夫婦同姓規定、15人中5人「違憲」 最高裁

http://www.asahi.com/articles/DA3S12120528.html
朝日新聞 2015年12月17日

写真・図版:夫婦同姓規定を合憲とした最高裁大法廷の寺田逸郎裁判長(中央)ら裁判官=16日、越田省吾撮影(省略)
 
 姓についての制度のあり方は国会で論じ、判断するものだ――。民法の「夫婦同姓」を合憲とした最高裁大法廷の判決は、「選択的夫婦別姓」を含めた議論を国会に促した。15人の裁判官のうち、3人いる女性全員を含む5人は、違憲だとする意見を述べた。だが、この問題に向き合うべき政治の腰は重い。▼1面参照

 ■「男女平等に根ざさぬ」3女性裁判官 「旧姓の通称使用で緩和」多数意見

 5人の裁判官は、女性の社会進出などの時代の変化を踏まえて、この規定の問題点を指摘した。

 岡部喜代子裁判官は「制定当時は合理性があったが、女性の社会進出は近年著しく進んだ」と指摘。「改姓で個人の特定が困難になる事態が起き、別姓制度の必要性が増している」と述べた。この意見には桜井龍子、鬼丸かおるの2人の女性裁判官も賛同した。桜井氏は旧労働省出身で、官僚時代は旧姓を通称として使用していたが、最高裁判事に就任後、裁判所の決まりに従って戸籍名を使っている。

 10人の裁判官による多数意見が「旧姓の通称使用で緩和できる」としたことに、3人の女性裁判官は反論した。「(改姓が原因で)法律婚をためらう人がいる現在、別姓を全く認めないことに合理性はない」。女性のみが自己喪失感などの負担を負っており、例外規定を認めないことは憲法が保障する「個人の尊重」や「男女の平等」に根ざしていない、と断じた。

 一方、弁護士出身の木内道祥裁判官は「同姓以外を許さないことに合理性があるか」という点から意見を述べた。同姓のメリットとして「夫婦や親子だと印象づける」「夫婦や親子だという実感に資する」などの点がある一方、「同姓でない結婚をした夫婦は破綻(はたん)しやすい、あるいは夫婦間の子の成育がうまくいかなくなるという根拠はない」。例外を許さないのは合理性がない、と結論づけた。

 同じく弁護士出身の山浦善樹裁判官はただ1人、「違憲」とするだけでなく国の損害賠償責任も認めるべきだ、と踏み込んだ。法相の諮問機関「法制審議会」は1996年、選択的夫婦別姓を盛り込んだ民法改正案を示し、国連の女性差別撤廃委員会も2003年以降、繰り返し法改正を勧告してきた。こうした点を挙げ、「規定が憲法違反だったことは明らかだった」と国会の怠慢を指摘した。

 一方で、多数意見は「夫婦同姓は家族を構成する一員であることを対外的に示し、識別する機能がある」「嫡出(ちゃくしゅつ)子が両親双方と同姓であることにも一定の意義がある」などと述べた。

 この意見に賛同した寺田逸郎長官は補足意見の中で、「多様な意見を司法はどこまで受け止めるべきか」を論点にあげた。「選択肢が用意されていないことが不当、という主張について、裁判所が積極的に評価することは難しい」。姓のあり方を考えることは「社会生活への見方を問う、政策的な性格を強めたものにならざるを得ない」からだという。「むしろ国民的議論、民主主義的なプロセスで幅広く検討していくことが、ふさわしい解決だと思える」とした。

 (河原田慎一)

 ■自民、別姓導入後ろ向き

 「姓」のあり方について最高裁から議論をゆだねられた国会だが、自民党は積極的ではない。「選択的夫婦別姓を認めるかについて、国民の中でしっかり議論すべきだということできている。(最高裁裁判官が指摘した)立法の不作為にはあたらない」。自民党の稲田朋美政調会長は16日、記者団にこう強調した。「(議論は)活発にやるべきだと思っている」とも述べたが、見通しは立っていない。

 96年に法制審が選択的夫婦別姓を柱とする民法改正案をまとめるなど、一時は追い風も吹いたが、自民内の議論は進まなかった。「家族の絆が壊れる」「日本の伝統を壊す」といった反発が強かったためだ。

 02年に野田聖子・前総務会長らが中心になって党内に「例外的に夫婦の別姓を実現させる会」を設立。反対派議員が03年の衆院選で数多く落選したこともあり、04年に家庭裁判所が許可した場合だけに認める「例外的夫婦別姓」案を作った。それでも「別姓にしなくても女性の社会進出は進んでいる」などの反対で、案は日の目を見なかった。

 野党だった10年の参院選の党公約には、「民主党の『夫婦別姓制度』には断固反対します」と明記。党の空気は元に戻った。女性の活躍を掲げる安倍晋三首相も「家族のあり方に深く関わるもので、慎重な検討が必要だ」と消極的だ。

 こうした空気を象徴するように、有力な女性議員の間でも認識は食い違う。

 稲田氏は民主党政権時、夫婦別姓反対の「急先鋒(きゅうせんぽう)」として、当時の千葉景子法相を追及。「『夫婦別姓』の問題は、お父さん、お母さんの一方と子どもの名前が違う『親子別姓』の問題である」と主張した。

 高市早苗総務相も、過去に国会で選択的夫婦別姓を議論した際に「家族の絆が大切な価値だ」などとして反対を表明している。朝日新聞の取材に「別姓を認めると、両親のどちらかと子の氏が違う状態を作る」と語った。

 一方、野田氏は11月のTBSの番組で「(別姓反対論者は)子どもがかわいそうなどというが、夫婦が違う名字を使っていても子どもはしっかり育てられる」と主張した。個々の家族観に関わるだけに、合意形成は難しいのが実情だ。

 自民と連立を組む公明党は01年には選択的夫婦別姓導入の民法改正案を国会に提出したこともある。だが、自民を積極的に説得する様子はみられない。

 野党側は夫婦別姓の導入に積極的だ。

 民主党は今年6月に選択的夫婦別姓を認める改正法案を提出した。通称名を使う蓮舫・代表代行は16日、記者団に「時代の要請に応じて当然変えるべきものだ」と述べた。共産党の穀田恵二国会対策委員長も16日、「不当な判決だ。一刻も早く(夫婦別姓を)実現したい」と語った。

 最高裁判決では、夫婦別姓について「社会の受け止め方に依拠するところが少なくなく、国会で論ぜられるべき事柄である」と指摘した。実際、朝日新聞が11月7、8日に行った全国世論調査(電話)では、選択的夫婦別姓について「賛成」は52%で、「反対」の34%を上回っており、こうした世論と国会の動きがねじれているのが実情だ。

 (岡村夏樹)

 ■<解説>「司法の限界」解決は国会で

 明治時代から続く結婚をめぐる規定を、時代の変化に照らして変えるべきか。最高裁は、たなざらしを続けてきた国会に一石を投じるにとどまった。

 改姓により個人の信用や評価などで不利益を受ける人の増加を指摘しながら、夫婦同姓はなお合理的だとした。「女性のアイデンティティーの喪失感」にも理解を示したが、旧姓の通称使用で緩和できるとした。

 これに対し、女性裁判官たちは少数意見で「同姓の不利益を避けるために事実婚を選ぶ人がおり、結婚の自由を制約している」と異論を呈した。しかも事実婚では、親権や相続などで不利益を受けるが、判決はそれには言及しなかった。

 「再婚禁止期間」も違憲としたのは民法の別規定と整合性が取れない「100日を超える期間」だけ。国際的には廃止が主流だが、無戸籍児問題の解決や女性差別をなくす道筋を示したとまでは言えない。

 「選択肢がない不合理を裁判の枠内で見いだすのは困難。国民的議論での解決がふさわしい」と寺田長官は「司法の限界」をにじませた。国会がどう受け止めるかが問われている。

 (河原田慎一)

 ■多様な家族、国会議論を

 元最高裁判事の宮川光治弁護士の話 判決は、氏名は人が個人として尊重される基礎であり人格の象徴だと指摘している。ならば、結婚による氏の変更の強制は、個人の尊厳をおかす可能性があると考えるべきだ。少数ではあっても、人格的価値に深い喪失感を抱く人がおり、そのことの評価が軽きに過ぎるのではないか。個人の尊厳を基礎に多様な家族のあり方を認めることは成熟社会に不可欠だ。こうした視野を持って、国会では選択的別姓を認める方向で議論してほしい。一方、再婚禁止期間は世界では廃止が趨勢(すうせい)だ。
 

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