日本の経済社会のあり方と働き方の討論をさらに拡げよう
――働き方ネット大阪 第14回つどいアピール――
1.3月11日の東日本大震災と最悪の原発災害の発生から3ヵ月余りが過ぎました。6月14日現在の警察庁のまとめでは、死者は1万5429人、行方不明者7781人、家屋の全半壊は19万4389戸に上ります。避難者数は当初の最高44万人から大きく減ったものの、14日現在でなお8万3951人(15日の新たな政府集計では12万4600人)を数えます。
東京電力福島第一原発の災害は、いまだに収束の目途さえ立たず、広範な地域で長期にわたって居住が困難になる事態が引き起こされています。事故処理にあたった作業員のあいだでは、13日までの調査で判明しただけでも、国が引き上げた特例被曝線量(年間)上限の250msv超だった者が8人、事故前の上限であった100msv超の者が102人に上っています。にもかかわらず、東電と政府の対応は、小出し・後出しの情報公開に加えて、万事「後手」続きで拙劣を極め、国民の不安と怒りを呼んでいます。
2.4月15日に「東日本大震災復興構想会議」が発足し、当面の復旧・復興にとどまらず、「現代文明のあり方や日本人の生き方についても考える」ことを課題に議論を始めています。しかし、6月11日に発表された「復興への提言」(骨子)を見る限り、震災を激甚にした従来の経済成長優先戦略には目をつぶっています。原発災害との関連では「再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上」に触れていますが、原発依存からの脱却や、従来のエネルギー多消費型の国土政策の再検討には立ち入っていません。
3.一方、福島で起きている核災害は、世界の脱原発の流れに衝撃的な影響を与えています。スイス政府は5月25日、福島原子力発電所での事故を受けて、既存原発を段階的に廃止し、他のエネルギー源で電力需要を満たしていくことを閣議決定しました。ドイツ政府は、6月6日、2022年までにすべての原発を廃止するための一連の法案を閣議了承しています。また6月13日には、イタリアで原発再開の是非を問う国民投票が行われ、原発反対派の票が9割以上を占めて圧勝しました。日本でも、脱原発の声がうねりのように広がり、原発からの撤退と自然エネルギーへの転換に向けた政治選択の可能性が生まれています。
4.私たちは、こうした情勢の下で、本日、「大討論! これからの日本の経済と社会――大震災後の環境・経済危機をどう乗り越えるか」に集い、森岡孝二氏(関西大学教授・企業社会論)、藤永のぶよ氏(おおさか市民ネットワーク代表)、中山徹氏(奈良女子大学教授・都市計画)の報告を聴くとともに、議論を交わしました。
森岡報告は、「働きすぎをなくして複合危機を乗り越える」と題し、地球環境危機と経済危機を乗り越える鍵を労働時間の短縮に求め、地域や家庭における人々の結びつきの強化と、市場経済の外への経済活動の拡大、さらには小規模生産の振興やシェアリング・エコノミーの発展を通じて、新しい協力・協働・相互扶助の社会システムへ移行する必要性と可能性を述べました。
藤永報告は、「エネルギー・人材浪費社会から低エネルギー・労働が輝く社会へ」と題し、収束の道未だ遠い原発の苛酷な事故現場では、下請け労働者に2000msvの汚泥の中で素足の労働をさせる事態まで起きているような働かせ方を告発するとともに、低エネルギー社会への転換、遠距離・大規模発電から地域の資源を地域で回す地産地消の自然エネルギー発電への移行の必要性を説き、環境・エネルギー・労働者主権の先例としてデンマークを紹介しました。
中山報告は、「新たな大阪の都市像を展望する」と題し、大阪府をはじめとした大半の自治体は都市間競争に勝つことを目標に、相変わらず大型開発を進めようとしているが、今後は、防災、人口減少、高齢化、環境、景観等をキーワードとした新たなまちづくりを展望すべきだという視点から、今後の大阪のまちづくりについて提案し、その方向性を具体的な事例を通じて紹介しました。
その後、3人の報告者の意見だけでなく、参加者の質問を交えて、これからの日本の経済社会のあり方と働き方について熱心な討論が行われました。
5.私たちは、これをステップに大いに議論を興し、環境危機と経済危機を乗り越え、希薄になった人と人とのつながりを取り戻し、人間らしい労働と生活を実現していくことを目指します。
2011年6月15日
働き方ネット大阪 第14回つどい参加者一同