ブラック企業考 大学就活解禁を前に(中)注意すべき「固定残業代」

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神奈川新聞(カナロコ)2015.02.27
 
 「相談に訪れるのは本人だけじゃない。家族が、遺族となって初めてという例も少なくない」。そう話すのは、対策に取り組む嶋崎量弁護士(39)。しかしなぜブラック企業は横行し続けるのか。背景にみるのは非正規雇用の拡大だ。

 「若い労働者の使い捨ては昔からあった。以前は辞めれば済んだ。しかし今、非正規は避けたいと正社員募集に競って人が集まり、入社後も地位を失うまいと無理して働き続ける。企業が働く人をいいなりにしやすい環境が広まった」。被害に遭わないためには、「入社前に見分ける視点を多く持つこと」と強調する。

 自身が事務局長を務める対策プロジェクトで挙げるのが、こんな点だ。新規学卒社員の3年以内の離職率3割以上/短期間で管理職になることを求める/過労死・過労自殺を出している/求人広告や説明会の情報が頻繁に変わる/残業代が固定されている−。

 高い離職率や若者の管理職登用は「人が長く働けない労働搾取や人材不足の現れ」。過労死を出した会社は「精神疾患など他の被害も疑う必要がある」。そして最も注意を促すのは固定残業代だ。「残業代不払いを前提に、長時間労働を強いてコスト削減、利益確保を図る。『固定残業代を払っているから』と残業時間を脱法的に管理せず、基準の残業時間を超過した場合に支払うべき賃金を払わない」

 実態は「基本給20万円・固定残業代5万円」なのに、募集・契約時に「給与25万円」と基本給が高いよう錯覚させ、「詐欺的に人を集める行為」が横行している。大手企業が今年から大卒採用日程を後ろ倒しした影響で「採用競争が激化した場合、こうしたトラブルはさらに増えるかもしれない」。

 そこで必要になるのが、働く環境の客観情報を収集することだ。説明会やOB訪問の際、「働きがいはどうとか主観を聞いても仕方ない。残業代の仕組みや有休取得率を聞く。質問をして印象を悪くしても、入社して被害を受けるよりはまし」。採用サイトだけでなく、四季報や就活研究本、IR情報や有価証券報告書から、平均残業時間、3年後離職率、平均勤続年数、30歳賃金、組合の有無−などの情報を入手する。

 「応募がなくなることがブラック企業撲滅の第一歩」。一方、その見極め策の裏返しにこそ、採用に悩む中小企業にとってのヒントが隠れているとも指摘する。

 「優秀な人材獲得のためには『うちは人材を使い捨てない』というメッセージを発し続けていくこと。『夢をかなえよう』だとかの抽象表現でなく、『残業時間が業界平均より短い』『育児休業取得率が高い』など偽りない情報発信を通じて、だ」

◆固定残業代

 あらかじめ決められた定額が支払われる残業代。固定残業代を支払っていることを理由に企業が労働時間を記録しない、何時間働いても残業代をゼロとするといった実態も指摘されており、嶋崎弁護士は「固定残業代制度自体を無効とする判例も固まっており、現在企業で導入されているほとんどの固定残業代制度は脱法行為だ」と是正を求める声を上げている。

●嶋崎量(しまさき・ちから)

 中央大学法学部卒。2007年9月に弁護士登録。働く人の権利擁護やブラック企業対策に力を入れ、日本労働弁護団常任幹事、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事なども務める。神奈川総合法律事務所所属。39歳。
 
【神奈川新聞】
 

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