新潟市民病院(新潟市中央区)の女性研修医(当時37)が2016年1月に自殺したのは極度の長時間労働によるうつ病発症が原因だとして、新潟労働基準監督署が労災と認定したことが1日、分かった。遺族の弁護士が明らかにした。認定は5月31日付。
研修医自殺「過重労働が原因」 労災認定の方針 新潟
亡くなったのは新潟市の木元文さん。看護助手をしながら医師を志し、07年に新潟大医学部に合格。15年4月から研修医として新潟市民病院の消化器外科に勤務し、同年秋ごろから体調不良を訴えるようになった。16年1月、自宅を出た後に行方不明となり、近くの公園の雪の上で倒れているのを家族が発見。そばには睡眠薬があり、低体温症で死亡した。
遺族は長時間労働が原因で自殺したとして同8月、労災認定を求めていた。遺族が調べたところ、時間外労働は4カ月連続で200時間を超え、最も多い月で251時間だったという。
これに対し、病院側は木元さんの自己申告をもとに、時間外労働時間は1カ月平均約48時間だったとしていた。
遺族の弁護士によると、労基署は「うつ病の発症は15年9月ごろで、直近1カ月の時間外労働が160時間を超えていたため認定した」と説明した。木元さんの夫(37)は弁護士を通じ、「使用者による殺人にほかならない。医師不足は何の理由にもならない」とコメントした。今後、同病院に長時間労働の改善を求めるという。
新潟市民病院は「労災が認定されたことは真摯(しんし)に受け止める」とコメントした。
■診療時間見直しも
診療を原則、拒めない「応召義務」のある医師。労働問題が議論されることは少なかったが、長時間労働に労働基準監督署が是正勧告を出し、病院の外来を縮小する動きも出てきた。
昨年6月に是正を求められた聖路加国際病院(東京都中央区)は3日から、土曜日の外来診療を14診療科に絞り、神経内科や皮膚科など20診療科を休診する。
同院によると、労基署は医師の残業時間が月平均95時間に達していると指摘。当直は時間外労働にあたるとした。シフトの調整だけで対応できないため、土曜の一部休診を決めた。医師の「意識改革」もすすめ、午後6、7時には病院を出るよう促している。
残業時間の削減は達成できる見込みだが、家族らへの都合に合わせて夜にしていた患者への病状説明を昼間にするよう指示し、救急患者の受け入れを断らざるを得ない例も出ているという。福井次矢院長は「最新の治療について調べ、多職種での話し合いが必要。医師は無駄に病院にいるわけではない。国として医師の労働とは何か基準を示すべきだ」と話す。
宮崎の3県立病院は昨年、当直を労働時間に入れるよう求められた。病院局の担当者は「労働時間に入れると、今度は超過勤務の違法状態になる」と頭を抱える。佐賀県医療センター好生館(佐賀市)も4月、当直について勧告を受けた。2人の従業員が月200時間を超す勤務をしていたとして勧告を受けた関西電力病院(大阪市)は4月、医師の書類作成を補助する人員を増やした。
政府が3月に公表した働き方改革実行計画は、時間外労働を罰則付きで規制する方針を示す。ただし患者の急変への対応や救急という特殊な業務を担う医師には、5年間の猶予期間を設けた。厚生労働省の検討会で今後、対策を議論する。(寺崎省子、野中良祐)