「納期優先・繁忙期が…」残業上限、高止まり企業の苦悩

朝日DIGITAL 2017年12月4日
http://digital.asahi.com/articles/photo/AS20171203002668.html

写真・図版:情報公開請求で開示された「36協定届」(省略)
 日経平均株価を構成する主要企業の過半が「過労死ライン」を超える残業を社員にさせられる労使協定を結んでいたことが、朝日新聞の情報公開請求と取材で明らかになった。流行に遅れまいとするかのように「働き方改革」を口にする経営者は増えたが、残業時間の上限規制が導入されれば罰則が科せられる水準まで残業を可能にしている大企業はいまだに多い。(贄川俊、堀内京子、土屋亮)
残業上限、5割超が過労死ライン 朝日主要225社調査

あの企業の残業上限は? 225社の全リスト 朝日調査

「対応はしたいが、繁忙期を考えると、すぐに上限時間を下げるのは難しい」
 最長で月130時間、年740時間の協定時間を昨年から変えていない不動産大手、三菱地所の安達憲瑞(のりみつ)・人事部専任部長は頭を悩ます。業務の見直しにより社員の平均残業時間は減っているが、商業施設など大型プロジェクトの担当部署や経理部門の社員は、忙しい時期の残業が100時間を超えてしまうことがあるという。
 政府は早ければ2年後の残業上限規制の導入に向けて労働基準法を改正する方針。年間の上限を720時間、繁忙月の上限を100時間未満とするなど、今は事実上青天井になっている残業時間に初めて法的な強制力がある規制を設ける。
 規制強化を控えて残業削減の取り組みを強めようと、三菱地所は今年4月から、「月100時間」「月80時間は年5回まで」などとする残業時間の上限に関する社内基準を設定。部署ごとに基準を超えた人数を社内で公開し、役員が集まる3カ月に1度の経営会議で報告するようにした。安達氏は「担当役員が評価されるのは大きい。残業削減に向けた管理職の意識改革につなげたい」と話す。
 今年7月時点で「月100時間」以上か「年720時間」を超す上限を設定していた企業は65社。うち45社が「協定時間を今後減らすつもり」としているが、引き下げの対応に苦慮している企業が少なくない。残業時間の上限を事実上青天井にできる現行の労基法の下では、協定に違反しないように上限を高く設定する企業がまだまだ多い。とくに規制の適用が5年間猶予される建設業で引き下げが進まない企業が目立つ。
 2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設工事を受注した大成建設は最長で月150時間、年1200時間の上限を維持したまま。この協定時間は大規模プロジェクトに関わる部署が対象で、「工期・納期を優先すると残業せざるを得ない場合がある」としている。大林組も全職種で最長で月150時間、年1170時間の上限を変えていない。
 昨年10月時点の協定時間が月200時間と最長だったIHI。今年に入って一般社員は100時間に下げたが、建設部門の社員は150時間にとどめた。「業界の慣行から週休2日を前提としない対応を求められる場合があり、移行期間が必要と判断した」という。
 東京急行電鉄は「単に上限時間を引き下げるだけではサービス残業につながりかねない」として、最長で月150時間の上限を据え置いた。法改正までに人員配置を見直して協定時間を引き下げたいとしている。
 東洋製缶グループホールディングス(HD)は4月の繁忙期に経理部門の人数を増やしたが、協定時間は最大月150時間だった上限を130時間に減らすのにとどめた。「少し余裕をみて上限を設定した。法の施行に向けて規制値以下に収めたい」としている。

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