経団連は21日、13年春闘で経営側の交渉指針となる「経営労働政策委員会報告」(経労委報告)を発表した。経営環境は新興国企業の追い上げなどで依然厳しいとし、賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)は「実施する余地はない」と否定。一方で、年末以降の円高是正などを踏まえ、定期昇給については最終案にあった「見直しを聖域にすべきではない」との記載を削除し、不振企業は凍結もあり得るとする前年と同趣旨の表現にとどめた。
連合は、手当や賞与を含む給与総額を一律1%引き上げることを要求する方針を決定済み。29日に米倉弘昌経団連会長と古賀伸明連合会長が会談し、13年春闘が本格化する。
経労委報告では、最優先すべきは雇用の維持・安定であると強調。連合がリーマン・ショック前の水準に賃金を戻すことを目標に、1%の賃上げ要求をしたことについて「経済や企業の実態を無視したもの」と一蹴した。その上で「賃金カーブの維持、定昇実施の取り扱いが主要な論点」であるとして、定昇の対象を若手に限るなど、制度見直しの必要性を訴えた。
ただし定昇見直しは通年の労使交渉で行われるべき課題とし、13年春闘で実施延期や凍結が協議されるのは「深刻かつ危機的な経営状況にある企業」のみとした。65歳までの希望者全員の雇用を義務づける改正高年齢者雇用安定法が4月施行されることについても、60歳以下を含む賃金体系再考の必要性は指摘しつつ、13年春闘での課題とはしなかった。
経団連は年末の最終案取りまとめ時点では、定昇見直しを「聖域にすべきではない」としていた。しかし年末以降、円高修正が進み株高など景気好転の兆しが見え始めたことに加え、安倍晋三政権が給与増を伴うデフレ脱却を目指しているため、一定の配慮をしたとみられる。
経団連の春闘責任者である宮原耕治副会長(日本郵船会長)は21日の記者会見で、「(安倍政権の施策で事業環境が)これから良くなるという期待もあるが、結果が出るのは来年だ。一度ベースアップすると固定費が上がるため、相当慎重にならざるを得ない」と述べた。【宮島寛】
【定昇とベア】
定期昇給は、勤続年数や年齢に応じて給与を上げる制度。「1年後に1年先輩の給与に追いつく」ことを原則とする仕組みで、日本型雇用の特徴である年功序列制度の中核を成す。しかし近年では、勤務成績などに応じて昇給額に差をつける企業も増えている。