2019年08月07日掲載
ILO第190号条約「 仕事の世界における暴力とハラスメントの除去に関する条約」
https://www.inoken.gr.jp/law-and-guidelines/1054.html
第190号条約: 仕事の世界における暴力とハラスメントの除去に関する条約(全労連国際委員会仮訳)
国際労働機関の総会は、
国際労働機関の理事会によりジュネーブに招集され、2019年6月10日に第108回会期として会合し、
フィラデルフィア宣言が、すべての人間は、人種、信条または性別にかかわらず、自由および尊厳、並びに経済的保障および機会均等の条件において、物質的権利および精神的発展を追求する権利を持つと確認していることを想起し、
国際労働機関の基本条約の関連性を再確認し、
「世界人権宣言」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」、「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」、「すべての移住労働者とその家族の権利の保護に関する国際条約」、および「障害者の権利に関する条約」など、他の関連する国際文書を想起し、
ジェンダーに基づく暴力を含め、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するすべての人の権利を認識し、
仕事の世界における暴力とハラスメントは人権を侵害し、あるいは人権を損なう可能性があり、また暴力とハラスメントは機会均等に対する脅威であり、容認することのできないディーセントワークとは相容れないものであることを想起し、
暴力とハラスメントの防止のためには、互いを尊重し、人間の尊厳に基づいた仕事の文化が重要であることを認識し、
加盟国は、そうした行為と慣行の予防を促進するため、暴力とハラスメントに対するゼロトレランスの一般環境を推進する重要な責任を有し、仕事の世界におけるすべての関係者は、暴力とハラスメントを抑制し、防止し、またとりくまなければならないことを想起し、
仕事の世界における暴力とハラスメントは、人の心理的、身体的、また性的な健康、尊厳、家族と社会的環境に悪影響を及ぼすことを認め、
暴力とハラスメントは、公共と民間サービスの質にも悪影響を及ぼし、人々が、とりわけ女性が労働市場にアクセスし、とどまり、活躍することを妨げるおそれがあることを認識し、
暴力とハラスメントは、持続可能な企業の促進とは相容れず、職場組織、職場関係、雇用契約、企業の評判、生産性に否定的な影響を及ぼすことに留意し、
ジェンダーに基づく暴力とハラスメントは、女性と少女に偏重した悪影響を及ぼすことを認め、ジェンダーステレオタイプ、複合的かつ交差的形態の差別、ジェンダーに基づく不公平な力関係などを含めて、根底にある原因やリスクファクターに対処する包括的、総合的かつジェンダーに配慮したアプローチは、仕事の世界における暴力とハラスメントを終わらせるために不可欠であることを認識し、
ドメスティック・バイオレンスは雇用、生産性、健康、安全に悪影響を及ぼす恐れがあることに留意し、政府、使用者団体、労働者団体、また労働市場の制度は、その他の手段としてドメスティック・バイオレンスの影響を認識し、対応し、とりくみを促進できることに留意し、
同会期の議事日程の第5議題である仕事の世界の暴力とハラスメントに関する提案の採択を決議し、
その提案は国際条約の形式をとるべきであることを決定し、
2019年6月21日、「2019年の暴力とハラスメント条約」と称することのできる以下の条約を採択した。
1.定義
第1条
1.同条約の目的のために:
(a)仕事の世界における「暴力とハラスメント」の文言は、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントも含んだ身体的、精神的、性的あるいは経済的な危害を目的とし、結果としてもたらし、あるいは結果としてもたらす可能性のある単発の、または繰り返される容認できない行為と慣行、あるいはそれらによる脅威の領域をいう。
(b)「ジェンダーに基づく暴力とハラスメント」の文言は、性またはジェンダーを理由に人々に向けられた、あるいは特定の性、またはジェンダーに偏重して人々に悪影響をおよぼす暴力とセクシャルハラスメントも含んだハラスメントを意味する。
2.第1条(a)および(b)の概念を毀損することなく、国内の法規における定義は、ひとつの概念として、あるいは個別の概念として規定しうる。
2.範囲
第2条1.同条約は、国内の法制度で定義された従業員、同様に契約上の地位にかかわらず働く人々、研修生や実習生などの訓練中の者、雇用が終了した労働者、ボランティア、求職者、就職申し込み者、また使用者としての職権、義務、あるいは責任を行使する個人など、仕事の世界における労働者とその他の人々を保護する。
2.同条約は、都市部、農村部を問わず、公式経済、非公式経済の双方において、公務、民間を問わず、すべての部門に適用される。
第3条
同条約は、仕事中に、仕事に関連して、仕事に起因する仕事の世界における暴力とハラスメントに適用される。
(a)仕事を行う公的な、また私的な空間を含む職場のなか;
(b)労働者が支払いを受け、休憩あるいは食事をとり、衛生、洗浄、更衣の設備を利用する場所のなか;
(c)仕事に関連する移動、旅行、訓練、イベント、あるいは社会活動のあいだ;
(d)情報通信技術によって可能なものを含めて、仕事に関連するコミュニケーションをとおして;
(e)使用者が提供する設備のなか
(f)往復の通勤時;
3.中核的原則
第4条
1.条約を批准する各加盟国は、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するすべての人々の権利を尊重、促進、実現すべきである。
2.各加盟国は、国内法と状況にしたがって、代表的な使用者団体と労働者団体との協議のうえ、以下を含めた仕事の世界における暴力とハラスメントを防止し、除去するための包括的、総合的、かつジェンダーに配慮したアプローチを採用すべきである。そうしたアプローチは、適用可能な場合は、第三者がともなう暴力とハラスメントを考慮すべきであり、以下が含まれる:
(a)暴力とハラスメントを法律のなかで禁止し;
(b)暴力とハラスメントに対処する関連の政策を実効あるものにし;
(c)暴力とハラスメントを防止し、立ち向かう措置を実施する包括的な戦略を採用し;
(d)執行と監視のメカニズムを確立、あるいは強化し;
(e)被害者が救済と支援へアクセスすることを確保し;
(f)制裁を規定し;
(g)ツール、ガイダンス、教育、訓練を開発し、利用可能な形式がある場合は、その形式により、意識を向上させ;
(h)労働監督機関、あるいはその他の管轄機関など、暴力とハラスメントの事例を監督、調査するための有効な手段を確保する。
3.同条パラグラフ2が言及するアプローチの採用と実施にあたって、各加盟国は政府、使用者、労働者、またそれぞれの団体が有する異なる、また補完的な役割と機能を、それぞれの責任の性質と範囲が異なることを考慮したうえで、認めるべきである。
第5条
仕事の世界における暴力とハラスメントの防止と除去に向けて、各加盟国は、労働における基本的原則および権利、すなわち結社の自由、団体交渉権の実効ある承認、すべての形態の強制労働あるいは強制的労働の除去、児童労働の実効ある廃止、雇用および職業に関する差別の除去、同様に安全かつディーセントな労働の促進を尊重し、促進し、実現すべきである。
第6条
各加盟国は、女性労働者、同様にひとつ、あるいは複数の脆弱なグループに属する労働者と他の人々、また仕事の世界において暴力とハラスメントの影響を偏重して受けやすい脆弱な状況におかれたグループに属する労働者などの雇用と職業における平等で無差別の権利を実効あるものにする法律、規則、政策を採用すべきである。
4.保護と防止
第7条
第1条の概念を毀損することなく、また第1条の概念に合致して、各加盟国は、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントも含まれた仕事の世界における暴力とハラスメントを規定し、禁止する法規を採用すべきである。
第8条
各加盟国は、仕事の世界における暴力とハラスメントを防止するための適切な措置を講じるべきである。措置には以下が含まれる、:
(a)非公式経済に従事する労働者の場合は、監督官庁が果たす役割の重要性を認識し、
(b)関係する使用者団体と労働者団体との協議のうえ、また他の措置をとおして、労働者と関係する他の人々が暴力とハラスメントによりさらされやすい部門、職業、就労形態を特定すること;また、
(c)そのような人々を効果的に保護する措置を講じること;
第9条
各加盟国は、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含めて、仕事の世界における暴力とハラスメントを防止する適切な措置を使用者の管理の範囲において講じるよう使用者に求める法規を採用しなければならない。とりわけ合理的に実行が可能であれば、;
(a)労働者とその代表との協議のうえ、暴力とハラスメントに関する職場の政策を採用し、実施すること;
(b)労働安全衛生を管理する際、暴力とハラスメント、また関連する心理的リスクを考慮すること;
(c)労働者とその代表が参加したうえで、危険を特定し、暴力とハラスメントのリスクを評価し、それらを防止、抑制する措置を講じること;
(d)暴力とハラスメントに特定された危険やリスク、また第9条(a)が言及する政策との関係における労働者と当該するその他の人々の権利や責任など、関連する防止と保護措置の情報や訓練について、利用可能な形式がある場合はその形式で労働者と関係するその他の人々に提供すること。
5.執行と救済
第10条
各加盟国は、以下の適切な措置を講じるべきである。
(a)仕事の世界における暴力とハラスメントに関する国内の法規の監視と実施;
(b)仕事の世界における暴力とハラスメントが生じた場合、適切で効果的な救済、安全で公正かつ効果的な報告、紛争解決メカニズムと手続きへの容易なアクセスの確保。それらは;
(i) 職場レベルの苦情申し立てと調査手続き、同様に必要であれば紛争解決のメカニズム
(ii) 職場の外の紛争解決メカニズム
(iii) 裁判所または裁決機関
(iv) 被害を訴えた者、被害者、証人、告発者を不当な迫害や報復から保護すること
(v) 被害を訴えた者と被害者に対する法的、社会的、医学的、行政的な支援措置
(c)該当する個人のプライバシーと秘密を可能な限り、また適切に保護し、プライバシーと守秘が悪用されないよう要求することを確保;
(d)仕事の世界における暴力とハラスメントが生じた場合、必要に応じた制裁を規定;
(e)仕事の世界におけるジェンダーに基づく暴力とハラスメントの被害者に対し、効果的、安全かつジェンダーに配慮した申し立て、紛争解決メカニズム、支援、サービス、救済への効果的アクセスの提供;
(f)ドメスティック・バイオレンスの影響を認識し、合理的に実行が可能な場合、仕事の世界におけるその影響を軽減;
(g)暴力とハラスメントによって、生命、健康、あるいは安全に対する緊急、かつ重大な危険があると労働者が信じるもっともな理由がある労働の状態から、報復、あるいはその他の不当な結果を被ることなく、また管理者へ通知する義務に苦しむことなく、労働者が自ら離れる権利の確保;
(h)労働監督官やその他の管轄機関に対し、法律によって規定された司法、あるいは行政当局に申し立てることを前提に、生命、健康、あるいは安全に差し迫った危険がある場合は作業の中止を命令するなど、即時執行力を伴う措置を求める命令を出し、場合に応じた仕事の世界の暴力とハラスメントに対処する権限を確実に付与する。
6.ガイダンス、教育、意識の向上
第11条
各加盟国は、代表的な使用者団体と労働者団体との協議のうえ、以下の確保を追求すべきである:
(a)労働安全衛生、平等、無差別、移民などに関連する国内の政策のなかで、仕事の世界における暴力とハラスメントに対処すること
(b)使用者、労働者、それぞれの団体、関係当局には、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含めて、仕事の世界における暴力とハラスメントに関するガイダンス、資源、訓練、またその他のツールが、利用可能な形式がある場合はその形式により、提供され、また、
(c)啓発キャンペーンといったイニシアチブにとりくむこと
7.適用の実施手段
第12条
同条約の条項は、国内の法規によって、また暴力とハラスメントを対象とする既存の労働安全衛生措置の拡大や適合、必要に応じた特別措置の開発など、労働協約や他の国内慣例に合致した方法によって適用されるべきである。
8.最終条項
第13条
同条約の正式な批准は、登録のため、国際労働事務長に通知する。
第14条
1.同条約は国際労働機関の加盟国で、その批准を国際労働事務局長に通知した国のみを拘束する。
2.同条約は、2つの加盟国の批准が事務局長に登録された日の1年後に効力を生ずる。
3.その後、同条約は、いずれの加盟国についても、その批准が登録された日の1年後に効力を生ずる。
第15条
1.同条約を批准した加盟国は、同条約が最初に効力を生じた日から十年が経過したあと、国際労働事務局長に文書を送付し、登録することによって、この条約を廃棄することができる。その廃棄は、廃棄の登録された日のあと、一年間は効力を生じない。
2.同条約の批准にかかわらず加盟各国は、1に定めた十年の期間が経過したあと一年以内に同条が規定する廃棄の権利を行使しない場合、さらに十年、拘束されるものとし、その後は、十年の期間が満了するごとに、同条が定める条件に従って、この条約を廃棄することができる。
第16条
1.国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟各国から通知されたすべての批准、および廃棄の登録をすべての加盟各国に通告する。
2.事務局長は、2番目の国から批准の登録が通知されたことを加盟国に通告する際、加盟各国に対し、同条約が効力を生ずる日について注意を喚起する。
第17条
国際労働事務局長は、国際連合憲章第102条の規定による登録のため、前条等の規定に従って、登録されたすべての批准、および廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。
第18条
国際労働機関の理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、またこの条約の全部、または一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。
第19条
1.総会がこの条約を改正して新たな条約を採択する場合、その新たな条約に別段の規定がない限り、
(a)加盟国による新たな改正条約の批准は、新たな改正条約の効力発生を条件として、上記第15条の規定にかかわらず、当然、この条約の即時の廃棄を伴う。
(b)新たな改正条約が効力を生じる日をもって、この条約の加盟国による批准のための開放は終了する。
2.同条約は、同条約を批准し、しかし新たな改正条約を批准していない加盟国に対して、いかなる場合でも、現在の形式、および内容において引き続き効力を有する。
第20条
同条約の英文および仏文は、ひとしく正文である。