石綿被害者に国賠提訴呼びかけへ 厚労省が異例の対応

 2017年10月1日03時04分

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最高裁前で勝訴を伝える泉南アスベスト訴訟の原告団=2014年10月9日、東京都千代田区

アスベスト(石綿)工場の元労働者が深刻な健康被害を受けた問題で、厚生労働省は、国家賠償の対象になりうる被害者らに対し、国賠訴訟を起こすよう個別に促す方針を固めた。3年前に国の責任を認めた最高裁判決が出た後もなかなか進まない被害者の救済を急ぐため。こうした方針を2日に発表する。

国家賠償の対象になりうるが、訴訟を起こしていない被害者や遺族は2千人以上にのぼるとみられる。厚労省は、必要な手続きを記したリーフレットを順次郵送。それに従って裁判を起こせば、積極的に和解手続きを進めて賠償金を支払う方針だ。健康被害を受けた労働者の救済に向け、国が被害者に国賠訴訟を促す通知を送るのは極めて異例。

最高裁は2014年10月、大阪・泉南地域のアスベスト工場の元労働者らが起こした集団訴訟で、健康被害の原因は国にもあると認め、元労働者や遺族計82人の救済を命じた。これを受け、当時の塩崎恭久厚労相が原告と和解を進める方針を決定。判決で国が対策を怠ったと認定された1958〜71年にアスベスト工場で働き、労災を認定されたり、じん肺法に基づいて健康被害が認められたりした元労働者や遺族が裁判を起こした場合、順次、和解手続きを進めてきた。

ただ、裁判を起こさないと賠償金が支払われないため、救済は思うように進んでいない。被害者の支援団体によると、最高裁判決が出た後に各地で起こされた訴訟で和解が成立したのは約80人にとどまるという。

損害賠償の請求権には時効があるが、必要な手続きを知らない被害者が多いとみられるため、支援団体や一部野党が、対象の被害者を特定して個別に知らせるなどの対策をとるよう求めていた。厚労省の方針はこうした声に応えたものだ。塩崎元厚労相は今年5月の参院厚労委員会で、要請に応じる方針を示していた。

■賠償額の決定、裁判所頼み

救済対象の被害者に賠償金を支払うために訴訟手続きを経るのは、国の方から賠償金を支払う制度がないためだ。アスベスト工場で働いていた期間の長さや健康被害の程度に応じて賠償額を決めるには、和解で賠償金が支払われた被害者と同様に、裁判を起こしてもらう必要がある――。厚労省はそう判断しているとみられる。

14年の最高裁判決は、工場内から粉じんを取り除く装置の設置を義務づけるのが遅れたなどとして、国に責任があると認めた。厚労省によると、工場での被害の救済を求める訴訟は、今年8月時点で28件が終結した。だが、対象になりうる人のうち、賠償金の支払いを受けた被害者はまだ一部に過ぎない。

国が責任を認めたのは工場労働者だけ。建設現場で被災した労働者が国や製造企業の責任を追及する訴訟も15件起こされており、原告は800人を超す。国の責任を認める地裁判決が相次いでいるが、国は争う姿勢を変えていない。アスベスト被害の全面解決にはほど遠い。

建設関係の訴訟でも国の責任が確定すれば、今回と同様の対応を迫られ、対象者が膨らむ可能性が高い。被害者の支援団体は、救済のための基金を設立するなど訴訟に頼らない迅速な救済策の整備を求めている。(編集委員・沢路毅彦、米谷陽一)

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