アパレル業界で店員の洋服買い取り、給料天引き

2008/08/04 毎日新聞 働くナビ ◆店員の洋服買い取り、給料天引きは許されるの

 ◇協定なければ不当      ■新作出るたびに
 7月末に廃業したグッドウィルなど日雇い派遣を中心とする人材派遣会社が、「データ装備費」などと称し、派遣社員の賃金から毎回200〜250円を天引きする不当行為をしていたことが社会問題化している。労組などが返還を求め、多くの企業が応じて決着したかにみえたが、アパレル業界で新たな天引き問題が発覚し、業界や同じような立場で働く労働者の間に波紋を広げている。
 問題を提起したのは、個人加盟の労組「神戸地域労働組合」の岩上愛さん(22)だ。岩上さんは映画「下妻物語」で注目を浴びたロリータファッションのブランド店「BABY」の三宮店(神戸市)でアルバイト販売員として働いていた。しかし、昨年12月、管理者による販売員へのいじめや店の管理体制について抗議したことをきっかけに、同僚4人とともに解雇された。撤回を求め労組に加入して団体交渉をする過程で、不当な天引きの実態に気付いた。
 岩上さんたち販売員は、商品をPRするため、店のブランド服を着て勤務する。彼女たちの姿を見て、客は服の良しあしを判断する。いわば動くマネキン、服は制服でもある。新製品が出るたびに新しい服を着るが、この服を強制的に買い取らされ、代金を給与から天引きされていた。
 労働基準法は、賃金からの天引き(控除)が許されるのは税金や社会保険料などだけで、それ以外で控除する場合は、労使で協定を結ばなければならないと定めている。  

 争議を支援する兵庫労連の北島隆事務局次長は「新作が何着も出て、天引き額が15万円近い人もいた。手取りはほとんどなく、何のために働いているのかと思った」と話す。団体交渉で会社側は、天引きの是正や強制があった分の買い戻しなどを約束した。交渉の経過はブログや集会などで報告され、別の会社の販売員から「アパレルで働く人みんなの問題」とのメールが来るなど大きな反響があった。
 さらに、同様の構造は他業界にもあった。バッグやアクセサリーなどの販売員から「身につけた商品を社内販売価格で買い取らされ、給料から天引きされる。もともと高額な商品なので生活できない」との相談が別の組合に寄せられた。

 ■目立つ泣き寝入り

 華やかなブランド店の裏側の厳しい現状について流通関連の労組幹部は「会社は、自社製品が好きで働いているというところにつけ込んでいる。労組がある会社では天引きが不当なことは知られているが、ないところではまかり通っている」と説明する。この幹部によると、会社ともめたくないと泣き寝入りするケースが目立つという。
 岩上さんはアルバイトの地位確認などを求め、神戸地裁に労働審判を申し立てている。BABYは申し立てに「会社の主張は審判で申し上げる」としている。
 岩上さんは「ショップで働く人はアルバイトが多い。でも、アルバイトだから不当に天引きしてよい、アルバイトだから簡単に解雇してよい、とはならない。人の尊厳を傷つけるような扱いには負けられない」と話す。
 岩上さんが抗議行動や集会に参加する時はいつも、ロリータファッションの若い顧客が支援に駆けつける。岩上さんの行動が、働くことについて考えさせるきっかけを若者たちに与えている。【東海林智】

 ◇非正規社員の割合、小規模ほど高く

 総務省の労働力調査によると、パートタイマーや派遣社員、契約社員など非正規社員の割合は、規模が小さい企業ほど高い。07年は、従業員500人以上の30.1%に対し、1〜29人は39.2%。アパレルショップは少人数の店がほとんどだ。

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