残業上限、半減させた企業も 働き方「徹底的に変えた

朝日DIGITAL 2017年12月4日

写真・図版:情報公開請求で開示された「36協定届」(省略)
 日経平均株価を構成する主要企業の過半数が「過労死ライン」を超える残業を社員にさせられる労使協定を結んでいたことが、朝日新聞の調べでわかった。長時間の労使協定を結んでいた主要企業の中には、協定時間を半減させるなど大きく見直す動きも出てきた。
残業上限、5割超が過労死ライン 朝日主要225社調査

あの企業の残業上限は? 225社の全リスト 朝日調査

昨年10月時点で「4週で120時間」という協定を結んでいた百貨店大手の高島屋は3月に「同56時間」に一気に減らした。年初に残業時間を洗い出し、財務、人事、労務などの担当で月80時間以上残業している社員が数人いると確認。上司から聞き取りをして不要な仕事を削減し、月60時間に相当する4週56時間まで減らせるメドをつけた。人事部の塚田章博労務担当次長は「思い切ってやらないと残業は減らないという思いがあった。決算や労働条件の交渉といった繁忙期をなんとか協定の範囲内で乗り切れた」と振り返る。
 原発の運転延長を巡る審査に対応していた課長が昨年4月に過労自殺した関西電力。今年1月に労働基準監督署から労働時間管理の徹底を指導されたのを機に、最長で月200時間の上限を80時間に下げた。パソコンの起動時間で勤務時間を記録するシステムを導入し、夜間・休日の不急のメールの原則禁止なども打ち出した。岩根茂樹社長は1月の記者会見で「単なる管理でなく、働き方を徹底的に変える」と強調した。
 規制の上限を意識して見直しに動く企業も。大和証券は昨年10月時点で最長110時間だった月の上限を、政府が導入を予定する繁忙月の上限規制と同じ「月100時間未満」に改めた。「緊急対応として政府が示した目安に合わせた。協定時間はさらに減らしていくつもりだ」と担当者。上限がはっきり決まらない協定は珍しいが、労基署は受理したという。
「隠蔽させぬ仕組み必要」

協定時間を引き下げる動きについて、36協定に詳しい松丸正弁護士は「部分的には望ましい傾向だが、これだけで長時間労働の是正は進まない。むしろサービス残業が増える恐れもある」と懸念する。罰則付きの規制が導入されると、違法残業の摘発を恐れる企業が社員に労働時間を過少申告させ、長時間労働の隠蔽(いんぺい)に動きかねないためだ。多くの労働組合も協定時間の引き下げに熱心とは言い難い。
 「パソコンやタイムカード、入退館記録など様々なデータを利用して労働時間を把握する仕組みを作らせないといけない」。松丸氏は企業に労働時間の把握を義務づける必要性を説く。
 労働基準監督官1370人を対象に労働時間規制で必要な対策を尋ねた14年末のアンケート(複数回答可)では、7割強の991人が「実労働時間の把握義務の法定化」を挙げ、「時間外・休日労働にかかる上限規制の導入」(624人)を上回った。調査をした全労働省労働組合の森崎巌・中央執行委員長は「客観データがないと、長時間労働を指摘しようがない。現状では、労務管理がずさんな企業ほど違反を免れてしまう面もある」と話す。
 政府は労働時間規制の強化と「抱き合わせ」で、専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の導入や、労働時間規制が緩い裁量労働制の対象拡大を進める方針だ。過労死ラインを超える協定時間の引き下げもままならない企業が多いなか、こうした施策を導入すれば、政府が目指す「過労死ゼロ」の実現は遠のきかねない。

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