【東京新聞】暮らし・健康 > 暮らし一覧 - 2011.05.13 <はたらく>障害者の最低賃金減額 雇用あっても生活改善できず
最低賃金法は「障害により著しく労働能力の低い障害者」らに対し減額できる特例を設けている。法律制定時は障害者の雇用は全く進んでおらず、「まずは障害者の働く場をつくるために、雇用者の負担を軽くする必要性がある」(国会答弁)とされたためだ。
減額申請は雇用主が行い、労働基準監督官が職場に出向いて実際の労働効率を計測。調査に基づき労働基準局長が許可する。厚生労働省労働条件政策課によると、全国の許可件数は年々増加し、09年は8200件(障害者関連のみ)。過去最高とみられる。
08年の法改正で継続雇用でも新規申請が必要になったことも重なり、05年の2.3倍となった。障害者雇用の増加とともに、不況によって企業側に「安上がりな労働力を活用する」という意識があったものとみられる。
愛知県の許可件数は全国トップクラス。愛知労働局の平松晃・主任賃金指導官は「厳格に調査している」と強調しながらも、「申請を不許可にすることはほとんどない」。だが「障害者本人や家族から、減額が不当と訴える声はない」という。
一方、障害者支援機関の担当者は「雇用時に最低賃金を要求すると、就労できない恐れがある。最初から減額ありきで、障害者は給与を安くして当たり前との意識が雇用者側にある」と批判する。
障害者の最低賃金減額について調査した川上輝昭・名古屋女子大教授は「障害者とその家族は、単純労働で低賃金、劣悪な労働環境であっても、働く場が与えられていればうれしいと思わされている。 最低賃金の減額は、公的に認められた人間性の否定だ」と厳しく指摘する。
しかし、減額申請する企業は中小零細企業が多いのが現実で、企業の側に最低賃金を守らせるのも困難だという。「最低賃金は最低限の生活保障であり、減額されては生活できない。減額特例を認めるなら、セーフティーネットの生活保護とは別に、減額分を行政が
負担する制度をつくるべきだ」と話す。
<最低賃金> 地域別(都道府県ごと)と産業別の最低賃金が厳格に定められている。金額は、その地域の生活保護費をやや上回る とされるが、生活保護費が上回る逆転現象も発生している。