「夏休み16日間に短縮」の衝撃 子や保護者からは不満

 冷房が設置された教室で、冷風に向けて手を伸ばす児童たち=静岡県吉田町立中央小学校(写真省略)

静岡県吉田町が来年度から、町立小中学校の「夏休み」をお盆前後の16日間に短縮する。全国でも異例の短さ。町は「子どもにも、親にも、教員にもメリットがある」と理解を求めているが、「子どもの夏が一変してしまう」と懸念も出ている。
 吉田町の浅井啓言教育長は今回の改革の狙いについて、「新学習指導要領をいち早く先取りした」と説明する。2020年に実施される指導要領では、小学校中学年で「外国語活動」、高学年で「英語」が導入されることもあり、授業時間数が今と比べて年35時間増える。どこで捻出するか。町が出した答えが「夏休みの短縮」だった。
 吉田町の小中学校の夏休みは08年度まで全国でも標準的な39日間だった。現在の指導要領で授業時間数が増え、10年度に30日前後に短縮。今年度はさらに4日間減らし、小学校は23〜24日間、中学校は29日間。来年度はお盆前後の平日10日間程度を休みにし、前後と間の週末を加えて「16連休」になる予定だ。
 授業日数が増えた分、1日あたりの授業時間は減る。そのことで、教員の長時間労働を緩和する狙いもある。現在は小学校で平均57・6時間、中学校で同90・1時間の時間外勤務を、それぞれ40時間、60時間以内(部活動を含む)に抑える見通しという。
 放課後が長くなる分、子どもたちが校舎内外で過ごせるプログラムも充実させ、放課後児童クラブや退職教員らによる補充学習などを計画している。「特に母親がフルタイムの仕事に就きやすくなる」として、浅井教育長は「教職員は授業に専念でき、子どもは確かな学力を身につけ、母親は働きやすくなる」と、メリットを強調する。
 盛夏の授業に向けての準備も進む。町教委は今年、1億9千万円をかけて3小学校の全89教室に冷房を設置した。
 一方、吉田町の子どもや保護者からは不満が聞こえてくる。中2男子は「友達も先生も好きだけど、夏休みは吉田町から脱出したい。部活も自主勉も中途半端になる」。小4女子は「夏休みが短くなるなら、教室にエアコンなんていらない」とこぼした。
 子どもが中学生という40代女性は「夏休みは部活の総仕上げや高校見学の時期。問題が解決していないのに、決定したと言われても不安」。別の40代の専業主婦は「家庭や子どもの多様性に配慮がない」と批判する。
 町が6月に開いた説明会でも、部活動の大会などが7〜8月に集中することを念頭に「大会や練習に出れば、欠席扱いなのか」「欠席が多いと内申書に響かないか」といった疑問が続出した。町教委は「大会日程などは関係機関と調整を進める」と答えた。
 「長期休暇を使って、夏休みならではの体験を子どもにさせたい」と反対する意見も出た。ただ、町教委は「16日間もあれば、たいていのことはできる」と否定的だ。
 教員の働き方改善につながる、という主張に対しては県教職員組合も懐疑的だ。授業時間が減っても「部活動の時間が延びたり、持ち帰り仕事が増えたりするだけ」としており、「夏休み中にある教員の研修や免許更新の講習、研究集会への参加などが難しくなる」とも指摘している。
 文部科学省も注目する。中央教育審議会は昨年12月、指導要領に対応するために夏季・冬季の休業短縮や土曜の活用を提案している。18日には、同省の高橋道和・初等中等教育局長が吉田町の小学校などを視察に訪れ、「意欲的な取り組みだ」と語った。(阿久沢悦子)
■教員の帰宅 早まらない
 〈教員の働き方改革に詳しい早大大学院の油布佐和子教授の話〉 児童生徒が学校にいる限り家に帰れないのが、教員という職業。1日あたりの授業時間数を減らしても、教員の帰宅は早まらない。新学習指導要領で授業時間数も内容も増えるのに、教員数を増やさないことに根本的な矛盾がある。
■学校から離れ 遊ぶ豊かさ
 〈教育雑誌編集長で小学校教員の岡崎勝さんの話〉 子どもたちに「夏休みに何をしたい?」と聞くと「まったりしたい」と返ってくる。英語、道徳、ICT(情報通信技術)と次々に課され、学校の毎日がきついのだ。夏休みに、学校の目の届かない所で子どもが遊べる豊かさを、大人が忘れてはいけない。

この記事を書いた人