行う一人又は数人の代理人として、又は支援者として行動することができる。
第20条 プラットフォーム労働を行う人のためのコミュニケーション・チャンネル
 加盟国は、規制(EU)2016/679に基づく義務を遵守しながら、デジタル労働プラットフォームが、デジタル労働プラットフォームのデジタルインフラまたは同様の効果的な手段を通じて、プラットフォーム労働を行う者が互いに個人的かつ安全に連絡し、通信すること、およびプラットフォーム労働を行う者の代表者と連絡し、または代表者から連絡を受けることの可能性を確保するために必要な措置を講じるものとする。
第21条 証拠へのアクセス
 1. 加盟国は、本指令の規定に関する訴訟手続において、各国の裁判所または権限のある機関が、デジタル労働プラットフォームに対し、その管理下にある関連証拠の開示を命じることができることを確保するものとする。
 2. 加盟国は、秘密情報を含む証拠が訴訟手続に関連すると考えられる場合、国内裁判所がその開示を命じる権限を有することを確保するものとする。加盟国は、そのような情報の開示を命じる場合、そのような情報を保護するための効果的な手段を裁判所が自由に利用できるようにしなければならない。
第22条 不利な扱いや結果からの保護
 加盟国は、プラットフォーム労働を行う者(その代表者を含む)を、デジタル労働プラットフォームによる不利な扱い、およびデジタル労働プラットフォームに申し立てられた苦情に起因する不利な結果、または本指令に規定される権利の遵守を強制する目的で開始された手続きに起因する不利な結果から保護するために必要な措置を導入するものとする。

第5章 救済および執行  第23条 解雇からの保護 第24条 監督および罰則

第23条 解雇からの保護
 1. 加盟国は、本指令に定める権利を行使したことを理由として、プラットフォーム労働を行う者の解雇、契約解除またはこれらに準ずるもの、および解雇、契約解除またはこれらに準ずるもののすべての準備を禁止するために必要な措置を講じるものとする。
 2. 本指令に規定される権利を行使したことを理由に、解雇された、就業契約が解除された、または同等の効果を持つ措置がとられたと考えるプラットフォーム労働を行う者は、デジタル労働プラットフォームに対し、解雇、就業契約の解除、または同等の措置の正当な根拠の提示を求めることができる。デジタル労働プラットフォームは、当該根拠を不当な遅延なく書面で提供しなければならない。
 3. 加盟国は、第2項に規定するプラットフォーム労働を行う者が、裁判所その他の権限のある機関又は団体に対し、当該解雇、契約の解除又は同等の措置があったと推定される事実を立証する場合、当該解雇、契約の解除又は同等の措置が第1項に規定する理由以外の理由に基づくものであることをデジタル労働プラットフォームが立証することを確保するために必要な措置を講じるものとする。
 4. 加盟国は、裁判所その他の権限のある機関または団体が事案の事実を調査する手続には、第3項を適用することを要しない。
 5. 第3項は、加盟国が別段の定めをしない限り、刑事手続には適用されない。
第24条 監督および罰則
 1. 規則(EU) 2016/679 の適用を監視する責任を負う監督当局または当局は、規則(EU)2016/679 の第VI 章、第VII 章および第VIII 章の関連規定に従って、データ保護事項に関する限り、本指令の第7条から第11条の適用を監視し執行する責任も負うものとする。同規則の第83条(5)に言及される行政罰金の上限は、本指令の第7条から第11条の違反に適用されるものとする。
 2. 第1項で言及された権限ある機関及びその他の権限ある国内機関は、特にプラットフォーム労働を行う者に対する自動監視又は意思決定システムの影響に関する疑問が生じた場合、関連する場 合、それぞれの権限のある範囲内で本指令の施行に協力するものとする。そのために、これらの当局は、要請に応じて、または自らの発意により、検査または調査の過程で得られた情報を含む関連情報を相互に交換するものとする。
 3. 権限のある各国機関は、欧州委員会の支援の下、法的推定事項の実施に関する関連情報やベストプラクティスの交換を通じて協力する。
 4. プラットフォーム労働を行う者が、デジタル労働プラットフォームが設立されている加盟国とは異なる加盟国でプラットフォーム労働を行う場合、これらの加盟国の権限のある機関は、本指令を施行する目的で情報を交換するものとする。
 5. 第1項に影響を及ぼすことなく、加盟国は本指令の規定に従って採択された国内規定、または本指令の範囲内である権利に関する既に施行されている関連規定の違反に適用される罰則に関する規則を定めるものとする。罰則は、事業者の違反の性質、重大性、期間、および影響を受ける労働者の数に対して効果的、抑制的、かつ比例的でなければならない。
 6. デジタル労働プラットフォームが、プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位を決定する法的裁定に遵守することを拒否することに関連する違反の場合、加盟国は罰則を規定するものとし、その罰則には金銭的罰則を含めることができる。

第6章 最終規定  第25条 プラットフォーム労働における団体交渉の促進 第26条 非退行とより有利な規定 第27条 情報の発信 第28条 労働協約および個人データ処理に関する特定の規則 第29条 国内法化と実施 第30条 委員会による見直し 第31条 施行 第32条 宛先

第25条 プラットフォーム労働における団体交渉の促進
 加盟国は、社会的パートナーの自主性を損なうことなく、各国の慣行の多様性を考慮し、社会的パートナーの役割を促進し、プラットフォーム労働における団体交渉権の行使を奨励するための適切な措置を講じるものとし、これには、プラットフォーム労働者の正しい雇用地位を確認し、本指令の第III章に定めるアルゴリズム管理に関連する権利の行使を促進するための措置を含む。
第26条 非退行とより有利な規定
 1. 本指令は、プラットフォーム労働を行う者の雇用上の地位を正しく決定するための確立された手続きや、その代表者の既存の特権を含め、加盟国内で既にプラットフォーム労働者に与えられている一般的な保護レベルを低下させる有効な根拠とはならない。
 2. 本指令は、本指令の目的に沿って、プラットフォーム労働者により有利な法律、規制もしくは行政規定を適用もしくは導入すること、またはプラットフォーム労働者により有利な労働協約の適用を奨励もしくは許可することに関する加盟国の特権に影響を及ぼすものではない。
 3. 本指令は、欧州連合のその他の法律によりプラットフォーム労働を行う者に与えられるその他の権利を損なうものではない。
第27条 情報の発信
 加盟国は、本指令を国内法化する措置を、法的推定の適用に関する情報を含め、第1条に定める対象事項に関連する既に施行されている関連法規とともに、中小企業を含むプラットフォーム労働およびデジタル労働プラットフォームを行う者、ならびに一般公衆に周知させるものとする。その情報は、障害者を含め、明確、包括的かつ容易にアクセス可能な方法で提供されなければならない。
第28条 労働協約および個人データ処理に関する特定の規則
 加盟国は、法律又は労働協約により、第26条第1項に従い、第9条、第10条及び第11条に基づくプラットフォーム労働を行う者の個人データの処理に関する権利及び自由の保護を確保するため、より具体的な規則を定めることができる。加盟国は、国内法または慣行に従い、プラットフォーム労働者の全体的な保護を尊重しつつ、第12条および第13条で言及されるものとは異なる、また、第29条第4項に従いその実施をソーシャルパートナーに委託する場合には、第17条で言及されるものとは異なる、プラットフォーム労働に関する取り決めを定める労働協約を、ソーシャルパートナーに維持、交渉、締結および執行することを認めることができる。
第29条 国内法化と実施
 1. 加盟国は、遅くとも… [本指令の発効日から2年後] までに、本指令を遵守するために必要な法律、規制および行政規定を発効させるものとする。遅くとも[本指令の発効日から2年]までに発効させるものとする。加盟国は直ちにその旨を欧州委員会に通知しなければならない。加盟国がこれらの措置を採用する際には、本指令への言及を含むか、または公式発表の際に当該言及を伴うものとする。当該言及の方法は加盟国が定めるものとする。
 2. 加盟国は、本指令の対象となる分野で採択する国内法の主要な措置の本文を欧州委員会に伝達するものとする。
 3. 加盟国は、国内法および慣行に従い、社会的パートナーの効果的な関与を確保し、本指令の実施に向けて社会的対話を促進・強化するための適切な措置を講じるものとする。
 4. 加盟国は、社会的パートナーが共同して要請する場合、および加盟国が本指令のもとで求 められる結果を常に保証できるようあらゆる必要な措置を講じることを条件に、本指令の実施を社 会的パートナーに委託することができる。
第30条 委員会による見直し
 この指令の発効日から5年後]までに[本指令の発効日から 5年間]までに、欧州委員会は、加盟国、連合レベルの社会的パートナーおよび主要な利害関係者と協議した上で、零細・中小企業への影響を考慮し、本指令の実施を見直し、必要に応じて法改正を提案するものとする。かかる見直しにおいて、欧州委員会は、仲介者の使用が本指令の全体的な実施に与える影響、および第5条に従って導入された雇用の反証可能な推定の有効性に特に注意を払うものとする。
第31条 施行
 この指令は、欧州連合官報に掲載された翌日から20日目に発効する。
第32条 宛先
 この指令は加盟国向けである。

 参考情報・文献

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