【北海道新聞】 社説
タクシー訴訟 業界の経営環境改善を(2011年8月11日)
札幌のタクシー会社3社の運転手計169人が、それぞれの会社を相手取り、未払い賃金計1億8700万円の支給を求めて札幌地裁などに提訴した。
原告は「客待ち時間の一部を労働時間に算入していない」「給与が最低賃金を下回っていた」などと主張。会社側は「賃金は適正に支払っている」などと反論している。
複数のタクシー会社の運転手が集団訴訟を起こすのは珍しい。
原告側の狙いは、未払い賃金問題を通して、低賃金にあえぐタクシー運転手の労働実態を改善することにある。
運転手の待遇は、安全運行や乗客へのサービスにもかかわるだけに、利用者にとっても無関心ではいられない。裁判の行方に注目したい。
国土交通省や業界は、公共交通の使命を自覚して、運転手が適正な待遇を受けられるよう、引き続き努力してほしい。
札幌圏のタクシー運転手の平均年収は、227万円(2008年度)。道内全産業平均年収の半分にも満たない金額だ。2000年前後よりも80万円近くも減った。
運転手は一家の大黒柱となる中高年の世帯主が多い。業界側もそうした事情を把握しているはずだ。まずは00年の水準まで引き上げられないものだろうか。
低賃金の背景には、小泉純一郎政権時代の規制緩和政策がある。
札幌圏のタクシーは02年から新規参入が事実上自由化され、台数が1割以上増えた。一方、景気の悪化からタクシー会社の収入は2割も減少し、しわよせが運転手の人件費に及んだ。
札幌圏のタクシーは10年に、全車両の1割を減らしたが、業界内にはさらに2割程度の減車が必要との見方が多い。
過当競争を防ぐために、需要に見合った台数とするのは当然だ。だが、減車により収入減となるため、各社とも模様眺めをしているようだ。早急に取り組んでほしい。
ただ、減車しても運転手の長時間労働が常態化していては、待遇改善に結びつかない。
歩合給が基本の給与制度を改め、固定給部分を増やすなど、安定した収入を得られるような賃金体系に変えるべきではないか。
高齢化が進む中、お年寄りの足としても今後、タクシーの役割はますます大きくなる。買い物や通院のため、複数の乗客が相乗りする「乗り合いタクシー」が地方を中心に広がりを見せている。
業界は、利用者のニーズを営業戦略に取り入れながら、健全な経営体質を取り戻してほしい。