<新国立・建設工事>自殺男性、「代休」差し引いて過少申告

毎日新聞社 2017年7月28日 (exciteニュースから転載)

  ◇月80時間超の労働、「将来の代休」引いて80時間未満に
 2020年東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設工事で、長時間労働により自殺した男性(23)が、実際は上限の月80時間を超える時間外労働をしたのに、将来代休を取る予定にしてその時間分を差し引くことで、80時間未満として申告していたことが分かった。この申告方法は男性の会社で長年の慣習だったといい、専門家は「長時間労働を隠す抜け道のようなやり方だ」と批判している。
 男性は、昨年12月中ごろから新国立の建設現場で働いていた。今年3月に「寝坊したので遅れる」と同僚に電話したあと行方不明になり、4月に長野県内で遺体で見つかった。
 男性が勤めていたのは、新国立の工事を受注した大成建設の下請け会社。毎日新聞の取材に応じた同社社長らによると、同社は労使協定で月の時間外労働の上限を原則45時間、特別の場合は80時間としていた。男性は、昨年12月、今年1月分の時間外労働をそれぞれ79.5時間と申告。2月は未申告だった。しかし、死亡後に設置された外部有識者による特別調査委員会の調査では、12月86時間、1月115時間、2月193時間と認定された。
 社長らによると、男性は本来の時間外労働時間から代休の取得予定時間を差し引いて会社に申告していた。こうした申告は同社で長年の慣習として続けられており、他の社員26人も男性と同様の方法で時間外労働を過少申告していたという。
直属の上司は、代休が消化されていないことを把握していた。
 特別調査委はこうした実態を「過少申告に利用されている」と指摘したという。社長は取材に対して「深く反省している。二度とこのような事態を引き起こさないために労務管理体制を見直したい」と話している。
 過労死の問題に詳しい森岡孝二・関西大名誉教授(企業社会論)は「建設業界の労働時間管理がいいかげんである実例の一つだ」と指摘。「書類上、時間外労働が上限を超えないように操作していたと言われても仕方がない。自己申告という名を借りた『強制申告』と言えるだろう」と話している。厚生労働省監督課は「こうした自己申告は好ましくない」としている。【後藤豪】

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