朝日DIGITAL 2018年1月18日
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13318146.html
北里大学病院(相模原市)が、医師らを残業させるために必要な労使協定(36〈サブロク〉協定)の結び方が不適切で、協定が無効だと相模原労働基準監督署(同)から指摘されていたことがわかった。医師の勤務時間を就業規則で定めずに違法な残業をさせていたなどとして、労働基準法違反で是正勧告や改善指導も受けており、大病院のずさんな労務管理の実態が明らかになった。勧告や指導は昨年12月27日付。
法定労働時間を超えて病院職員を働かせるには、労働者の過半数で組織する労働組合か、労働者の過半数代表者と36協定を結び、残業の上限時間などを定める必要がある。北里大病院の関係者によると、病院には労組がなく、各部門の代表が集まる「職員代表の意見を聴く会」で過半数代表者を選び、残業の上限を「月80時間」などとする36協定を代表者と結んでいた。
だが、各部門の代表になるには所属長の推薦が必要なうえ、人事担当の副院長ら幹部が過半数代表の選出に関わっていた。このため選出の手続きが労基法の要件を満たさないと指摘されたという。2千人以上いる職員の残業が違法状態にあったことになり、この点でも是正勧告を受けた。
また、同病院は「勤務時間管理規程」に従って職員の勤務を管理し、所定労働時間は週38時間とする▽残業させる場合は責任者の承認を必要とする――ことなどを定めているが、医師や管理職をこの規程の「適用除外」にしていた。
北里大病院は全国に85ある、高度な医療を提供する「特定機能病院」の一つ。2016年10月時点で医師約600人が勤務しているが、始業・終業の時刻や所定労働時間、休日についてのルールがない状態で働かされていたことになる。
同病院の職員によると、職員の出退勤時間を打刻するタイムカードはあるが、医師の多くは出勤か退勤のどちらか一方のみを打刻するよう病院側から指導されていたという。長時間労働が長年常態化していたとの声もある。医師がどれだけ残業したかの十分な記録がないため、違法残業の時間や未払い残業代の規模の把握も難しいとみられる。
残業時間の上限規制の導入を目指す政府は、医師への規制適用を5年をめどに猶予する方針だ。だが、組織ぐるみともみられかねない大病院の不適切な労務管理が明るみに出たことで、勤務医の労働環境の改善を急ぐよう求める声が強まるのは必至だ。(贄川俊)