社説[働き方改革法施行]労働環境是正の一歩に
2019年4月8日 05:00
働き方改革関連法が施行された。事実上の青天井だった時間外労働に罰則付きの上限を設け、「同一労働同一賃金」が原則として正社員と非正規社員の間にある不合理な待遇の是正などを盛り込んだ。
時間外労働の上限が定められたのは1947年の労働基準法制定以来初。「長時間労働」や「待遇格差」などに代表される日本の労働の価値観を変える第一歩である。
時間外労働の上限は、大企業は今年4月1日から、中小企業は来年4月1日から適用される。残業時間を年間、単月、2〜6カ月間ごとに細かく規制し、これらを超過すれば6月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性がある。曖昧な労務管理は許されない。繁忙期に時間外労働に頼っていた企業では、雇用のあり方そのものを変える必要に迫られる。
ただ上限は単月100時間、2〜6カ月平均80時間となるなど過労死ラインぎりぎりだ。企業の取り組みによっては長時間労働の解消につながらない危険性もある。
柱の一つである一定の年収以上の人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」は、長時間労働の抜け穴となる危険性もある。安倍晋三首相は国会で「この制度は本人の同意が必要で、望まない人には適用されない」と答弁したが、その担保となる歯止めが必要だ。
関連法は、過労死の根絶を求める世論の高まりに押されて実現した。企業や経営者は同法が意図するところをしっかりと認識し、労働環境の改善に努力してほしい。
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同一労働同一賃金の厳格化は大企業で来年4月1日から、中小企業は2021年4月1日から適用される。
国内の非正規社員は、働く人の4割を占める。一方、非正規の賃金は正社員の6割程度にとどまっている。県の調べでは県内の観光産業を支える宿泊・飲食サービス業に携わる女性従業員の8割が非正規という。非正規社員の待遇改善は格差社会の是正につながる喫緊の課題だ。
ただ、具体的な内容は厚生労働省が作成する指針に基づいて労使交渉で決められる。格差解消のため、正社員の待遇が引き下げられる懸念も出ている。
厚労省は指針の中で待遇引き下げによる格差是正は好ましくないとするが、関連法の理念を実現するには、安易な引き下げを食い止める実効性のある対策が求められる。
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初の罰則規定とともに効力を発揮しそうなのが、労働基準関連法令に違反した企業名の公表制度だ。対象となるのは悪質な違反を繰り返したり、労働基準監督署が書類送検した企業(中小零細企業を除く)で、厚労省は「社会への啓発が目的」とする。
人手不足による倒産は18年度、過去最多の400件だった。
長時間労働や低賃金を前提とした雇用のあり方は、物づくりやサービスなど人の手で生み出されるあらゆる「商品」に密接に関わっている。国はもちろん、労使ともに不断の努力で働き方を見直さなければならない。