トラック運転手の労働環境はなぜブラックになってしまうのか? ドライバーを縛る「荷主第一主義」
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190914-00201585-hbolz-soci
9/14(土) 8:33配信 HARBOR BUSINESS Online
〔写真〕トラック運転手の労働環境はなぜブラックになってしまうのか? ドライバーを縛る「荷主第一主義」
荷待ちのため、深夜に長蛇の列を作るトラック
トラックドライバーを苦しめる「荷待ち」の時間
「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。
前回は、「不規則な生活や肉体労働に対峙するトラックドライバーの職業病」について紹介したが、今回からは、「業界に蔓延る“荷主第一主義”の弊害」について前編・後編に分けて紹介する。
前編である今回は、トラックドライバーの労働環境が過酷になる根源とも言える「荷待ち」について述べていきたい。
トラックには、「ノロノロ運転」や「エンジンを掛けたままの駐車」など、世間に迷惑を掛けると分かっていながらも、そうせざるを得ない「道路上の事情」が多くあることは、今まで言及してきた通りだ。
こうした事情をなかなか分かってもらえずに「邪魔者」という烙印を押されてしまう彼らは皆、やきもきしながら日々走り続けている。
クライアントである荷主の要望には無理をしてでも応じなければならない
が、トラックドライバーが理不尽を被るのは、道路上に限ったことではない。むしろ、彼らが心身ともに疲弊するのは、「荷主(荷物の輸送を依頼する運送業者にとっての客)」とのやり取りの時であることが多い。
トラックドライバーにとって、荷主の言うことは「絶対」だ。所属している運送会社からの指示はもちろんだが、場合によっては、そんな会社からの指示以上に、現場で告げられた荷主の要望を優先せざるを得ないこともある。
なぜか。他でもない、荷主は彼らトラックドライバーにとって“お客様”だからだ。
そんな“お客様”からの無理な要望は、トラックドライバーの労働環境を悪くし、時にその身を危険にさらすことさえある。
実際、トラックドライバーが現在強いられている多くの負担には、この「荷主第一主義」が関係しているケースが非常に多い。これまでに紹介した「路上駐車での休憩」、「荷待ち」、「ETCの深夜割引への固執」、「手荷役」などもその数例だ。
中でも、彼らが毎度必ずといっていいほど直面するのが、「荷待ち」である。
荷待ちとは、「積んでいる荷物を現場で降ろすまでの待機状態」のことをいうが、基本的にトラックは、遅れて到着する「延着」はもちろんのこと、早く現場に到着する「早着」も許されておらず、それゆえ、ほとんどの現場でこの荷待ちが発生することになる。
それどころか「近所迷惑」という理由で、荷主の建物付近での待機すら禁じられることもあり、そのためドライバーには、常に早く到着した時の「待機場所」を考えて、走ったり時間調整したりする必要が生じるのだ。
産業界に定着する「ジャスト・イン・タイム方式」の弊害
ここまで荷主が「時間」にうるさくなるのは、昨今、日本の産業界で定着している「ジャスト・イン・タイム方式」と呼ばれる生産方法に要因がある。
某自動車メーカーが開発したとされる同方式は、「必要なもの」を、「必要なとき」に、「必要な量」だけ供給するという考え方で、今や「無駄を省く」、「効率を上げる」を徹底する日本の産業界に幅広く浸透している。
しかし、この方式を採用した場合、会社は「時間ちょうど」にその品物や製品が必要となるわけで、さすればそのあおりを受けるのは、必然とそれらを運ぶトラックドライバーとなる。
渋滞していようが、逆にどれだけ早く着こうが、彼らはとにかく「時間通り」に現場入りすることを求められるようになるのである。
それでいて着荷主自身は、余裕のある時間配分をしているのか仕事が遅いことも多く、時間通りに到着しても荷降ろしさせてくれなかったり、他トラックの作業が終わるまで3時間以上待たせたりもするため、トラックドライバーの拘束時間は伸びる一方。
走行中、あれほど神経をすり減らして調整する「時間」は、ひと度現場に到着すると、今度は「潰すもの」と化すのだ。
現在、多くの荷待ち現場では、他トラックが作る長い列の最後尾に並び、前車がじりじりと動くたびに自車も前へ進ませねばならず、車内のドライバーはおちおち休憩もしていられない。
長時間運転し、軽い仮眠しかとっていない彼らにとって、この待ち方は、非常に辛い。時には、寝落ちしたところ順番を飛ばされ、痛み分かち合うはずのドライバー同士でトラブルになることもある。
「働き方改革」はトラックドライバーには適用されていない
最近は、ドライバーに携帯を持たせ、順番が来ると連絡してくれたり、最新のスマホアプリで呼び出してくれたりする荷主もようやく徐々に増え始めているというが、それでも、筆者が現役時代の時からあるこの古い原始的な待ち方が、今でも変わらず王道であり続けていることに、物流業界全体の「体制の古さ」を垣間見るのだ。
ちなみにこの「ジャスト・イン・タイム方式」は、筆者に毎度「会席コース料理」を連想させる。あれほど繊細な味の料理を、ほどよい量、絶妙なタイミングで順に提供する日本のサービス意識。
その「滞りない流れ」に対する感覚は、業界や分野関係なく、日本に染みついているものなのだと、元トラックドライバーとしても、元工場経営者としても、外食好きとしても思う。
昨今これほどまでに騒がれている「働き方改革」だが、日本の経済を下支えするトラックドライバーの働き方は、この「荷主第一主義」という業界に蔓延る古い商習慣のせいで、未だほとんど改善されていない。
日本の物流におけるサービス意識は、間違いなく世界が真似できぬ程高い。高品質のサービスのためには、「滞りない流れ」に対する感覚も必要不可欠だろう。が、誰かの犠牲のもとに提供されるサービスは、もはやサービスでもなんでもないと筆者は思うのだ。
<取材・文/橋本愛喜>
【橋本愛喜】
フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。