http://www.yomiuri.co.jp/job/women/topic/20150507-OYT8T50101.html?from=tw
Yomiuri Online 2015年05月12日
厚労省 指導強化打ち出す
最高裁判決を受け、研究会では企業のとるべき対応について紹介した(東京都内で)=池谷美帆撮影(省略)
働く女性が、妊娠や出産などを理由に嫌がらせや不利益な扱いを受ける「マタニティー・ハラスメント」(マタハラ)。
昨年の最高裁判決で注目され、厚生労働省は企業への指導強化を打ち出した。ただ、それを防ぐ取り組みは緒に就いたばかりだ。
退職迫られる
「俺なら、俺の稼ぎだけで食わせる覚悟で、嫁を妊娠させる」。東京都内の教育関係の企業で働く女性(33)は、昨秋、直属の男性上司からこう言われ、言葉を失った。
育児休業明けに保育園が決まらず、入園できたら正社員に戻すという条件で、週3日勤務の契約社員として復帰。その後、保育園が決まったが、上司は正社員に戻すことを渋り、押し問答の末にこの発言が出た。
妊娠・出産を理由にした解雇や雇い止め・降格などは男女雇用機会均等法などで禁じられている。職場での精神的・肉体的な嫌がらせも含めマタハラとされている。
女性は社長とも話し合ったが、「産休明けの人を優先はしない」などと言われ、嫌なら退職をと迫られた。まさに社を挙げてのマタハラで、労働局の指導も会社は無視。女性の後に育休を取った複数の社員も嫌がらせを受けて退職した。
「今辞めたら会社は変わらない」。女性は会社と交渉を続けながら、契約社員のまま働き続けている。
マタハラは、連合が2013年に初めて行った調査で、妊娠を経験した20〜40代の働く女性約300人のうち、4人に1人が「被害に遭った」と答え、注目を集めた。今年の同様の調査でも、回答者1000人のうち21%が被害を受けていた。
神奈川県内の有料老人ホームで働いていた女性看護師(40)も、被害者の一人だ。
派遣社員だったが、本社の女性看護部長に「産休・育休も取れる」と言われてパートに。その後妊娠し、産休と育休を取得したいと部長に伝えると、「他に育休中の人がおり、タイミングが悪い」「子どもがいるといつ休むかわからない」などとして、退職を促された。
拒否すると嫌がらせを受け、「ストレスで流産する可能性もある」と、昨年退職した。女性は「こんな状況では、働きながら産み育てるなど無理だ」と憤る。
マタハラ問題に取り組む民間組織「マタハラNet」代表の小酒部さやかさんは、「『男は仕事、女は家庭』という性別役割分業意識が根強い上、人員不足の職場では『仕事に穴を開けるのは悪』との考えが強く、妊娠・出産で休む女性に問題発言が出やすい」と話す。
世間の目厳しく
ただ、世間の目はマタハラに厳しくなっている。
最高裁は昨年10月、「妊娠後、軽易な業務に転換したことで降格されたのは均等法違反」とする理学療法士の女性の訴えを認めた。これを受け、厚労省は今年1月、妊娠・出産、育休明けなどから1年以内に企業が降格や雇い止めなどをした場合は「均等法などで禁じる不利益取り扱いで、違法とみなす」とした通達を全国の労働局に出した。
もっとも、企業側の動きは鈍い。
4月半ば、都内で「マタハラ最高裁判決の意義と今後の企業対応」と題した研究会が開かれた。企業の人事担当者らを前に、弁護士の新村響子さんは女性の権利を守る法律を把握し、誤った対応を取らないよう注意を促した。
ただ、主催した労働開発研究会(東京)の担当者は、「労働法改正などがテーマの会より参加者が少なく、企業の関心はまだ低いようだ」と話す。
新村さんは「企業には、社内規定の整備など適切な対応を行い、育児をしながら働き続けられる職場づくりが求められる」と指摘している。
人事・労務担当部署などに相談
マタハラNetによると、マタハラになる言葉は「パワハラ型」「追い出し型」など、大きく四つのパターンに分かれる。
もし被害に遭ったら、どこに相談すればいいか。
同僚からであれば、まずは上司に。上司からであれば、会社の人事・労務担当部署に問い合わせる。そこでも解決が難しそうなら、都道府県にある労働局や、連合、個人で加入できる組合などに相談する。(針原陽子)