ILO第206号勧告「仕事の世界における暴力とハラスメントの除去に関する勧告」 (8/7)

2019年08月07日掲載
ILO第206号勧告「仕事の世界における暴力とハラスメントの除去に関する勧告」
https://www.inoken.gr.jp/law-and-guidelines/1055.html

第206号勧告「仕事の世界における暴力とハラスメントの除去に関する勧告」(全労連国際委員会仮訳)

国際労働機関の総会は、
国際労働機関の理事会によりジュネーブに招集され、2019年6月10日に第108回(100周年)会期として会合し、

2019年の暴力とハラスメント条約を採択し、

同会期の議事日程の第5議題である仕事の世界の暴力とハラスメントに関する幾つかの提案の採択を決議し、

その提案は2019年の暴力とハラスメント条約を補完する勧告の形式をとるべきであることを決定し、

2019年6月21日、2019年の暴力とハラスメント勧告と称することのできる以下の勧告を採択した。

1.この勧告の規定は、2019年の暴力とハラスメント条約(以下、条約という)の規定を補完するものであり、条約の規定とともに考慮されるべきである。

I.中核的原則

条約4条2が言及する包括的、総合的かつジェンダーに配慮したアプローチの採用と実施にあたって、加盟国は、仕事の世界における暴力とハラスメントに対して、労働、雇用、労働安全衛生、平等、無差別に関する法律、また必要な場合は、刑法によって対処すべきである。
加盟国は、暴力とハラスメントにさらされやすい部門、職業、就労形態に従事する労働者も含めて、すべての労働者と使用者が「1984年の結社の自由および団結権の保護に関する条約(第87号)」「1949年の団結権および団体交渉権条約(第98号)」に合致して、結社の自由、および団体交渉権に認められる有効性を全面的に享受できることを確保すべきである。

加盟国は、以下の適切な措置を講じるべきである。

(a) 仕事の世界における暴力とハラスメントの防止やとりくみとして、また仕事の世界におけるドメスティック・バイオレンスの影響の軽減が可能な措置として、すべてのレベルにおける団体交渉権に認められる有効性を促進すること;また

(b) 交渉プロセスと労働協約の内容の傾向や優良事例に関する情報を収集、普及するなかで、それらの団体交渉を支持すること。

加盟国は、国内の法律、規則、政策における暴力とハラスメントの規定が「1951年の同一報酬条約(第100号)および勧告(第90号)」、「1958年の差別待遇(雇用及び職業)条約(第111号)および勧告(第111号)」といった平等と無差別に関する国際労働機関の文書を考慮していることを確実にするべきである。

II.保護と防止

国内の法律、規則、政策における暴力とハラスメントに関する労働安全衛生の規定は、「1981年の職業安全健康条約(第155号)」「2006年の職業上の安全及び健康促進枠組み条約(第187号)」といった国際労働機関の労働安全衛生に関する文書を考慮すべきである。
加盟国は、状況に応じて、条約9条(a)が言及する職場の政策の設計、実施、監視に労働者とその代表が参加するための法規を特定すべきであり、それらの政策は;

(a) 暴力とハラスメントが容認されないことを言明すべきであり;

(b) 必要に応じて、測定可能な目標をともなった暴力とハラスメント防止計画を確立すべきであり;

(c) 労働者と使用者の権利と責任を特定すべきであり;

(d) 苦情申し立てと調査手続きに関する情報を盛り込むべきであり;

(e) 暴力とハラスメントの事例に関する内外の情報を十分に考慮し、しかるべく適切に行動するよう定めるべきであり;

(f)労働者があらゆる危険を認識できるようにする権利と比較検討しつつ、条約第10条(c)が言及する個人のプライバシーと守秘の権利を特定するべきであり;

(g)申立人、被害者、証人、告発者を不当な処罰、あるいは報復から保護する措置を含むべきである。

条約9条(c)が言及する職場のリスク評価は、心理的な危険とリスクを含めて、暴力とハラスメントの可能性を拡大する要因を考慮すべきである。とりわけ注意すべき危険とリスクは;

(a)労働条件、就労形態、労働の構成、人的管理から生じるもの

(b)クライアント、顧客、サービス提供者、ユーザー、患者、一般の人々といった第三者が含まれるもの;また、

(c)差別、不平等な力関係、ジェンダー、暴力とハラスメントを助長する文化的規範と社会的規範から生じるもの。

加盟国は、夜業、一人で行う業務、接待、医療、社会的サービス、緊急サービス、家事労働、輸送、教育、エンターテインメントなど、暴力とハラスメントをより受けやすい部門、あるいは職業、就労形態に対する適切な施策を採用すべきである。
10.加盟国は、移民の身分、出身、経由国、目的国に関係なく移民労働者を、とりわけ女性の移民労働者を状況に応じて暴力とハラスメントから保護する法的措置や他の措置を講じるべきである。

非公式経済から公式経済への移行を促進するなかで、加盟国は非公式経済の労働者、使用者、またそれらの団体に資金や支援を提供し、非公式経済における暴力とハラスメントを防止し、対処すべきである。

加盟国は、暴力とハラスメントを防止するための施策が結果として、女性と条約第6条が言及する脆弱なグループを特定の仕事、部門、職業へ参入することを制限、あるいは除外しないことを確実にすべきである。

13.条約6条が言及する脆弱なグループと脆弱な状況におかれたグループとは、適用が可能な国際労働基準と人権に関する国際文書に合致して解釈されるべきである。

III.執行、救済、援助

14.条約10条(b)が言及する救済は、補償を受けて仕事を辞める権利を制限してはならず、以下を含むことができる。

(a)補償を伴った辞職の権利

(b)復職

(c)損害に対する適切な補償

(d)所定の行為の停止、あるいは政策や慣行の改変が確実に実施されるよう、即時履行力のある対策を講じることを求める命令

(e)国内法制に従った法的費用

仕事の世界の暴力とハラスメントの被害者が心理社会的、身体的、あるいはその他の負傷や疾病などにより結果として就労不能になった場合、補償されるべきである。

16.条約10条(e)が言及するジェンダーに基づく暴力とハラスメントに対する申し立てと紛争解決制度は、以下を含むべきである。

(a) ジェンダーに基づく暴力とハラスメントの専門家を置く裁判所

(b) 迅速、かつ効果的な手続き

(c) 被害を訴えた者と被害者に対する法的アドバイスと支援

(d) その国で広く話されている言語による入手と利用が可能な指導とその他の情報資源

(e) 刑事訴訟以外の訴訟において、可能な場合、立証責任の移動

条約10条(e)が言及するジェンダーに基づく暴力とハラスメントの被害者のための支援、サービス、救済は、以下を含むべきである。

(a) 被害者が労働市場へ復帰するための支援

(b) 必要であれば、利用可能な方法による職場などにおけるカウセリングと情報提供サービス

(c) 24時間ホットライン

(d) 緊急サービス

(e) 医療ケアと治療、および心理的サポート

(f) シェルターなどの危機管理センター

(g) 被害者を支援するための特別警察隊、あるいは特別に訓練された職員

条約10条(f)が言及する仕事の世界におけるドメスティック・バイオレンスの影響を軽減する適切な対策には、以下を含むことができる。
(a) ドメスティック・バイオレンスの被害者への休暇

(b) ドメスティック・バイオレンスの被害者への柔軟な就労形態と保護

(c) ドメスティック・バイオレンスとその結果に関係しない場合を除いて、必要であれば、ドメスティック・バイオレンスの被害者を解雇から一時的に保護

(d) 職場のリスク評価にドメスティック・バイオレンスを含むこと

(e) ドメスティック・バイオレンスを軽減する公的な措置がある場合、その措置を照会する制度

(f) ドメスティック・バイオレンスの影響に対する意識の向上

仕事の世界における暴力とハラスメントの加害者は、説明責任を負い、暴力とハラスメントの再発防止と職場復帰にむけて、必要に応じて、カウンセリングなどの方法が提供されるべきである。

労働監督官とその他の管轄当局の職員は、仕事の世界の暴力とハラスメント、心理社会的被害とリスク、ジェンダーに基づく暴力とハラスメント、特定の労働者のグループに対する差別を特定し、対処することを目的に、ジェンダーに配慮した訓練を必要に応じて受けるべきである。

労働監督、職場の安全衛生、またジェンダー平等を含む平等と差別がないことに責任を負う国の機関のマンデートは、仕事の世界における暴力とハラスメントを含むべきである。

加盟国は、条約6条が言及するグループを含めて、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する統計を性別、暴力とハラスメントの形態別、経済活動の部門別で集計し、公表するために努力すべきである。

IV.ガイダンス、教育、意識の向上

加盟国は、必要に応じて、以下を予算措置、開発、実施、普及するべきである。
(a) 暴力とハラスメントを助長する差別、力関係の乱用、ジェンダー、文化的および社会的規範など、仕事の世界の暴力とハラスメントの可能性を拡大する要因にとりくむことを目的としたプログラム

(b) 暴力とハラスメントを防止し、対処するうえで、裁判官、労働監督官、警察官、検事、その他の仕事の世界の暴力とハラスメントに関するマンデートを行使する公務と民間の使用者、労働者、その団体を支援するジェンダーに配慮したガイドラインと教育プログラム

(c) 条約6条が言及するグループに属する労働者とその他の人々の特別の状況を考慮した総合的、あるいは部門別の仕事の世界の暴力とハラスメントに関する実施規範、リスク評価のためのツール

(d) その国に居住する移民労働者の言語を含めて、その国の様々な言語によって、暴力とハラスメントが、とりわけジェンダーに基づく暴力が容認できないものであることを伝え、差別的態度に対処し、被害者、苦情を訴えた者、証人、告発者への非難を防止するための公共の意識向上キャンペーン

(e) 国内法および国内の状況に合わせて、ジェンダーに配慮したすべてのレベルにおける教育と職業訓練に関するカリキュラム、およびジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含めた暴力とハラスメントに関する教育資料

(f) ジャーナリストやその他のメディアに関わる者の独立と表現の自由にしかるべく敬意を払ったうえで、根底にある原因やリスク要因といったジェンダーに基づく暴力とハラスメントに関する彼らに対する資材

(g) 暴力とハラスメントのない安全、健康的、かつ調和のとれた職場を育成することを目的にした公共のキャンペーン
 

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