朝日デジタル 2014年5月22日
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一般社員の賃金も「成果」次第になる?/「残業代ゼロ」を広げることの論点
働いた時間にかかわらず、賃金が一定になる働き方をめぐる政府内の議論が、平行線をたどっている。推進派は「効率的な働き方ができる」と主張するが、厚生労働省は、働き手が「残業代ゼロ」で長時間労働を強いられるとして、なお慎重な姿勢だ。今月末に方向性が出る見通しで、調整は大詰めを迎えている。
いまは会社が従業員を1日8時間超えて働かせたり、深夜や休日に出勤させたりすると、賃金に上乗せしてお金を払う義務がある。これに対し、時間ではなく仕事の成果にお金を払う働き方を、産業競争力会議の民間議員である長谷川閑史(やすちか)・経済同友会代表幹事が4月に提案した。
第1次安倍政権では、年収900万円以上の労働者を対象に検討された。労働時間の規制を除外することから「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)と呼ばれるものだが、世論の反発で与党が法案提出を断念した経緯がある。
長谷川提案は、年収1千万円以上の専門知識などを持つ人に加え、労使が合意すれば年収の低い一般社員を対象にする。たとえば介護や子育て中の女性が働きやすくなるともいう。
ただ政府内でも厚労省は慎重だ。田村憲久・厚労相は「会社と比べて働き手の力は弱い」と労働者が望まない同意を迫られる点を懸念する。与党内では公明党が「サービス残業の合法化につながる」と官邸に申し入れた。労働関連の専門家からは「過重な労働に歯止めがなくなる」との批判が多く、連合は「どんな手を使っても阻止する」(古賀伸明会長)と猛反発する。
次の競争力会議は月末に開かれる見通しで、制度の骨格が固まる可能性がある。厚労省も「高年収者に限っては検討の余地がある」という立場。高年収者に限った場合でも、第1次安倍政権下で撤回されたWEとほぼ変わらず、議論を呼びそうだ。
(山本知弘、清井聡)
■導入提案「企業の力、高める」 経済同友会・長谷川閑史代表幹事
長谷川閑史・経済同友会代表幹事は、朝日新聞のインタビューに対し、「企業が競争力を高めるため、柔軟な働き方の選択肢をつくりたい」と今回提案した理由を語った。
――長時間労働を招くとの懸念が相次いでいます。
「労使合意もあるし、最終的には本人の判断。うまくいかなければ、元の働き方に戻れる仕組みだ。(働き手を酷使する)『ブラック企業』が悪用するとの批判もあるが、まずは労働者の権利をしっかり守れる企業にだけ認めればいい」
――働き手が「同意」を強いられませんか。
「そうならないよう守るのが労組の役割のはず。労働基準監督署もしっかり見ないといけない」
――反発は覚悟の上ということですか。
「米国では当たり前のことがどうしてできないのか。日本の経営者は(悪用が懸念されるほど)モラルが低いのか。かつて反対が強かったのは確かだが、いろんな選択肢を提供するのが時代の要請だ。厚生労働省もダメというなら、逆にどう経済成長に貢献するのか代案を示してほしい」
――一般の社員にも広げる必要はありますか。
「時期により繁閑の差が大きい仕事、たとえば新商品や店舗開設の担当者や、デザイナーなど専門性の高い仕事には、時間に縛られず柔軟に働けたらいいというニーズがある」
――目的は人件費を減らすことですか。
「賃金はいまの残業時間も考慮した水準を目安に決めればいい。成果さえ出せば、少ない労働時間でも同じ金額がもらえるようにもなる」 (稲田清英)