働き方ネット大阪第7回つどい
貧困の連鎖が子どもを苦しめている
大阪労連副議長・働き方ネット大阪副会長
服 部 信一郎
2008年11月17日の毎日新聞に、「幸福度調査1位 オランダの提言」が載っている。ユニセフが07年に調査したものだ。これによると24カ国中、日本は最下位の29.8%、ほぼ3人に1人の子が「自分は孤独だ」と感じている。新聞内容は1位にあるオランダの教育を書いたものであるが、私は直感的に、日本の競争教育と構造的貧困がもたらしていると思った。
「親の働き方と子どもの貧困」をテーマに、「働き方ネット大阪・第7回つどい&2008年総会」が、11月13日(木)午後6時30分、エルおおさか南館ホールで開催され、約90名が参加した。高校生が橋下流教育論に正確に反論する発言に感動もし、そして貧困を考えさせられた。参加者からは、「北国と太陽の太陽政策が必要」「聞くに堪えられませんでした、憲法で保障されている生活権を子どもたちにも」「橋下功成りて、府民枯れる」など、自身の家庭とも重ねた感想も寄せられた。「働き方」をテーマに、ディーセントワークを呼びかける会として、意義深いつどいとして成功させることができました。
「自分」をもっている子もいること知って欲しい
平日の夜にもかかわらずパネル討論に参加してくれた羽曳野高校のFさんは、参加者に感動と元気を与えました。「橋下知事との意見交換会で、学力しか頭にない知事の突き放す言葉で私学の子が傷ついた、2人が泣いた、それでも言い放った知事は謝罪して欲しい。高校教育を訓練としか見ていない、中学校を出たらどうでもいいという感じで話していた。知事の頭には勝ち負けしかない、この人(知事)はいつかダメになるやろうと思った」と、知事との意見交換会の感想を述べ、最後に「流される子もいるけど、自分をもっている子もたくさんいること」を知って欲しいと発言しました。話しの前段では、私学に行けない子どもが生まれている、親に申し訳ないとアルバイトでクタクタの子、橋下知事は自己責任を押しつけるが、私たち高校生は勉強だけでなく、部活などを通して、心の成長、友情、団結を学んでいる。競走馬のように走らせておいて、知事は「落ちたら自己責任」なんて許せないとも発言。
参加者感想アンケートには、「高校生の話が聞けて元気になりました。未来に希望が持てました」「明るい未来を垣間見ました」など、貧困と悪政に押しつぶされかねない動きに、高校生が立ち向かっている姿が、大人を励ますものとなった。
貧困の連鎖が子どもを苦しめている
児童虐待とは、子供に生活上重要なものを与えないという形、すなわちネグレクトと危害を加える虐待という形で起こると言われる。ネグレクトは、子供にとって身体面、医療面、教育面、情緒面で必要不可欠なものを与えないことだが、養護教諭30年のベテラン教諭はその現状を報告してくれた。
その1.H君(小学校1年生)のネグレクト例。母子家庭、家族構成―母親・H君(7歳)・妹(2歳)・弟(0歳)、母親の勤務時間午後8時〜午前4時。H君が朝登校時は、母親が寝ているため、朝食を食べずに弟を保育所に連れて行ってから登校するため、遅刻する。その子が弟と一緒に万引きを繰り返している。
その2.Iさん(小学校2年生)の身体虐待例。父母ともに中国人、父親は日本語がしゃべれずに、職を転々としたうえ、現在失業中。母親は13時間労働を強いられ、喧嘩が絶えない。Iさんがお金を盗んだため、母親がほうきの柄でIさんを強打し、全身打撲(腫れ、皮下出血)を負わした。父親はIさんのお姉さんを、妹の面倒を見ていなかったと、ほうきの柄が折れるまで叩き、全身打撲。
別のケースで家庭訪問したとき、母親は「子どもの話しか聞いてくれない、私のはなし聞いて欲しい、しんどい事聞いて欲しい」と訴えられ、親が必死に生きている姿を見たと語った。解決に向けては、犯人捜しで終わらず、背景をしっかり捕らえ共通の話題にすることが大事ではないかと、語りました。
教育費に心を痛めるシングルマザーのMさんは、時給800円のパート。月収にして月手取り10万円〜12万円、児童扶養手当は月4.7万円。「高校生になる子は、部活の合宿などの学校経費も本人は言いにくいため、締め切りギリギリに言ってくる。家計を気にしている学生生活を送っている様子で、かわいそうな気がする」と、一生懸命に働いても低すぎる賃金に左右される家族の実情を、勇気を持って語ってくれた。
子どもが意欲をもって学校にいけるように
基調講演は小学校教諭で、現在は大教組副委員長の渡部有子さんが行った。教育現場から見える子どもの貧困としてあげた問題は、?母子家庭の増加(母親の夜の就労と母親の孤立)、?働き過ぎで母親のうつ病が増えている、?子どもの勉強でも、母親のうつ病が増えている点であった。
具体的事例で、事態の深刻さが浮かび上がった。夜8時まで小1の児童をおいて仕事している母親、子どもは寂しいから布団をかぶって寝ている。秋の運動会の開催日を春に聞いてくる親(休暇を早くから取る必要があるため)の働き方、給食が児童の唯一の食事になっている現状などを告発した。
渡部さんは、「橋下知事は学力を言うが、子どもが意欲を持って学校に行けるようにしなければならない」と強調。そのためにも、暮らしのセフティーネットや教育条件を引き上げなければならない、と問題提起した。
森岡孝二会長(関西大学教授)は開会あいさつで、「安倍晋三も、福田赳夫も、麻生太郎もみんな世襲だが、貧困も世襲化し出している」と話されたが、何としても世襲を断ち切りたい。支配する者が限界を初めからもつ者を追い詰めようとする歪んだ社会、教育問題が、テーマになった。今回のつどい、特に教育と貧困問題は地域から自他が共存できるネットワークづくり、一緒に考えることの大事さを教わった気がした。
メールで寄せられた感想のなかに、「一番の被害者である子どもたちの、あそこまでの素直な意見を聞いても心が動かない橋下の人間性を改めて疑いました」があった。