電通 社長辞意 悲しい事態招いた 「経営側、策足りず」 過重労働増認める

毎日新聞2016年12月29日 東京朝刊
http://mainichi.jp/articles/20161229/ddm/041/020/077000c
 
 新入社員の高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺を巡って厚生労働省東京労働局が当時の上司と法人としての電通を書類送検した28日、電通の石井直(ただし)社長は辞任の意向を表明した。「社員が亡くなるという悲しい事態を招いた。心よりおわび申し上げる」。石井社長は陳謝し、再発防止への決意を口にしたが、役員ら上層部への労働局の捜査は来年も続く。広告業界トップ企業の動揺は収まらない。

 「高橋まつりさんのご冥福を祈るとともに、心よりおわび申し上げる」。険しい表情で東京都内の記者会見場に姿を見せた石井社長は冒頭に陳謝し、約5秒間、頭を下げた。

 その後、会見に同席した中本祥一副社長が社員の終業時間と退社時間に1時間以上の差があった件数が月間平均で2013年に5626件▽14年に6716件▽15年に8222件−−と増加していたことなど、社内の長時間労働の実態について説明した。

 石井社長が引責辞任に言及したのはこの後。立ち上がって「社員が過重労働で亡くなったことは決してあってはならない。深く責任を感じ、1月の取締役会で辞任したい」と述べた。

 辞任については「ここ数日間、ずっと考えていたが、25日にご遺族へ直接謝罪することがかない、本日の書類送検を受けて決断した」と説明した。

 一連の長時間労働問題について石井社長が記者会見するのは今回が初めて。「会見が遅すぎたのでは」との質問には「遺族への謝罪と、当局の処分結果を待ってから会見した。遅かったとの認識はございません」と答えた。

 中本副社長は高橋さんの上司が明け方に高橋さんにメールで仕事の指示をしたことなどを明らかにしたうえで「具体的には明らかにできないが、ものの言い方などが高橋さんにとって精神的に重荷になった」と指摘。石井社長は「業務に不慣れな人にハードルの高い指示をするのは良くない。総合的にパワハラと言われてもやむを得ない」と説明した。

 更に石井社長は「社員は結果を出して社会に貢献すると信じて働いているが、そのことと心身のバランスを取ることに経営側として策が足りなかった」と釈明。電通の企業風土を「120%の成果を求めるというところ、仕事を断らないという矜持(きょうじ)もあったと思う。それ自体は否定すべきものではない」とした上で「問題は程度だ。歯止めがかけられなかった点に経営者として責任があった」と語った。

 社員手帳に載せていた社員心得で「取り組んだら放すな、殺されても放すな」などと記された「鬼十則」について、石井社長は「疑問に思うことはなかった。外部の指摘を受けて誤解を招く、時代と合わない部分があったと認識している」と述べた。

 今後の再発防止については「企業風土の再点検に臨む。社員からの意見を入れて磨き上げ、悲劇が二度と起こらないように社員と一緒につくりあげていきたい」と誓った。【近松仁太郎、伊澤拓也】
執行役員ら処分へ

 電通は28日、高橋さんの過労自殺など一連の問題の責任を明確化するため、来年1月の取締役会で執行役員を処分した上で、関係した社員も処分する方針を明らかにした。また、再発防止策として、新たに任命した専従執行役員が中心になって「業務量の適正化」などの課題に取り組むほか、社員の健康管理や業務の適正化などの担当職を配置する。外部有識者による監督委員会も設けて、改善の状況を検証するという。

 記者会見で、石井社長は「働き方すべてを見直したい。社員が健康に働ける環境、多様な働き方で自己の成長を実現できることが最も重要だ」と述べたうえで「根本的な再点検には来年2月中旬ぐらいまでかかると思う」との見通しを示した。【近松仁太郎】

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