★バイオレンス映画である。監督はアントワーン・フークア。ニューヨーク・ブルックリンにある低所得者の居住する公営住宅が舞台だ。そこでは麻薬取引や誘拐や殺人が毎日のように起こっている。そこの地域を担当する3人の警官のものがたり。ひとりは定年退職を7日後に控えた警官エディ(リチャード・ギア)、ふたり目は麻薬捜査官サル(イーサン・ホーク)、もうひとりは潜入捜査官のタンゴ(ドン・チードル)が同時進行で描かれていく。
★警官エディはあと7日で定年になる。ただ、ただ、無難に勤めあげてきただけの彼は平巡査のままで終ろうしている。妻とは別居中でひとり暮らし。ときたま通う娼婦とのまぐあいで虚しさを癒す。けれどそれも終わればまた虚しさにつつまれてしまう。ある日、エディは警官詰め所の壁に張ってある行方不明の若い女性の写真が気になる。娼婦とのまぐあいのあと、外へ出たときに無理矢理ワゴン車に乗せられた、あの女性では……と。
★麻薬捜査官のサルは5人の子どもがいる。家は狭く、おまけに壁に発生したカビで双子を妊娠している妻が喘息になってしまい、新居を見つけたものの薄給のために頭金を払うことができない。なんとかしなければと、金の工面に焦る彼は、追い詰められ、狂っていく、そして公営住宅内の麻薬取引所にある大金に目をつける。
★麻薬組織の潜入捜査を続けるタンゴは、長い間、会えないでいる妻に離婚を突きつけられ、精神的にまいってしまい、定期的に連絡をとっている上司(ウィル・パットン)におとり捜査から外してほしいと嘆願するが聞き入れられない。そんな状況のもとでも、タンゴは麻薬組織のボスのキャズ(ウェズリー・スナイプス)とは心を通わせる。しかし、キャズをおとり捜査で逮捕せよと、タンゴは上司から命令され、苦悩する。
★同時進行の物語はラストでそれが結合し発展なければならない。物語の法則がある。小説でいえばアンドレ・ジイドの『法王庁の抜け穴』といったところか。ただ、この映画は最後まで3人が接点をもたないし、絡まない。しかし、場所が接点になる。3人はそれぞれの目的をもっていく場所がある。それは低所得者層の住む公営住宅だ。そこへ行く3人、警官エディの、麻薬捜査官サルの、潜入捜査官サルの、寒々とした心の底にあるもの、それは「貧しさ」ではないか、と思う。映画は目をそむけたくなるような凄絶なシーンが多い。監督のアントワーン・フークアは、寸分の隙もない緊張感に満ちた演出の中に、3人の心の貧困を見事に表現している。フークア監督は2001年に『トレーニング デイ』をつくった。これも悪徳警官の物語だ。主演のデンゼル・ワシントンは本作品でアカデミー主演男優賞を獲得し、イーサン・ホークは助演男優賞にノミネートされている。バイオレンス映画だが、骨のある作品だ。DVDが出ている。
2010/11/11 月藻照之進