朝型勤務「ゆう活」って? 7月から国家公務員で実施

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朝日デジタル 2015年6月23日

写真・図版:午前7時半に出勤し、パソコンに向かう松本さん。「ゆう活」の日は、周りの人に早く退庁することがわかるようにしている=5月下旬、東京都千代田区(省略)
 
 いつもより1〜2時間早く仕事を始め、その分早く帰って夕方を有効活用しよう――。そんな夏の朝型勤務「ゆうやけ時間活動推進(ゆう活)」が7月、すべての国家公務員を対象に始まる。長時間労働を減らすのが狙いだが、現場からは「逆に長時間労働になる」という心配も出ている。

■試験運用では「有意義」87%

 5月下旬の午前7時半、東京都千代田区。内閣府などが入る合同庁舎の8号館で、内閣官房内閣人事局参事官の松本敦司さん(48)が自席のパソコンに向かっていた。午前5時に起きて、6時10分ごろには家を出た。フロアでは、ほかにも数人の職員が仕事を始めている。

 松本さんがこんなに早い時間に出勤したのは、7〜8月に「ゆう活」が本格実施される前に、局内でテストするためだ。朝型勤務では、始業時刻が午前7時半か午前8時半になる。その分、退庁時刻は午後4時15分か午後5時15分に早まる。

 ふだんは午前9時15分ごろ登庁する松本さん。定時に帰れても役所を出るのは午後6時15分だ。いつもは定時退庁できず、小学生の長女と一緒に夕食をとることはできない。「ゆう活」の日は、「娘の勉強を見てあげることができました」。

 仕事のやり方への意識も変わったそうだ。「これまでは仕事が終わっても帰りづらい雰囲気があり、つきあい残業もあった。朝型勤務は退庁時刻を宣言でき、ゴールを意識しながら仕事をするようになった」という。「ゆう活」の日はパソコンに「16時15分に退庁します」と書いた紙をクリップでみんなに見えるようにとめる。

 ただ、早朝出勤したのに国会対応で午後9時まで帰れなかったこともあった。「早く家を出ると、家族は早く帰ってくると期待する。『きょうは早く帰ってこなかったね』と言われました」

 この活動は、安倍晋三首相が3月、「明るい時間が長い夏は朝早くから働き、夕方には家族などと暮らせるよう変革に取り組む」と指示を出したのがきっかけだ。民間企業では、すでに伊藤忠商事やデンソーが朝型勤務を採り入れている。公務員も率先して朝型になり、もっと多くの民間企業にも活動を広げる構想を掲げている。

 まず「ゆう活」をするのは、すべての国家公務員。内閣人事局の笹島誉行・人事政策統括官は「霞が関の労働時間はなかなか短くならない。早く帰ることに意味がある」と意義を説明する。

 人事局のテストには育児中・妊娠中や、遠距離通勤者を除く110人が参加。早出をした時、予定通り早い時間に帰れたのは、延べ参加人数の8割強だった。

 テスト後のアンケートで、87%が「有意義」と答えた。「育児に関与できた」(30代男性)、「夕食の準備をして共稼ぎの妻に感謝された」(40代男性)、「業務の効率化を強く意識するようになった」(40代男性)、「とても帰りやすかった」(20代女性)などの感想があった。

 一方、「朝食を家族と一緒にとれなくなった」(20代女性)、「残業せざるをえない状況では早朝出勤が負担」(30代男性)といった否定的な意見もあった。

■窓口業務ある職場「長時間労働に」

 7月からの「ゆう活」は、地方の出先機関も含めて全府省が対象だ。国家公務員の労働組合でつくる国公労連の鎌田一・書記長は「聞いた時は耳を疑った。誰も賛成していないのに」という。

 特に懸念が広がっているのは地方だ。法務省なら法務局、厚生労働省ならハローワークや労働基準監督署といったように、各省には窓口業務をしている出先がある。「ゆう活」になっても窓口時間は変わらない。受付は午前8時30分から午後5時ごろということが多いが、朝早く出勤しても窓口業務はなく、逆に窓口が開いている時間に早く帰ることになる。

 人事局の方針では、?交代制の人?育児・介護などの事情がある人?行政サービスが下がる場合?確実に長時間労働になる人、などは対象から外してもいいことになっている。全員が参加する必要はない、という建前だ。

 でも、「どの職場もギリギリの人員で、非正規職員が増えている。1人でも早く帰れば、ひずみがでる。それに早朝出勤しても早く帰れなければ長時間労働になるだけ」と鎌田書記長。

 労組には「電車の本数が少なく、早出はできない」「生活リズムが崩れる」といった声や、「発想が男性目線。朝に炊事や洗濯、子供の弁当作りをやったことがない人の発想」といった批判も届いているという。

 どこまで対象にするかは、各府省の判断。ノルマはないが、人事局には実施状況を報告することになっている。(編集委員・沢路毅彦)

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