転勤廃止しました。でもどうやって? (8/27)

転勤廃止しました。でもどうやって?
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190827/k10012050561000.html?utm_int=detail_contents_tokushu_001
NHK News 2019年8月27日 17時33分

転勤は人生の一大転機。家族も一緒?それとも単身?パートナーの仕事や子どもの学校は?マイホームはどうする?などなど家族ぐるみでいろいろな悩みに直面しますよね。最近では、転勤がある会社では働きたくないという若者も多いそうです。こうした中、転勤を前提としたこれまでの制度を改め、原則として転勤を廃止すると宣言した会社があります。人材をつなぎ止めるためには働きやすさをアピールする必要があると考えたからです。手探りで取り組む現場を取材しました。(政経国際番組部ディレクター 矢島哉子 経済部記者 新井俊毅)

“転勤廃止”はこうして決まった
AIG損害保険本社(東京 港区)
転勤を原則、廃止したのは、東京 港区に本社があるAIG損害保険です。この会社は7700人を超える社員を抱え、国内に約200の営業拠点やサービスセンターを置いています。

転勤を廃止したのはことし4月。全国転勤が当たり前だった保険業界に大きな衝撃が走りました。

なぜこのような異例の決断に踏み切ったのか。そのきっかけは、おととしの秋に実施した社内アンケートでした。
「働く場所に関して、あなたが最も重要だと考える項目を3つ選んでください」この設問に対して、実に61%の社員が「希望勤務地を選べる」という項目を選び、次いで44%の社員が「社命の転居転勤が無い」という項目を選びました。

これを機に、人事部では、「そもそも転勤制度が必要なのか」という根本的な議論を始めました。社員の家庭の事情にも向き合ったといいます。

人事部の牧野祥一マネージャーはこう振り返ります。
AIG損害保険人事部 牧野祥一マネージャー
「単身赴任でもう何年も家族と一緒に住んでいないという人もいた。『転勤に伴う社員の負担感』と、『転勤がキャリア制度の一助になる』ということをてんびんにかけて、あえて存続させる必要はないという結論に至った。働きやすい会社にして、いかに社員をつなぎ止められるかが問われているが、その1つの答えがこの転勤制度の改革だ」
“転勤廃止”を実現する仕組みとは
転勤廃止といっても、社員の転勤が完全になくなるわけではありません。希望すれば転勤することはもちろんできますし、転居を伴わない範囲で、勤務地が変わることもあります。

しかし、転勤を希望しない社員が会社の都合で強制的に転居がある異動を命じられたり、単身赴任を余儀なくされたりするということは原則としてなくなりました。

とはいっても全国に200もの拠点があるこの会社。適正な人員配置ができるのでしょうか。転勤廃止を実現するために参考にしたのが社員アンケート。これを踏まえて、転居がある転勤を受け入れる「モバイル社員」と、希望する勤務地で働き、転居を伴う転勤をしない「ノンモバイル社員」に分けました。

その結果、「モバイル社員」の割合は25%、「ノンモバイル社員」は75%という形になりました。「ノンモバイル」を選択した場合、原則として転居を伴う転勤を命じられることはありません。
AIGは全国を11のエリアに分け、ことし4月から順次、社員の希望に沿った形で人員の配置を進めています。そして2年後、2021年の9月までに「ノンモバイル」のすべての社員が希望する地域で働けるようにすることを目指しています。

「モバイル社員」と「ノンモバイル社員」の間には、給料や評価に差を設けません。ただ、この会社では、全国転勤を受け入れる「モバイル社員」を一定の割合で確保しなければ、“原則転勤廃止”の制度はうまく機能しないと考えています。

このため「モバイル社員」の転勤に伴う経済的な負担を軽減するため、例えば、住宅費の最大95%を補助したり、特別手当として毎月最大20万円を支給したりすることが検討されています。会社では2021年の10月からこうした制度を導入する計画です。
手探りの中で課題も
しかし社員の希望をもとに配置を決めるとしても、「職位」や「担当業務」に応じてバランスのよい業務体制を組むことは簡単ではありません。
ある営業拠点のポストには希望者が見当たらず、逆に別の拠点のポストには希望者が集中するといった問題がどうしても出てきます。また総務や経理など管理部門の仕事は、東京で集中的に行っているため、こうした部門の担当者が東京や大阪以外の地域で働くことを希望しても、ポストがないという問題もあります。

しかし、牧野マネージャーは、組織の体制や働き方を変えることで転勤廃止は実現できると考えています。
「(牧野マネージャー)私たちのやり方が完全に正しいかどうかはわからないが、東京と大阪に集中している管理部門の人材を地方に分散するなど組織の体制を見直すことで、課題となっている配置のマッチングの問題も解消できるはずだ。ただ、社員のパートナーが私たちの営業拠点がないような場所に転勤してしまうと、社員の家庭生活が成り立たなくなってしまう。おこがましい言い方かもしれないが、この取り組みが他の企業にも広がることで初めて完全なものになるのではないかと思っている」
転勤制度はどう変わる?
AIGのように転勤を廃止するという企業はまだ少数派ですが、優秀な人材をつなぎとめるため、これまで当たり前だとされた転勤の制度を見直す動きは徐々に広がっています。

例えば全国に宿泊施設を展開する「星野リゾート」は、「この地域で働きたい」と手を挙げた社員を優先的に転勤させる「挙手制」を採用。

またビール大手の「キリン」は、通算5年、2回まで転勤を回避できる制度を導入しています。

転勤が社員の育成や組織の活性化につながることは多くの経験者が認めるところですが、こうしたメリットを生かすためには、企業が社員や家族の事情に配慮してサポートする体制を整えるなど、転勤制度を機能させるための工夫も求められることになりそうです。
政経国際番組部ディレクター
矢島哉子

平成21年入局
経済部記者
新井俊毅

平成17年入局
北見局 札幌局をへて経済部
現在 遊軍プロジェクト担当 

この記事を書いた人