遺族年金:「当たり前、認められた」原告の元会社員、笑顔

毎日新聞 2013年11月25日 23時19分

 妻を亡くした男性と夫に先立たれた女性。同じ遺族なのに、なぜ差があるのか。妻の死から15年。素朴な訴えを続けた原告の元会社員(66)=堺市=は、遺族補償年金の男女格差を違憲とした25日の大阪地裁判決に胸をなで下ろした。半世紀前の規定を「今では差別だ」と断じた司法。一般の年金も含めた国の遺族補償制度の在り方が問われている。【服部陽】

 「性別による差別はもはや憲法に違反する」

 25日午後、大阪地裁8階の809号法廷に判決骨子を読み上げる中垣内(なかがいと)健治裁判長の声が響いた。

 緊張した表情だった元会社員は裁判長の言葉にほっとして、隣に座る代理人の弁護士と握手した。判決後、大阪市内で記者会見した元会社員は「一人の市民として『おかしい』と思って起こした裁判。当たり前のことが認められてうれしい」と笑顔を見せた。

 1学年違いの妻(当時51歳)は堺市立中学の教諭だった。1997年、担任のクラスが学級崩壊状態になり、ストレスからうつ病を発症、98年10月に自宅で自殺した。しかし、地方公務員災害補償基金は当初、公務上の災害と認めなかった。

 元会社員は2008年、公務災害の認定を求めて大阪地裁に提訴して勝ち、10年4月、基金側は妻の死を公務災害と認めた。

 しかし、これで終わらなかった。翌月、基金の大阪府支部(大阪市中央区)の職員の言葉にあぜんとした。「遺族補償年金は出ません」

 理由は年齢だった。妻が亡くなった時は51歳。男性の場合、55歳以上でないと支給されないと規定されていることを知った。しかし、夫を亡くした女性に年齢制限はない。

 法律の条文を読んで首をひねった。「化石みたいな法律だ。どうして男女で格差があるのか」。11年10月、今度は年金の支給を求めて提訴した。

 元会社員は妻が死亡した2年後に会社を退職した。基金から年金がもらえず、貯金や退職金を取り崩して生活してきた。

 「妻の働きが十分に評価されていないのではないかとさえ思えた。妻がこの格差を知ったら、残念がったと思う」と語った。

 判決について、代理人の松丸正弁護士は「共働き世帯が増えた社会の常識と、遺族補償年金とのギャップを埋めた」と評価した。民間労働者の遺族補償年金や通常の年金にも同じ格差があることを指摘し、「判決は国や国会に制度見直しを迫っている」と強調した。

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