毎日社説: 労働者派遣法 不安定雇用を一掃する改正に

2008/08/11 毎日新聞

 派遣で働く労働者を守る制度へと抜本的に改めなければならない。労働者派遣法改正に向けた審議が労働政策審議会の部会で行われている。厚生労働省は9月中に結論を得て、改正案を秋の臨時国会に提出する意向だ。低賃金で不安定な働き方を見直す仕組みがぜひとも必要だ。

 部会では昨年も論議したが、規制強化を求める労働側委員と一層の規制緩和を望む経営側委員の隔たりは大きく、結論に至らなかった。今回は厚労省の有識者研究会がまとめた報告書がベースになる。歩み寄りは簡単ではないだろうが、先送りはもう許されない。

 報告書は「派遣労働者の保護と雇用の安定」を基本に据え、規制強化策を盛り込んだ。背景に違法派遣で廃業したグッドウィルの問題などで批判が高まったことがある。遅ればせながらも、法改正がこれまでの規制緩和の流れから規制強化の方向にかじを切る見通しになったのは評価できる。

 しかし、その中身は、となると、まだ不十分だと言わざるを得ない。

 労働者が派遣元会社に登録し、仕事があれば派遣元と雇用契約を結ぶ登録型派遣のうち、問題が多い日雇い派遣については原則禁止とし、その対象期間は1日だけでなく30日以内としたのが報告書のポイントだ。しかし、これでは30日を1日でも超えていれば良く、その先が見えない不安定雇用であることに変わりはない。登録型派遣そのものを原則禁止としなければ、根本解決にはつながらない。

 報告書が登録型派遣全体を原則禁止としない理由に挙げるのが「こうした働き方を選ぶ労働者もいる」という論理だ。経済界が力説し、一部の新聞なども重視する「派遣労働ニーズ論」である。でも本当にそうなのか。そもそも派遣の有無にかかわらず仕事の全体量は同じであり、派遣労働者のために新しい仕事が用意されるわけではない。

 派遣を望む労働者がいたとしても、それで全体の労働条件低下を招くことは許されない。グッドウィルの派遣で日給7250円で働いていた男性がその会社のアルバイトで直接働くようになり、1万2000円にアップしたという。派遣元が派遣先からマージン(手数料)を得る分、労働者が低賃金を強いられる構図は基本的に見直すべきだ。ハローワークの職業紹介などを充実させる必要もある。

 報告書は、これまで労働者が知ることのできなかったマージンの情報公開を派遣元に義務づけることも提言したが、個別の派遣ごとの公開までは困難と結論づけた。公開によって労働者が派遣元を選びやすくし、賃金などの待遇改善につなげようというなら、個別の公開にまで踏み込むべきではないか。しっかり検討してほしい。

 不安定雇用の一掃と、ワーキングプアの根絶に向けた改正を求めたい。

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