テレワーク(リモートワーク)の現状と課題~過労死等防止対策推進シンポジウム(大阪)に参加して~

「テレワーク(リモートワーク)の現状と課題〜過労死等防止対策推進シンポジウム(大阪)に参加して」

1 はじめに 

 新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中、都市部を中心にテレワークという働き方が一気に広がりました。

 東京や大阪などの都市部では、海外でも話題にのぼるほどの激しい通勤ラッシュを回避することができますし、移動の時間やストレスを減らすこともできます。もちろん、通勤時の新型コロナウイルス感染のおそれもなくなります。

 自宅にいながら仕事ができるという新しい働き方は、このような移動の時間やリスクなどを一挙に解決する夢のような働き方に映ります。

 しかし、現実はそのような素晴らしい側面ばかりなのでしょうか。

 2020年2月頃から新型コロナウイルス感染症が蔓延し、テレワークを導入する企業が増加し出して、はや10ヶ月が経過しようとする中、テレワークにはいったいどのような問題や課題があるのでしょうか。

 2020年11月16日、今年度の「過労死等防止対策推進シンポジウム」(大阪)では、そのようなコロナ禍における働き方の変化、リモートワーク(テレワーク)の現状や課題について、取り上げました。

 私はこのシンポジウムに参加して非常に参考になるお話を伺いましたので、そこでのお話も含めて、テレワークの現状と課題について、簡単ですが以下ではご報告したいと思います。

2 テレワークの現状

 緊急事態宣言前(2020年3月)と後(2020年5月下旬)の調査(東京商工会議所「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」)によると、テレワークの実施率は、緊急事態宣言前では26.0%だったものが、緊急事態宣言後には67.3%と約2.6倍増加しています。またその特徴は、大企業のみならず中小企業、小規模企業など従業員規模にかかわらず、増加しているという点です(緊急事態宣言解除後は微減)。

 業種別にみると、情報通信業や学術研究、専門・技術サービス業は実施率が高いのに対して、医療、介護、福祉は実施率が低く、職種別にみると、コンサルタントや企画・マーケティング等は実施率が高いのに対して、販売職・医療系専門職、製造等は実施率が低いことが報告されています(パーソル総合研究所「第3回新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」)。

 このように、特に東京や大阪などの都市部においては、新型コロナウイルス感染拡大により、可能な業種や職種に関しては、感染防止のために外出を控える動きがテレワークの促進を加速したことは間違いありません。
※「テレワークをめぐる現状について」(厚労省)参照

3 テレワークのメリット

 労働者のテレワークを継続したい理由としてもっとも大きいものは、「通勤時間や移動時間を削除できる」(79.9%)というものでした。特に東京や大阪の都市部での通勤地獄によるストレスや体力の消耗を回避することができるという点にテレワークのメリットを感じる労働者が多いようです。

 また、その移動時間の削除や無駄な会議時間の短縮などによって「自由に使える時間が増える」(30.1%)、一人で黙々と仕事に向き合うことができることによって「業務効率が高まる」(29.3%)、「オフィスで仕事をするよりも集中できる」(28.5%)といった回答が続きました(NTTデータ経営研究所ほか「緊急調査:パンデミック(新型コロナウイルス対策)と働き方」)。

4 テレワークの課題

 他方で、テレワークにおける課題としては以下のようなものが挙げられます。

(1)労働時間の管理・業務量の把握

 ア  使用者による労働時間の把握

 そもそも、テレワークであろうと、「労働者」として働く方々には労働基準法上の労働時間規制や労働安全衛生法が適用されます。
 そのため、使用者は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)に基づき、適切に労働時間管理を行わなければなりません(労働安全衛生法66条の8の3参照)。使用者は原則として、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録することが求められます。

 また、同ガイドラインには、「やむを得ず自己申告制で労働時間を把握しなければならない場合」についても、①適正な運用に関して十分に説明すること、②自己申告とパソコンなどの記録と乖離がある場合には実態調査を行い、補正をすること、③自己申告を阻害する措置を設けてはならず、慣習的に36協定を超えた労働時間がないか確認することなど留意事項についても記載があります。

 イ テレワークに際して生じやすい事象

 (ア)長時間労働の危険性

 シンポジウムおいて、使用者が適切に労働時間を管理できず、長時間労働を強いられる危険性が高まることが話題にあがりました。

 テレワークの場合、上司と部下のコミュニケーションがうまくとることができないと、上司が部下の業務量を把握することができずに、労働時間内に到底終了することができないような業務指示が行われる可能性があり、長時間労働を強いる危険性があります。

 また、労働時間の管理が困難であるため、労働時間の規制が及ばない個人事業主化、あるいは裁量労働化していくという動きがあります。しかし、本来労働者のいのちと健康を守るための労働時間規制であるはずが、労働時間の管理が困難であるため労働時間規制の及ばない制度にするということは本末転倒であり、許されません。

 労働時間管理が困難であるという理由で、事業場外みなし労働時間制や、裁量労働制の導入している企業が多々見られるようになっていますが、これらを導入するためには明確に要件が定められています。これらの要件を満たさないにもかかわらず、事業場外みなし労働時間制や裁量労働制を導入して、まさに働かせ放題となっている企業が散見されることもシンポジウムでは報告がありました。

(イ)中抜け時間など

 「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」(厚労省)において、テレワークに際して生じやすい事象として、労働者が一定程度業務から離れる時間、いわゆる「中抜け時間」についての記載があります。

 この中抜け時間は、労働者が労働から解放され、自由に利用することが保障されている場合には、使用者は業務の指示をしないこととして、開始時間と終了時間を報告させる等により「休憩時間」として扱ったり、時間単位の年次有給休暇として扱うことが可能です。ただし、「休憩時間」として扱い労働者のニーズに応じて始業時刻や終業時刻を変更する場合にはその旨を就業規則に記載する必要があります(一方的に変更できない)し、時間単位の年次有給休暇を与える場合には、労使協定の締結が必要となります。

 さらに、同ガイドラインには、テレワークに際して生じやすい事象として、移動時間中のテレワークや勤務時間の一部をテレワークとする際の移動時間に関する記載があります。
 詳しくは、以下からご確認ください。
  https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf

(2)社員間のコミュニケーション不足・孤立化

  「テレワークを巡る現状について」では、テレワークによって社員間のコミュニケーションが減少することも課題として挙げられています。

  会社では、近くにいる社員との雑談などで会社の現状や状況について情報を取得することがあったものの、テレワークでは、最低限のオンライン会議でしか同僚や上司とコミュニケーションをとることがなくなるため、そのような雑談の機会を持つことができません。

  特に新入社員など経験の浅い社員は、仕事の進め方が分からないまま上司から業務を指示され、気軽に同僚や上司に聞くことができないという状況を強いられます。そうすると、非常に孤立した状況でどのように仕事を進めてよいのか分からず強いストレスを感じてしまいます。

  このようなことがないようにするためには、会社において、オンライン上で気軽に参加できるグループミーティングやチャットなど雑談に近い形で社員同士が容易にコミュニケーションをとることができる機会を持つように保つことが必要となります。

  また、テレワークでもメンタルヘルスの相談窓口を設置し、周知することや病欠をとることができるようにすることも、メンタルヘルス対策としては必要となります。

(3)テレワークができない者との不公平感

  工場や現場で直接モノや人と接しなければならない仕事(製造、福祉・保育、医療等)はテレワークをすることが困難です。同じ会社内でテレワークができる者とできない者がいる場合、テレワークができない方からすれば、家にいながらにして働いている者と同じ給料が支払われることに不公平感を持つ者も少なくないようです。

  このような場合には、会社内での一体感を失わせてしまう可能性があるため、会社としてはテレワークができない者に対していかに手厚い処遇を設けるかということも重要となってきます。

(4)オンとオフの切り替えが難しいこと

  「テレワークを巡る現状について」によると、テレワークのデメリットと感じる点に関するアンケートで最も多かった回答は、勤務時間とそれ以外の時間の区別がつけづらいことでした(日本労働組合総連合「テレワークに関する調査2020」)。

 家庭は、仕事から離れて、疲れた心と体を回復させるために不可欠のものです。しかし、テレワークによって、仕事と私生活や家事の時間の区別をつけることが難しくなり、心理的にも仕事から解放されたと感じにくい状況が生まれます。これにより、人によっては業務効率や生産性が落ちたり、ストレスを抱えてしまうことが起きてしまいます。

5  まとめ

 以上のように、テレワークには課題もまだまだあります。しかし、移動時間のストレスや疲労を回避することができ、なにより現在蔓延している新型コロナウイルスから自らを守ることができるテレワークは新たな働き方として、今後ますます定着していくことが予想されます。そこで、テレワークを導入するにあたって、これらの課題を十分に直視して、労働者の健康を確保するために様々な対策を検討した上で導入していかなければなりません。

 私自身、テレワークの相談事例を多く受けているわけではなく、テレワークに対する理解がまだまだ十分とはいえません。今後も様々な方の声に耳を傾け、テレワークにはどのような課題があり、どのように改善すべきなのかを考えていきたいと思います。

以上

この記事を書いた人

西川翔大