DVD『素晴らしい一日』/視点の移動の見事さ

 チョン・ドヨンはじつに愛想のわるい女優である。彼女の映画を5本見たが、どの映画でも憮然としていた。相手を睨み「文句があるのか」と目で演技をする。それがじつに上手い。
『素晴らしい一日』は日本の女性作家の短編小説をもとにしている。監督はイ・ユンギ。チョン・ドヨンの相手役はハ・ジョンウ。
冒頭のシーンがいい。長まわしカメラの中でAという人物からBにそしてヒス(チョン・ドヨン)に移って彼女の背中を追ってゆき、駐車場から場外馬券売り場へと、彼女がゆっくりと歩いていくシーンに「なんだろう?」と見入ってしまう。小説でいう視点の移動である。
ヒスはビョンウン(ハ・ジョンウ)を見つけるとものすごい剣幕で「金を返せ」と詰めよる。ビョンウンはヒスの元恋人。彼はヒスから350万ウォン(約35万円)の借金をしたまま姿をくらましていた。ビョンウンはヒスの剣幕に驚くが、すぐに馴れ馴れしい態度で彼女に接し、どれだけ罵倒されても怒らず、ヒスの機嫌をとり続ける。ヒスはそれを撥ねつけ、カネを返せと迫る。ビョンウンにはカネがないため、自分の知り合いの女性を訪ねて金を借りてヒスに返すという。それで彼女の運転する車でビョンウンが知っている女性を訪ねる。尋ね先は、女社長、高級クラブのホステス、婦人警官、エリートサラリーマンの人妻など、おそらく彼はそのほとんどとの女性と関係をしていると思われる。行った先ではヒスが相手の女性との言い争いになったり、2人が偶然出会った夫婦に食事を誘われ、夫が妻の目の前でビョウンウンに「あなたは私の妻と関係を持っただろう」と詰め寄られたり、違法駐車で車をレッカー車で持っていかれたりして、散々な目に遭う。それがゆったりとしたテンポで進んでいく。
ヒスは非正規労働者であり、ビョンウンは事業に失敗した宿無し、ヒスにとっては彼に貸した金は彼女の生活に切実なものだということが分かってくる。そういう韓国の社会状況もチラッと見えた。最後にヒスがシングルマザーに対して優しさを示す場面はちょっと胸が熱くなった(これは見てのお楽しみ)。終わり方が爽やかな映画だった。

2013.8.7 月藻照之進

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