ウォールストリート・ジャーナル 2013年11月20日
By TAKASHI MOCHIZUKI AND AARON BACK 【東京】国家戦略特区に関する作業部会で座長を務める八田達夫・大阪大学招聘教授は、安倍晋三政権の規制緩和に対する取り組みが不十分との批判に反論し、首相が特区に関し一層大胆な政策を打ち出すための骨組みが整えられると強調した。
国家戦略特区は安倍首相の成長戦略の中核を担う。八田氏は誕生して約1年が経過した安倍政権に国民が期待することは、世界3位の日本経済に深く根付いた既得権益を排除することだと指摘した。
また、日本が規制緩和の取り組みを強化すべき分野として、医療と農業、雇用という3つの分野を挙げ、「改革者と見られるには、安倍首相が(こうした分野で)強いリーダーシップを発揮する必要がある」と述べた。
八田氏は18日、ウォール・ストリート・ジャーナルに対し、「日本経済に関する真の問題は権益集団がいたるところに存在し、こうした集団がさまざまな産業に参入障壁を設けていることだと誰もが認識している」としたうえで、「1つが農業、1つが医療科学、雇用でさえその例だ」と語った。
安倍首相の改革へのコミットメントをめぐっては、特に海外のアナリストや投資家の間で疑念が強まっている。たとえば、首相は市販薬のオンライン販売の自由化を公約していたが、既存の利益団体からの強い反対に直面し、一部の大衆薬を解禁対象品目から除外する方針だ。
内閣官房参与も務めるイエール大学の浜田宏一名誉教授は先週、首相の成長戦略は困難に直面しており、もし自身が政府の職についていなければ現時点での評価は落第点を与えていたかもしれないということを示唆した。
しかし、八田氏は、首相は一段の規制緩和推進に真剣だと述べ、国家戦略特区の創設のために政府がどのように諮問会議を発足させる予定であるかについて言及した。既得権集団がこのプロセスを頓挫させるのを防ぐため、規制緩和の対象となる省庁の大臣は諮問会議の正式なメンバーとせず、さらに諮問会議には強い法的権限が与えられる見通しだ。
さまざまな規制改革が実施される戦略特区の創設に必要な国家戦略特区関連法案は、月内に成立するとみられている。
最初の一連の関連法案には、雇用面で解雇など労使紛争の判例を整理した雇用・解雇に関するガイドラインが盛り込まれる。
しかし、もっと流動性のある雇用市場を支持する人々は、こうした政策は骨抜きになっており、国内で事業を行っている企業が従業員をレイオフすることが難しいという印象を変えるものではないと指摘している。こうしたことは、日本の労働生産性の低さや、海外の企業が国外に拠点を構える理由とされるケースが多い。
正反対の立場にある人々は、こうした政策により、経営幹部が著しい経済的影響を受けずに人々を解雇することがますます容易になるだけだと主張している。
八田氏は「岩盤規制を崩すにはとにかくどっからか始めないといけない。が、こうした非常に緩やかな変更でさえ、有力団体から批判された」とする一方、契約社員の有期雇用から無期雇用への転換を含め、一段と強力な規制緩和政策が必要だと主張した。
政府は一連の規制緩和の一環として、正社員以外の雇用者における有期雇用の期間を最長5年から最長10年に延長する方針を固めているが、八田氏は、期間は無制限に延長され、すべての職に適用されるべきだと主張した。
現時点では雇用期間の延長は、一定の割合以上の外国人雇用者を有するか、設立後間もない企業で働く高給の特定専門職に限られる見通し。
八田氏は「有期雇用期間を5年から10年に延長するだけでは意味がない」と指摘。「雇用期間は無期限に延長されるべきで、それが実現するまで訴え続ける」と語った。
国家戦略特区の対象地域は大都市圏の他に地方都市が指定される予定。こうした地域での運用も見通し、八田氏は自身が率いる作業部会は第二弾の規制改革案として農業を焦点の一つにすると述べた。さらに、検討中の措置は企業が農業関連事業に参入することを今より容易にするもので、日本が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に加わるなかで、国内の農家の生産性と競争力を高めるために不可欠と見られる動きだと指摘した。