時間外労働1か月上限 100時間未満で決着へ

NHKニュース 2017年3月13日 
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170313/k10010909711000.html

政府が導入を目指す時間外労働の上限規制で、焦点になっている繁忙期の1か月の上限をめぐり、経団連と連合から合意内容の報告を受けた安倍総理大臣は、長時間労働の是正に向け、「100時間未満」としたいという考えを示し、上限規制はこの方向で決着が図られる見通しとなりました。

 政府が導入を目指す罰則付きの時間外労働の上限規制をめぐり、経団連と連合は合意文書の取りまとめに向けて協議を続けてきました。

そして、繁忙期などは、「年間720時間」を前提としつつ、「2か月から6か月の平均80時間」かつ「月100時間」を上限とし、月45時間を超える時間外労働は6か月までとすることで、おおむね一致していました。

ただ、焦点の繁忙期の1か月の上限について、連合が、過労死ラインを下回ることを明確にしたいとして、「100時間未満」と主張したのに対し、経団連は、経営への影響を考慮して、「未満」とすることは受け入れられないと主張し、調整が続けられてきました。

その結果、繁忙期の上限について、「100時間を基準値とする」という表現にすると同時に、時間外労働の削減に向けて労働基準監督署が積極的に助言や指導を行えるようにするため、労働基準法に基づく指針を策定することで合意しました。

 協議が合意に達したことを受けて、経団連の榊原会長と連合の神津会長は13日夕方、総理大臣官邸を訪れ、安倍総理大臣に合意文書の内容を報告しました。

これに対し、安倍総理大臣は「合意では『100時間を基準値とする』とされているが、ぜひ『100時間未満』とする方向で検討してほしい」と述べ、長時間労働の是正に向け、連合が主張していた「月100時間未満」としたいという考えを表明し、難色を示していた経団連側に歩み寄りを求めました。

そのうえで、安倍総理大臣は「3月中に実効性のある働き方改革実行計画を取りまとめたい。今回の合意は大きな一歩だが、最初の一歩にすぎない。極力労働時間を短くしていく努力が求められる」と述べました。

 関係者によりますと、経団連は今後、ほかの経済団体とも協議したうえで、次回の働き方改革実現会議が開かれる今月17日までに、安倍総理大臣の判断を受け入れる方向だということで、先月下旬から行われてきた時間外労働の上限規制の設定に向けた協議は、この方向で決着が図られる見通しとなりました。

 連合「大きな改革で第一歩」

 連合の神津会長は、会談の終了後、記者団に対し「『100時間』まで働かせることができるという誤ったメッセージが世の中に流れることは絶対に避けるべきだという思いで対応してきた。上限時間を定めることは、労働基準法の70年の歴史の中で非常に大きな改革であり、第一歩だ。これから本当の意味での過労死、過労自殺の根絶に向けて、歩を進めていきたい」と述べました。

 経団連「首相の要請 重く受け止める」

 経団連の榊原会長は記者団に対し、「今までは事実上、無制限に残業できる制度になっていたが、何としても変えなければいけないというのが、経営側の強い決意だ。『月100時間未満』という安倍総理大臣の要請を重く受け止め、持ち帰って検討し、経済界としての対応を決めたい」と述べました。

 「月100時間」めぐる攻防

 時間外労働の上限規制で焦点となっていた、繁忙期の上限の「月100時間」という数字、厚生労働省が示す過労死の認定基準では、これを超える残業があった場合、過労死を認めるとしています。

このため連合は、「過労死ライン」の月100時間を上限として認めるわけにはいかないと、「100時間『未満』」という表現にこだわってきました。

これに対して経団連は、経営への影響を考慮すれば、「100時間」がギリギリの線で、「未満」と明記することは受け入れられないと主張してきました。

 厚生労働省によりますと、経団連に所属する大手企業の一部でも、繁忙期に月100時間を超える時間外労働を認めていて、経営への影響は少なくないと見られます。

 遺族「長時間労働 なぜ認める」

 過労のため自殺した、電通の元社員の高橋まつりさんの母親の幸美さんは、文書でコメントを発表しました。

この中で幸美さんは、「このような長時間労働は健康にきわめて有害なことを、政府や厚生労働省も知っているにもかかわらず、なぜ、法律で認めようとするのでしょうか。全く納得できません。人間のいのちと健康にかかわるルールに、このような特例が認められていいはずがありません。繁忙期であれば、命を落としてもよいのでしょうか。娘のように仕事が原因で亡くなった多くの人たちがいます。死んでからでは取り返しがつかないのです」などと述べています。

 18年前に小児科医の夫を過労自殺で亡くし、「全国過労死を考える家族の会」の東京代表を務める中原のり子さんは、「100時間の時間外労働で、多くの労働者が心を病んだり命を亡くしたりするなど、健康を損ねている事実があり、到底納得できない。政府には、本当に過労死ゼロを目指していると言えるのか問いただしたい」と話します。

そのうえで、「過労死は労働時間だけでなく、仕事の過密性や心や体に影響が出るさまざまなハラスメント、サービス残業の問題もあり、家族の会としても、まずは今回の合意を一歩として、過労死がない社会に向けてさらに規制を強めるよう求めていきたい」と話していました。

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