派遣労働者の大規模削減に関する情報をどこまで公表するかで、メーカーの対応が大きく分かれている。自動車業界では削減前の人数や削減数を自発的に発表する企業が多いが、電機業界では削減数も不明なメーカーがある。国への報告や公表は義務付けられておらず、厚生労働省も「公表するか否かは各社の判断だ」とする。一方で、社会的影響が大きいため「大規模削減の場合は、一定のルールに基づいて発表すべきだ」との提言も出始めている。
自動車業界では、日産自動車が今月末までに2000人の派遣労働者を全員削減する方針だ。同社は削減数をホームページ(HP)にも掲載。広報・CSR部は「規模が大きく、社会的関心も高かったので」と説明する。マツダは当初、労働局へ報告するだけだったが、削減が報道されて反響が大きかったため、元々の派遣労働者数、削減数を発表した。
一方、自動車業界同様に大規模削減を図る電機業界は、派遣労働者数や削減数の公表で対応が大きく異なる。
日立製作所は今年1月30日、自動車機器関連と薄型テレビ・デジタルメディア事業で、10年3月末までにグループ全体で、派遣・期間工の削減や正社員の配置転換などを計約8000人を対象に実施すると発表した。毎日新聞の取材に、同社はグループの派遣労働者を約1万2000人と回答したが、削減数については「これから決めるので答えられない」とした。
パナソニックは10年3月末までに、国内外で正社員も含め計1万5000人を削減することを公表。しかし、派遣労働者の元々の人数や削減数は不明だ。シャープは今年3月末をめどに、計1500人の派遣労働者を削減する方針でHPにも掲載したが、元々の派遣労働者数は非公表になっている。
公表を巡る企業間の差は、派遣労働者の削減について行政への届け出や公表のルールが整備されていないことが背景にある。1カ月に30人以上の離職者が出る場合はハローワークへの届け出が必要だが、対象は法的に雇用主となる派遣会社となり、派遣先は対象外だ。
関西大学の森岡孝二教授(企業社会論)は「派遣会社は小規模な企業も多く、派遣先の発表がなければ派遣労働者の動向は把握できない」と指摘。その上で「使用者責任として、100人以上などの大規模削減を図るメーカーは自発的に発表し、市場や消費者の評価を受ける仕組みを作るべきではないか」としている。【日野行介、樋口岳大】