人員抑制など背景に労働時間減らず 若者酷使するブラック企業も

福井新聞 2014年12月11日

 過労死や過労自殺の防止を国の責務とする法律が先月施行された。昔から「働き過ぎ」といわれる日本のサラリーマン。近年の正社員らの労働時間は、人員抑制などを背景に福井県内も含め“高止まり”している。政府は労働時間規制の一部緩和も検討しているが、若者を食いつぶす「ブラック企業」も見受けられる。

 県内の建設会社に勤める20代の北島一朗さん(仮名)は退職を考え始めている。職場の労働環境が、入社時に思い描いていたものとあまりに懸け離れているからだ。

 特にこの2年は、4月の消費増税前の駆け込み需要で異常な忙しさだった。毎月50時間もの残業と休日出勤が常態化。時間外労働が80時間の“過労死ライン”を超えた時期もあった。当時は食欲が減り、出社の支度ができているのに体が動かなかった。恐らくうつ病だったと思う。

 会社はいくら働いても、時間外分として月数万円しか払わない。だから若手社員の入れ替わりは激しい。「今の職場は自分的にはブラック(企業)ですよ。建築の仕事は好きだが、精神的に続かない」

 政府は昨年9月、ブラック企業対策として全国の5111の企業や事業所に対し、監督を行った。県内では43企業・事業所で違法な時間外労働や残業代不払いなどの法令違反があり、是正を勧告した。

 福井労働弁護団の海道宏実弁護士は「日本のサラリーマンはそもそも長時間労働。残業が当たり前になっており、余裕がない社会になっている」と指摘する。

 国の毎月勤労統計調査によると、フルタイムで働く人の労働時間はここ20年ほど年間2千時間前後で推移。国際的には依然として長い。県内事業所(30人以上)の2013年の平均は全国の1997時間に対し2024時間。毎年、全国を上回っている。

   ■■   ■■

 「過労死等防止対策推進法」が先月1日施行された一方、政府は年収などの要件を満たす労働者に対し、残業代支払いなど労働時間規制の適用を外す制度の導入を検討している。成長戦略の中で「時間ではなく成果での評価を希望する働き手のニーズに応える」と狙いを示している。

 県内企業でコンピューターソフトを製作する40代の佐藤雄二さん(仮名)は、平日はほぼ12時間労働というハードワーク。特に納期前はプログラムの誤りや不具合の対処に追われ、休日でも出勤する。

 最近は顧客の要望に素早く応えることが求められ、開発のピッチが上がった。「やらなあかんことが多い。でも人は全然増えない」。会社は10年ほど前から採用を抑え、部署に20代は1人しかいない。

 帰宅は毎晩10時過ぎ。幼い子どもがいるが、仕事の日は共働きの妻に任せきりだ。

 政府が検討する新しい労働時間制度について佐藤さんは「ワーク・ライフ・バランス(WLB)改善につながるようなものであればいいが、賃金が抑えられるだけのような気もする」と懸念する。「今のような働き方が50代でも続くと思うと、ぞっとする」

   ■■    ■■

 経済産業研究所労働市場制度改革プロジェクトメンバーの海老原嗣生(つぐお)さんは、WLB大国と呼ばれるフランスでもエリート層は長時間労働だとし、日本の「全社員が上を目指し頑張る仕組み」はもはや時代に合わないと説明。「日本型雇用は非正規や高齢者雇用なども含めさまざまな大きな問題が露呈している。良い部分を残しつつ、政労使が足並みをそろえ大変革を行うべき時期にある」と指摘する。

この記事を書いた人