第4回つどい 非正規雇用の現状と打開への道すじを考える

働き方ネット大阪第4回つどい
―非正規雇用の現状と打開への道すじを考える―

弁護士 谷   真 介

2008年2月8日、エルおおさかにて働き方ネット大阪第4回つどいが開催されました。私は担当事務局として、このつどいに初めて参加しました。働き方ネット大阪はホワイトカラーエグゼンプションを止めるため「ストップ・ザ・エグゼンプション」を掲げて始まりましたが、既につどいも4回目を迎え、今回は開始当初のテーマから非正規雇用にテーマを移して行われました。参加者は約110人と会場に収まりきらず立ち見がでるほどの大盛況で、年齢層としても若い方が非常に多かったです。ワーキングプアがこれだけ社会問題化し、いかに非正規雇用問題への関心が高いかが窺われました。

記念講演は派遣労働研究会でおなじみの脇田滋龍谷大学教授が、非正規雇用の現状と打開について、熱く講演されました。脇田先生は、非正規雇用の過酷な現状について「労働法のない世界だ」と例えられました。労働基準法の最低基準すら守られていない職場がほとんどであり、あれだけ偽装請負が社会問題化して摘発されてもそれにより本来あるべき姿である期間の定めなき契約での直接雇用となったのはそのうちで1%にも満ちません。非正規雇用は家事補助型パートという形で世に出始め増大したのだが、それがいつのまにか当初念頭に置いていなかったフルタイム非正規や日雇い派遣等に置き換わったということです。日雇い派遣は労働者にとって究極の無権利状態であること、また有期雇用についてはこれは解雇予定付きの労働契約と考えないといけないとおっしゃったのが印象的で、そういう見方をしていかねばならないと思いました。

こういった現状をいかに打開していくかについて、脇田先生が提言されたのは、一つは既存の組合は組合員のみを代表していては駄目で非正規を含むナショナルミニマムを目指していく方向性が必要であること、もう一つは「寄り添い型」の組合活動というものが必要になるということでした。正規社員で構成された既存の組合がいかに非正規雇用の問題を自分自身の問題と考えて目を向け、解決するため行動していかないとこの悲惨な現状は変えられない、ということを強調されました。

その後は、偽装請負先で労災に遭い裁判闘争中の中国人女性労働者の方、ダイトーケミックスという会社で非正規労働者の正規雇用に取り組む組合委員長の方、会社の総務として経営者側の立場を持ち一方で化学産業における派遣労働の現状について研究をされている研究者の方、の三方をパネリストとしてそれぞれお話を伺い、パネルディスカッションを行いました。その中でも個人的にとても驚いたのが、ダイトーケミックスの労働組合での取り組みの話でした。ダイトーケミックスは従業員の組合組織率が100%近く、会社と組合間で非正規社員については3年勤めると必ず正社員にするという労使関係を築いているとのことでした。しかも正社員と非正規社員間での同一労働同一賃金が徹底され、会社が新しくパート労働者を入れようとすると組合は必ずストライキをして簡単には入れさせない、という徹底した取り組みを現実にやっており成功しているそうです。私としては、企業内組合でも非正規社員も取り込んだ上で非正規社員の問題についても組合全体でこのような取り組みができていることに驚きました。非正規雇用の問題に既存の組合がどう取り組むべきかという難しい問題について、地域ユニオンという形や産別の組合という形ではなくとも、企業内組合としてもこういう風に取り組めるというもので、一つの道筋を示したものを紹介するには十分なものだと思います。

最後の特別報告では大生連の大口さんが昨今の生活保護の現状について報告され、社会保障の面からワーキングプア問題に切り込まれました。生活保護は現在では捕捉率(生活保護受給基準をみたす世帯が実際に生活保護を受給している割合)がわずか15%にとどまっており、その大きな要因は就労可能ということで窓口で追い返されている者が沢山いることにあります。大口さんは、非正規雇用と社会保障は車の両輪であってどちらか一つではこの問題は解決できない、ワーキングプアに陥っている人は他から分断されてしまい孤立していることが一番の深刻な問題である、という問題意識を示されました。生活保護基準以下での給料しかもらえない働き方をしている人については、当然その差額分について社会保障として生活保護を受給できなければならないはずであり、そういった運用をさせるための運動も必要なのではないかと思います。

この企画で出された問題意識、問題提起は後の2008年権利討論集会に引き継がれていると思いますが、この非正規雇用問題は目を背けられないほど深刻化していると痛感させられました。ここで示された問題意識は、非正規雇用の蔓延・常態化によって相互に分断されてしまっている労働者たちがいかに連帯して闘っていくか、ということです。しかし非正規社員は分断・孤立によって闘う力を失わされています。現状はわかりましたが、ではそれをどうやって変えればいいのか。答えはこれから模索しなければなりません。その一つの方向性として企業内組合であるダイトーケミックスの取り組みは参考になると思います。その他、産別の組合や地域労組でどう取り組むかということも考えないといけないと思います。組合としても、弁護士としても、これまでの方法に必ずしも固執せず、やったことのない方法にも果敢にチャレンジしていくことも必要なのではないかと感じました。

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