ドイツ映画『アイガー北壁』を観る

ドイツ映画『アイガー北壁』を観る
★「極寒のちりもとどめず巌ふすま」《飯田蛇笏(だこつ)》
『アイガー北壁』はこの句と重なる。映画は2人の登山家、トニー・クルツ(ベンノ・フュルマン)とアンディ・ヒンターシュトイサー(フロリアン・ルーカス)がアイガー北壁に挑む物語である。監督はフィリップ・シュテルツェル。実話をもとに作られた。
 アイガー北壁の高さは桁が違う。日本で最も高いのは北アルプスの奥鐘岩壁で500メートルある。登攀は6時間から7時間を要する。アイガー北壁は1800メートルだ。

★物語はベルリンでオリンピック(1936年8月)の直前から始まる。ナチス政権はこのスポーツの祭典を国威発揚の場に利用しようとした。そのため前人未到のアイガー北壁を初登頂した者には「金メダル」を授与すると約束する。トニーとアンディはこれに挑戦し、登攀を開始する。この2人に遅れまいと、2人のオーストリア人(ともにナチス党員)のパーティがあとを追う。第1日目は晴天、快調な登攀が続くかに見えたが、落石によって後続のオーストリア・パーティの1人が頭部に重傷を負う。それでも4人は登り続けた。
 アイガー北壁の麓はリゾート地になっていて、高級ホテルから望遠鏡で2人が登攀するさまが見える。記者や見物客が望遠鏡で4人の登攀の様子を監視し続ける。そんな中に新聞社カメラマンでトニーの元恋人(ヨハンナ・ヴォカレク)のもいた。記者たちは彼らの行動を報道し続ける。ナチス政権の国威発揚のために。
 夜になり4人のクライマーは垂壁の小さなテラスでビバーク(野営)する。蒼い月が美しい。ところが翌朝から天候は急変し、猛吹雪となる……。

★この映画の見どころはなんといっても登攀の場面だ。描写に嘘がない。徹底したリアルさで描く。これまで何本か、山に関係する映画を観た。多くは特撮に頼ってしまっている。映像技術が飛躍的に発達したとはいえ、登攀経験のある僕には、それが「嘘」だと分かって、しらけてしまう。カメラマンが岩壁にしがみつくようにして、命懸けで撮った画面は迫力満点だ。撮影監督コーリャ・ブラントは凄い。

★いま、ドイツ映画が旬だ。作品は濃くて深い。2007年に『善き人のためのソナタ』、2008年に『ヒトラーの贋札』で連続してアカデミー賞外国語映画賞を獲得している。『ヒトラー・最期の12日間』、『白バラの祈り・ゾフィー・ショル最期の日々』、『グッバイ、レーニン!』もいい。それから、かなりマニアックで、なんともいえない気持ちになってしまう、救いようのない作品だが、ミヒャエル・ハネケ監督の『ファニーゲーム』、『ファニーゲームUSA』も。ドイツ映画は、アメリカ映画のようにハッピーエンドというわけにはいかない作品が多いけれど、善きにつけ悪しきにつけ、いつまでも心の底に残ってしまうものが多い。ずれもDVDになっている。          (月藻照之進)

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