「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」 2010年07月21日.
時給400円で100時間を超える残業。偽造したタイムカード――。鹿嶋労働基準監督署によると、労災が認められた蒋暁東(チアン・シアオ・トン)さんが、安い賃金で長時間残業させられていた実態が見えてくる。
労基署の発表によると、蒋さんは2005年12月に来日。急性心不全で亡くなる08年6月までの2年半、潮来市のめっき加工会社で、日本人従業員約10人やほかの中国人実習生ら3人と働いていた。
通常の勤務時間は午前8時〜午後5時だが、蒋さんは毎日3、4時間の残業をしていたという。亡くなる直前の3〜5月は、月93〜109時間の残業をしていた。労働基準法で定められる月30時間以内という残業時間を大幅に超えていたことになる。
鹿嶋労基署はこうした長時間労働が急死につながったとして、過労死による労災と認めた。
また、同社は長時間労働を隠すため、偽造したタイムカードも作製していたという。毎日午後6時になると、実習生らは社長の指示で作業を中断し、「退出時刻」をカードに記録させられていた。実習生らはその後も残業を続けたという。同社の男性社長(66)は朝日新聞の取材に「(外国人を取りまとめ、企業に派遣する)受け入れ機関が年に1回、残業時間の調査に訪れるので、取り繕った」と話した。
一方で、社長は「蒋さんを強制的には働かせておらず、自主的だった」と話した。「残業を他の中国人実習生ら3人で分けるはずだったが、1人でこなしていた。『休日も仕事をさせてくれ』というので、草取りなどをしてもらった」という。中国の家族への仕送りのため食費を切りつめていたといい、「たまに肉や野菜、米を差し入れたが、もっと気をつかってあげれば良かった」と悔やんだ。
蒋さんの遺族の弁護団の一人でこの制度に詳しい高井信也弁護士は「残業が自主的だったという会社の言い分は虫が良すぎる。(蒋さんの)同僚は『残業中は工場の換気も止まっていた』と話し、劣悪な労働環境であったはず」と話す。
外国人研修・技能実習制度は「日本の技術を外国人に教えることが目的」としている。だが、弁護団によると、実態は企業が足りない労働力として安く働かせているのが実情だ。実習生も「出稼ぎ」として、来日する人も多い。
高井弁護士は「実習生は日本人より危険な職場で働かされやすく、受け入れ機関が手数料を搾取している実態もある。制度を廃止し、新たな制度を作り直すべきだ」と主張する。