09年問題:派遣「3年ルール」で再び請負 三菱重工相手取り「正社員に」46歳直訴
大手重機メーカー「三菱重工業」の高砂製作所(兵庫県高砂市)で、請負や派遣の労働者として8年半働き続けてきた男性が来月6日、正社員として直接雇用するよう三菱重工に申し入れる。派遣期間が3年を超える場合、メーカーは派遣労働者に直接雇用を申し込む義務が生じるが、同製作所は派遣労働者数百人を期限の09年4月以降、基本的に再度請負に戻す方針だ。3年間ルールにより派遣労働者や期間工が一斉に契約期限の満了となる「09年問題」を抱えるメーカーは多く、1人の労働者が起こす「直訴」は波紋を広げそうだ。【日野行介、樋口岳大】
同県加古川市の派遣労働者、圓山(まるやま)浩典さん(46)。圓山さんは00年5月、請負会社の社員として同製作所内で働き始めた。圓山さんによると、請負会社は独自の工作設備を持たずに労働者を送りこむだけで、作業の指示は三菱重工の社員から受けていた。実質的な派遣労働であることを隠す「偽装請負」の状態が続いていたという。
昨年9月ごろ、圓山さんは職場の従業員名簿が偶然目に入り、自分の名前の横に「労派」と書かれていることに気づいた。不審に思い、請負会社に問い合わせたところ、06年4月から何の説明もないまま身分だけ「派遣」に変えられていたことを知った。請負会社は三菱重工からの指示を受けて派遣業の届け出をしていた。偽装請負が社会問題になる中、正社員化を避けるため、多くのメーカーが取った手法だった。
同製作所が製造する発電用ガスタービンのうち、圓山さんは、高温高圧のガスが通る筒状の金属部品の断面を削って形を整え、すき間なく接合する工程を担当。圓山さんは技術に自信があり、正社員にも教えてきた。
妻と長男、長女の4人家族。8年半同じ仕事をしてきたのに表向き「派遣」に替わっただけで月収は25万円ほど、ボーナスは年間14万円と待遇はほとんど向上していない。三菱重工の正社員との格差は大きい。これまで仕事が減ると非正規労働者が雇い止めされ、職を奪われるのを間近で見てきた。世界的な経済不安が叫ばれる今、圓山さんは「今度は自分が切られるのではないか」とおびえている。
「職を失えば年齢的にも再就職は難しい。正社員として安心して働かせてほしい」。直接雇用を拒否されれば訴訟も辞さない覚悟だ。
三菱重工業高砂製作所は「06年3月以前は偽装請負ではなかったと考えている。09年4月以降については直接の指揮・命令が必要ない業務は適正な請負に切り替えたい。個別の申し入れについては分からない」としている。
毎日新聞 2008年10月25日 大阪夕刊