<衆院選>何を問う(5)過疎地/雇用望めず若者減少

河北新報 2014年12月10日

縫製会社の社長に雇用助成金に関するパンフレットを見せて説明する菅さん(中央)。雇用環境の厳しさを実感している(写真省略)

◎独自の活性化策模索

<賃金 最低水準>
 衆院選の公示日から一気に気温が下がり、秋田県南地方は大雪に見舞われた。白く覆われた地域は一層静けさを増す。過疎が進む湯沢市郊外で、若年雇用推進員の菅則善さん(50)は雪の中、企業を回る毎日だ。
 若者の雇用を企業に働き掛けるのが仕事。中小企業の経営状況を聞き、求人票の作成なども手伝う。担当管内は合併前の旧湯沢市で、約2000の事業所がある。
 春物商戦に向け、婦人服を製造する縫製会社で男性社長に会う。中高年の女性社員がミシンに向かい、ピンク色の生地を縫い合わせている。
 「工賃として入るのは販売価格の1割だけ。高い技術力を求められるが、受注量は減り、利益は少ない」。社長が地域に張り付く会社の厳しさを説明する。
 21人の社員に支払っている給料は、秋田県の最低賃金に技術手当などを上乗せした金額。最低賃金はことし10月から14円上がって時給679円。全国最低クラスだ。
 「厚生年金など、待遇面はできる限りのことをしている。でも、若者は来てくれない。若者が求める条件になっていないようだ」
 社長の言葉に菅さんは、地域雇用の現状を再認識した。高学歴の若者が能力を発揮できる場がない。納得できる収入を支払える業種も少ない。「雇用のミスマッチの解消はなかなか難しい」

<止まらぬ疲弊>
 自身はUターン組だ。温泉郷で知られ、菅義偉官房長官の故郷でもある湯沢市秋ノ宮生まれ。関西の大学に進学し、大阪の証券会社で営業マンとして活躍した。
 32歳になった1996年、妻と2人の息子を連れて帰郷した。父はけがが元で障害があった。母だけでは大変と考え、両親と暮らす決心を固めた。
 保険代理業を営みながら2001年、地域活性化の団体を組織して会長に就いた。温泉が流れる川原で足湯を楽しめる人気スポットをつくり、「開発コストはゼロ円だ」と喜ばれた。
 過疎が進み、若者も残らない。地域の疲弊が目立つ中で何ができるのか。「われわれの意識改革が必要だ。知恵を出し、工夫して独自の活性化策を進めるしかない」。そう呼び掛けている。
 ふるさと創生事業、地域振興券、頑張る地方応援プログラム…。ときの政権が打ち出したこれまでの政策で疲弊に歯止めはかからなかった。
 「表面的な取り組みは地域に浸透しない。都会の価値観に惑わされてはいけない」
 温泉、里山の暮らし、山菜、木材…。地元には豊かな食文化や自然、歴史の水脈がある。自分たちがその水脈にいかに気付き、どう掘り起こして仕事に結び付けていくのか。地域の力が問われている、と菅さんは思う。
 その力を引き出す政治を求めている。

[秋田県の雇用情勢] ハローワーク湯沢管内の有効求人倍率は10月現在で0.77。世界的な不況が深刻化した2009年9月の0.20より大幅に改善したが、秋田県内では最低のまま。緊急雇用創出事業など国の施策とは別に、県は県職員の給与削減で108億円を投じ、新たに5000人の雇用を生み出す独自の対策を進めている。

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