<はたらく>ブラック企業「数字に出る」 就活生向けに学識者ら冊子

東京新聞 2014年1月10日

「データを見ればブラック企業かどうかは、ある程度わかる」と説明する上西充子教授(左)=東京都世田谷区で(省略)

 就職活動中の学生にとって、入社を考えている会社が「ブラック企業」かどうかは切実な問題。学識者らでつくる「ブラック企業対策プロジェクト」は、離職率や採用数などのデータから見分ける方法を冊子にまとめ、無料公開している。学生や保護者向けのセミナーも開き、活用を呼び掛けている。 (田辺利奈)

 昨年十二月、同プロジェクトが東京都内で開いた「ブラック企業の見分け方」セミナーには、就職活動中の学生や保護者など約三十人が参加。求人広告の見方や、就職活動向け会社研究の本「就職四季報」(東洋経済新報社)などのデータ活用法を学んだ。

 セミナーでは、冊子の著者の一人で、法政大キャリアデザイン学部の上西充子教授が「求人広告は基本的に会社に都合の悪いことは載せない。リクナビ、マイナビなどの就職ナビも企業がお金を払って載せている広告であり、必ずしも学生のための情報ではない」と強調した。

 会社を知る大きな情報源としては「就職四季報」を挙げた。採用実績や平均年収などの客観データが掲載されており、中でも注目すべきは三年後の離職率。ここに「若者の使い捨て」が数値で表れているので、自分が興味のある会社の数値を確認する。平均は30%くらいで、これより高いと要注意。ただ、業種で差があり、宿泊・飲食サービスや教育・学習支援では全般的に高いという。同じ業種の中で、その会社が他社と比べて高いかどうかを見る。

 ほかに、採用実績数が従業員数の一割以上に上るなど不自然に多い場合は、たくさんの人が辞めることを見越して、採用していることも考えられる。

 データは他業種とも比較し、見る目を養うことを勧めている。そもそも情報をあまり開示していない会社は、出せない理由があると考えられるので注意する必要がある。「就職四季報」以外にも新聞記事を読んだり、図書館で経済誌のバックナンバーを調べたりすることなども有効という。

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 セミナーでは、ブラック企業被害対策弁護団の竹村和也弁護士も「利益を増やすために人件費を削り、労働環境が悪くなる」「外資系企業でも、国内に事業所があれば労働基準法に従わなくてはいけないが、知らない事業者もいる」などと解説をした。

 参加した東京都内の大学三年生の女性は、「会社説明会でも本当のところを聞けない風潮がある。学生が会社の実態を知る機会が必要だと思う」との感想。千葉県の大学四年生の男性は、「バイト先の社員が『待遇が悪く、十人に一人しか残らない』と話していた。資料の見方を学んだので、問題のない会社を見つけたい」と話していた。

 上西教授は「厚生労働省がハローワークの求人票に、過去三年の採用者数と離職者数の欄をつくるよう要請したことは、一歩前進といえる。精度の高い求人票づくりは重要で、民間の求人票にも広がってほしい」という。同プロジェクトでは、今後も内定前後に起きうるトラブルの対処法マニュアルを作るなど、啓発活動を続けていくという。

 冊子は、同プロジェクトのウェブサイトから無料でダウンロードできる。

<ブラック企業対策プロジェクト> 過重労働や長時間労働で離職に追い込むブラック企業によって、若者が使いつぶされることのない社会を実現するため、若者の格差・労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」(ポッセ)の今野晴貴代表のほか、キャリアデザインや社会学などの学者、労働問題に詳しい弁護士らで昨年9月に設立。実態調査や政策提言などもしていく。問い合わせは同プロジェクト=電03(6673)2261=へ。

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