アスベスト被害「国に責任」初の判断 最高裁、泉南訴訟

朝日デジタル 2014年10月9日

写真:最高裁前で勝訴を伝える泉南アスベスト訴訟の原告団=9日午後、東京都千代田区、井手さゆり撮影(省略)

 大阪府南部・泉南地域のアスベスト(石綿)加工工場の元労働者らが起こした集団訴訟の上告審判決で、最高裁は9日、石綿による健康被害について国の責任を初めて認めた。第一小法廷(白木勇裁判長)は「国が速やかに規制をしなかったのは著しく合理性を欠き違法だ」と判断した。各地で起こされている同様の訴訟にも影響を与える。

 裁判官5人全員一致の意見。原告の元労働者や遺族計89人のうち、82人の救済を国に命じた。

 判決はまず、過去の判例を踏まえ、国の規制が合法か否かを判断する基準として「規制は労働者の生命、身体への危害を防ぎ、健康を確保するため、できる限り速やかに適時・適切に行使されるべきだ」とした。

 そのうえで、石綿をめぐって国が行ってきた規制を検討。国は1971年、工場内の粉じんを取り除く排気装置の設置を義務づけたが、小法廷は「58年には石綿の健康被害は相当深刻だと明らかになっていた一方で、排気装置の設置は有効な防止策になっていた」と指摘。「国は58年ごろ、できるだけ速やかに罰則をもって排気装置の設置を義務づけるべきだったのに、71年まで行使しなかった」と判断した。

 元労働者側は、国が88年までに定めた工場内の粉じん濃度の基準値も不十分だった▽95年の防じんマスクの着用義務化が遅すぎた、と主張したが、これらの争点について小法廷は「国の規制が著しく合理性を欠くとまでは言えない」とした。

 訴訟は「1陣」(原告34人)と「2陣」(同55人)に分かれて提訴。1陣の二審・大阪高裁判決は「厳しすぎる規制は産業社会の発展を阻害する」として国の責任を否定したが、2陣の二審は国の責任を認めた。

 最高裁は、2陣の二審判決について、58〜95年としていた国の責任期間を58〜71年に狭め、就労期間が遅かった1人を除く計54人に計約3億3千万円を支払うよう命じた。国の責任割合は「2分の1」を維持した。1陣の二審判決は破棄し、就労期間が遅かった6人をのぞく28人の勝訴とし、賠償額を算出するために高裁に差し戻した。(西山貴章)

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