【生きる働く】過労死なくすには 大綱閣議決定 数値目標 実効性ある具体策を

http://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/193299
2015年09月05日 西日本新聞朝刊

「過労死を防ぎたい」。その思いで労働基準法の改正反対を訴える集会に参加する木谷晋輔さん(中央)

 働くことは生きること。働き過ぎて死んでしまうなんて本末転倒だ。そんな過労死の悲劇が後を絶たない中、昨年11月施行の「過労死等防止対策推進法」に基づく対策大綱が今年7月に閣議決定された。大綱では過労死ゼロに向けた数値目標を盛り込む一方、政府は長時間労働がはびこるにもかかわらず労働時間の規制緩和を目指す。過労死をなくすには何が必要か考えた。

 「全国過労死を考える家族の会」に所属し、大綱の取りまとめに関わった西垣迪世(みちよ)さん=神戸市=は2006年、神奈川県のIT関連会社でシステムエンジニア(SE)として働いていた一人息子の和哉さん(享年27)を失った。

 「世界に通じる仕事がしたい」。和哉さんは希望に胸を膨らませていた。だが、残業は恒常的に月100時間を超えた。終電を逃すと机に突っ伏して仮眠を取り、朝そのまま働くことも多かった。うつ病を発症。入社4年目に治療薬の過剰摂取で亡くなってしまう。過労死の労災を認められなかった西垣さんは遺族として国を提訴し、11年にようやく過労死と認定された。

 「大綱は大きな一歩だが、単なる文章では意味がない。実効性のあるルールを早く作ってほしい」。大綱の中身を具体的な取り組みにつなげられるかが鍵を握ると指摘する。

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 厚生労働省の調査では、過重労働によって脳・心臓疾患を発症したとして労災を申請した件数はここ10年、年間700件台後半〜900件台前半と高止まりが続く。一方、精神疾患の労災申請は年々増加。14年度は1456件と過去最多となった。だが、これらは氷山の一角とみられる。申請自体を諦めてしまうケースも少なくないからだ。

 大綱では「将来的に過労死ゼロを目指す」と明記。(1)20年までに週60時間以上働く人の割合を5%以下にする(14年=8・5%)(2)20年までに年次有給休暇取得率を70%以上にする(同48・8%)(3)17年までにメンタルヘルス対策に取り組む事業者割合を80%以上にする(13年=60・7%)‐との数値目標を掲げた。

 また、過労死の要因を探るため、労災認定された事案の調査研究を行うほか、企業と協力して労働者約2万人を対象に生活習慣や勤務状況を長期的に調査し病気との関連性を明らかにする。啓発活動や相談体制の整備にも力を入れる。

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 「過労死防止対策を打ち出す一方で過労死を招く法律をつくるなんておかしい」。東京都北区の木谷晋輔さん(36)は政府が目指す労働基準法の改正に反対の声を上げる。

 過労死した和哉さんと同じSEで同期入社。部署は違ったが、やはり月100時間を超える残業や休日出勤、徹夜の作業で体調を崩し、休職と退職を繰り返した。生きていたいと思えず自殺未遂をしたとき、異変に気付き駆け付けてくれたのが和哉さんだった。だからこそ「なぜ救ってやれなかったのか苦しくて」。会社を辞め、現在は治療を続けながら過労死防止の啓発活動に取り組む。

 労基法改正案には、高収入の専門職で働く人を残業代支払いの規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の創設や、労使であらかじめ定めたみなし時間を超えた分の残業代が支払われない「裁量労働制」の拡大が盛り込まれている。いずれも長時間労働を助長し、働き手が使い放題にされる危険性が懸念される。「一生懸命働いた結果、体を壊し、命までも落とすなんて絶対にあってはいけない。誰にも私たちのような思いはしてほしくない」。木谷さんの切なる願いだ。
 

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