『戦火の中へ』/いま、公開された理由は

★韓国映画は濃い。その濃密さが最後まで継続する。そんな映画が多い。ぼくは『殺人の追憶』(2003年、監督・脚本ポン・ジュノ、主演ソン・ガンホ)を観て衝撃を受け、それいらい、これと思う韓国映画は観ている。そして観た映画はすべて予想を裏切らなかった。
★当然、『戦火の中へ』も期待を裏切らなかった。監督はイ・ジェハン、主演はチャ・スンウォン。1950年に北朝鮮軍が韓国に侵攻し、朝鮮戦争が勃発する。映画は、開戦から1ヶ月あまり、北朝鮮軍は首都ソウルを占領し、さらに南下を続け猛攻をかける。劣勢に立たされた韓国軍は、最後の砦である洛東江を守り抜くために、そこへ全兵力を投入しなければならなくなった。命令を受けた大尉は、野戦病院として使用されていた浦項の女学校校舎の守備を、あらたに送られてきた学徒兵に命ずる。なかには学生ではなく、殺人未遂で少年院に収監されていた3人の不良グループも混じっていた。
★71人の学徒も3人以外は、学生からいきなり兵士になり、銃の撃ち方も分からなかった。その3人も、数回戦場に出た経験があるものの、とても戦闘を指揮する力はない。しかし、大尉は、3人のうちのジャンボム(チェ・スンヒョン)に中隊長を無理やりに任命する。物語は、ジャンボムと不良グループのリーダーの対立を軸に進められていく。やがて、北朝鮮軍の精鋭部隊が浦項の女学校の攻撃を開始する。71人はこれに立ち向かうが。
★戦争映画は、スティーブン・スピルバーグが、戦闘シーンの映像を、『プライベイト・ライアン』(1998年)で一変させてしまった。誰もがそのリアルさに息をのんだ。『戦火の中へ』の先頭シーンはそれ以上だった。凄絶である。童顔の少年が次々と銃弾に倒れていく場面に、女性客の中には涙をぬぐう人もいた。主演のチェ・スンヒョンがいい。学生帽を目深に被って、一点を凝視する、その澄んだ瞳は、NHKのドラマ『大地の子』に主演した上川隆也の目とそっくりだった。
★この映画が韓国で大ヒットしたのも記録したのも頷(うなず)ける。しかし、このような映画は北朝鮮との融和を軸としていた前政権のもとだったら、果たして作られていただろうか。なぜこの時期にこのような映画が作られたのだろか、と見終わったあと考えたのは、ぼくだけだっただろうか。
2011年3月5日 月藻照之進

 

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