週プレニュース 2013/05/07
連休中の5月1日、労働者の権利保護を訴えるメーデーが全国各地で開かれた。各労働団体は賃上げや生活水準の引き上げのほか、安倍内閣が導入を検討する「解雇自由化」にも反対を表明。東京・代々木公園で集会を行なった全国労働組合総連合の大黒作治議長は「正規雇用が当たり前の社会を目指すべき」として、雇用制度改革を批判した。
さまざまな問題点が指摘されている解雇自由化だが、もし本当に導入された場合、企業はどのように変わっていくのか。労働ジャーナリストの金子雅臣氏がこう推測する。
「例えば、数年前、日本のあるゲームソフト制作会社の大量リストラが裁判で違法と認められたケースがあります。勤務成績や勤務態度、出勤率などを指標に1年間、従業員を査定し、評価の悪い順に下から1割の従業員を解雇したのです。解雇自由化となれば、2、3ヵ月分の給料を渡せばこうした事例もOKとなってしまいます。ほかにも、規制があるうちには絶対に許されなかったような理不尽な理由を持ち出し、解雇を通告する企業が続出するかもしれません」
しかし、解雇が自由化されれば、真っ先に狙われるのはロクに働かずに給料をもらっている高齢社員のはず。すると、若者の雇用はかえって増える可能性があるのではないか?
雇用問題を調査するNPO法人POSSE代表の今野晴貴氏が語る。
「確かに、解雇自由化の狙いのひとつに企業の若返りがあるでしょうが、それはむしろブラック企業で利用されるでしょう。そして、ターゲットになりやすいのは、会社の即戦力となり得る経験とスキルを持たない若者です」
どうして若者が解雇の対象になるのか。今野氏が続ける。
「社長や上司に『残業をしろ。さもなければクビにするぞ』と雇用を人質に取られてしまうこともあるわけですから、解雇を脅し文句に、低賃金やサービス残業といった“奴隷労働”を強いられる若者が確実に増えるでしょう。そうやって使いつぶした挙句に安いカネでクビにする会社も当然出てくる。社員とはいえ、毎日『明日切られるかもしれない』というプレッシャーを受けながら働かなければなりません」
さらに、就活の風景もガラリと変わる。労働問題に詳しい弁護士の佐々木亮氏がこう話す。
「解雇規制が緩くなれば、通常の正社員より解雇しやすい、『限定正社員』という新しい採用区分を設ける企業が増えてくると思われます。勤務地や職種を限定して社員を採用する手法ですね。この枠で入社すると、転勤や単身赴任、経理から営業職への異動といった命令を企業から受ける心配がありません。雇用に期限もありませんが、勤務地にある工場や営業所が閉鎖したり、今受け持っている仕事がなくなると解雇の対象となります」
果たして、解雇の自由化を許していいのだろうか。大手転職支援会社の社員K氏がこう話す。
「今の状況で解雇自由化なんてやったら、転職ができない失業者があふれ返ることになります。『ソニーの元部長だって使いものにならない』と見なされてしまうのが今の転職市場。解雇の“前科”があれば、受け入れる企業もなくなります。求人票に『自己都合退職』と書かれていても、前の勤務先に信用調査をかけるので解雇の事実は隠し通せません。転職市場がものすごく閉鎖的になっているのに、解雇のところだけ扉を開けてしまえば、そこから転落した人たちは路頭に迷ってしまうことになるんじゃないでしょうか」
今の日本社会にとって、解雇の自由化は“パンドラの箱”。雇用の受け皿がしっかり整備されるまで、慎重に扱うべきだろう。
(取材・文/興山英雄)