フリーランスの報酬トラブル 身を守るための「法律知識」を弁護士が伝授 (9/30)

フリーランスの報酬トラブル 身を守るための「法律知識」を弁護士が伝授
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2019/09/30(月) 14:00配信 マネーの達人

フリーランスの報酬トラブル 身を守るための「法律知識」を弁護士が伝授
身を守るための法律

フリーランスになると仕事は自分で取ってこなければなりません。

ただでさえ不安定な立場なのに、契約後の値引き、度重なるやり直しの要求、報酬の支払い遅延、あげくの果てに不当な契約解除など古い慣例に苦しめられるケースもままあります。

どうしても発注者より立場が弱くなりがちなフリーランスですが、法律を知っていれば身を守ることができます。

この記事では、フリーランスが発注者と対等に仕事を進めるための法律を解説します。

まずは業務委託契約の特徴を知っておこう
フリーランスの働き方はさまざまですが、多くの場合は発注者から業務委託契約によって仕事を受注し、業務を処理して報酬をもらう形をとっています。

しかし、実は「業務委託契約」は民法に定められているものではありません。

ではどのような法的構成の契約なのかというと、民法上の「請負契約」または「(準)委任契約」のどちらかになる場合がほとんどです。

ただ、きちんとした契約書を交わしていれば、どちらの契約なのかを気にする必要はありません。

民法の規定(公序良俗違反など)に反していない限りは当事者が合意した契約内容が優先されるからです。

フリーランスとして忘れてはいけないことは、業務委託契約は雇用契約ではないため、労働法で守ってもらえることはないということです。

契約書が不当に不利な内容になっていないかを発注者と対等の立場で自分で判断する必要があります。

業務委託契約のメリット
自己責任で締結しなければならない業務委託契約ですが、フリーランスにとってのメリットはいっぱいあります。

メリットが多いからこそ、近年フリーランス人口が増加しているのでしょう。

そんな業務委託契約の主なメリットとしては以下のようなものが挙げられます。

・ 自由な場所・時間で働ける
・ 対人関係のストレスから解放される
・ 仕事を選べる
・ 能力があれば高収入が得られる
・ 短期間で業務が完了する(後腐れがない)

まさに「フリー」という言葉がピッタリですが、もちろんデメリットもあります。

業務委託契約のデメリット
業務委託契約には労働法が適用されず自己責任なので、以下のようなデメリットもあります。

・ 労働時間や健康管理は自己責任(労災などは適用されない)
・ 業務量や報酬額を交渉しなければならない
・ 経理作業、確定申告などを自分でしなければならない
・ 希望する仕事が常にあるわけではない
・ 社会保険や福利厚生などはない

フリーランスにとっての最大のデメリットとしては、立場が強い発注者に対して言いたいことを言えず、いろいろな面で泣き寝入りを余儀なくされやすいことでしょう。

しかし、この泣き寝入りを防止するための法律があります。

「下請法」がフリーランスの大きな味方になる
フリーランスが自分の身を守るためには、下請法を理解しておくことが大切です。

下請法とは、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、親事業者が下請事業者に対して優越的地位を濫用することを防止して、下請事業者の利益を保護するために作られた法律です。

詳しく知ることが望ましいのはもちろんですが、プロレベルの知識などなくても自分の身を守ることはできます。

フリーランスの方に覚えていただきたいのは、親事業者(発注者)がこの法律によって何を禁止されているかということです。

以下に親事業者の禁止行為をご紹介します。

■1. 口約束で仕事を発注すること

親事業者は、仕事の発注後ただちに書面を下請事業者に交付することを義務づけられています。

その書面は契約書には限らず、発注書や注文書といった形でも良いとされていますが、口約束でうやむやな契約をすることはできません。

■2. 代金支払いを遅延すること

下請代金は、下請事業者から納品を受けてから60日以内に支払わなければならず、それまでに支払われなかった場合は年14.6%の割合による遅延利息を支払うことを義務づけられています。

■3. 納品の受領を拒否すること

下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者からの納品の受領を拒むことを禁止されています。

■4. 代金を減額すること

発注後に代金を値引きすることを禁止されています。

たとえ下請事業者の同意があっても、納期遅れや納品物に瑕疵があった場合などのように下請事業者の責に帰すべき理由がない限り、下請法違反となります。

■5. 納品されたものを返品すること

下請事業者から納品を受けた後にそれを返品することも禁止されています。

■6. 低料金で買いたたくこと

相場に比べて著しく低い価格に下請代金の金額を決めることも禁止されています。

■7. 物の購入・役務の利用を強制すること

正当な理由がある場合を除いて、自社の指定する物の購入や役務の利用を下請事業者に強制することを禁止されています。

■8. 下請事業者に不利益な経済上の利益の提供を要請すること

協賛金などの名目で金銭の支払い(下請代金からの差し引きを含む)を求めたり、下請事業者の従業員の派遣・応援を無償で求めたりすることは禁止されています。

■9. 発注内容の変更ややり直しを不当に命じること

発注後に親事業者の都合で発注を取り消したり内容を変更することは禁止されています。

納品を受けた後にやり直しや追加作業をすることを追加費用なしで命じることも禁止されています。

■10. 下請事業者に報復すること

親事業者は、自社の下請法違反の行為を下請事業者が公正取引委員会等に知らせたことを理由として不利益な取扱いをすること

資本金の額や取引内容によっては対象外となるケースもあります
下請法には他にもいくつかの禁止行為が定められています。

どれを見ても、発注者が強い立場を利用して受注者に無理を強いる行為が禁止されていることが分かります。

親事業者の違反行為に対しては、公正取引委員会による勧告措置や、場合によっては刑事罰も用意されています。

なお、下請法の対象となる取引は幅広く認められていますが、資本金の額や取引内容によっては対象外となるケースもあります。

親事業者にダメージが大きい勧告措置
下請法に違反する親事業者の行為は、被害を受けた下請事業者からの公正取引委員会等への申立ての他、毎年行われている書面調査によっても発覚することがあります。

親事業者が勧告措置を受けると、企業名入りで違反内容や勧告内容が報道などによって公表されます。

はるやま商事、大創産業(ザ・ダイソーを運営)、日本生活協同組合連合会、アイリスオーヤマ、ザ・ダイソー、ニッセン、ヒマラヤ、プレナス(ほっともっと・やよい軒などを運営)、ファミリーマート、山崎製パン、セブン-イレブン・ジャパン、サンリオ、森永製菓などの名だたる有名企業も勧告を受けています。

平成23年度以降に公表された勧告措置は公正取引委員会のホームページで簡単に見ることができるので、興味のある方はご覧ください。

下請法違反への現実的な対処法
親事業者の下請法違反行為による被害を受けた場合の対処法としては、公正取引委員会が全国に設置している「相談・届出・申告窓口」に申し出るのが基本になります。

報告だけなら公正取引委員会のホームページからオンラインで送信できます。

場合によっては弁護士に依頼して親事業者と交渉してもらったり、裁判をしたりしなければならないこともあるでしょう。

しかし、現実には角が立つやり方をすると取引先を失う結果になってしまう恐れが強いので、自分で親事業者にやんわりと話すくらいしかできないという立場の方も多いことでしょう。

そんなときにサポートを受けられるサービスがいくつかあります。

中小企業庁では「下請かけこみ寺」というサービスを実施しています。

フリーダイヤルで電話をすれば、相談員や弁護士による無料相談、裁判外紛争解決手続(ADR)等を案内してくれます。

また、公益財団法人全国中小企業振興機関協会では価格交渉のサポートを行っています。

サポート内容としては個別相談やセミナーで価格交渉のノウハウについてのアドバイスになります。

下請法を理解して相談機関なども活用しましょう
下請法の条文を見ると下請事業者はバッチリ保護されるように見えますし、勧告措置も公表され、コンプライアンスも各企業に浸透しつつあります。

それでも、まだまだ親事業者による下請いじめが存在しているのも事実です。

フリーランスは取引先を失うと途端に生活に困ってしまう方も多いので、対処が難しいというのも現実です。

冒頭でご説明したとおり、フリーランスは自己責任で業務委託契約を結んで仕事をしなければなりません。

被害に遭う前に、良い取引先を見つけることも大事でしょう。

いずれにしても、最終的には自分の力で生き抜くという覚悟が必要だということは言えます。

上手に生き抜くためには、まず下請法を理解して、ときには上でご紹介した相談機関なども活用しながら、フリーランスとしての力を蓄えていきましょう。(執筆者:川端 克成 / 約15年間弁護士をするも、人の悩みは法律だけでは解決できないことに悩み続けてやめる。今は法律問題に限らず幅広いジャンルで執筆活動中。)
 

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