「長時間労働軽減 怠った」新任教諭自殺で賠償命じる 福井地裁
NHKnews 2019年7月10日 18時41分働き方改革
5年前に福井県若狭町の中学校の新任教諭が自殺したことをめぐり、遺族が、長時間労働が原因だとして学校側の責任を訴えた裁判で、福井地方裁判所は「校長は勤務時間の軽減などの義務を怠った」と指摘し、県と町におよそ6500万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
平成26年に若狭町の中学校で教諭として働き始めた嶋田友生さん(当時27)がその年の10月に自殺したことをめぐり、父親は、部活の指導で休日出勤が続くなど長時間労働が原因だとして県と町に賠償を求めました。
嶋田さんの1か月の時間外労働は最大で160時間を超え、自殺の原因になったとして「公務災害」にも認定されましたが、学校側は「時間外労働の多くは自主的なものだった」などとして争っていました。
判決で福井地方裁判所の武宮英子裁判長は「業務の内容は過重なもので、心身の健康状態を悪化させる可能性を校長は認識できた」と指摘しました。
そのうえで「校長は業務の時間や内容を把握したうえで勤務時間を軽減するなどの義務を怠った」として県と町におよそ6500万円の支払いを命じました。
父親「息子の正直な生き様 認められた」父親「息子の正直な生き様 認められた」
判決後の記者会見で父親の嶋田富士男さん(59)は「正直に生きてきた息子の生き様が判決で全面的に認められてよかった。この判決で、教師を目指す皆さんが教師として最後まで仕事をまっとうできる環境が整ってほしい」と話していました。
原告側の端将一郎弁護士は「亡くなった理由を明らかにしたいという原告の思いに応える判決で、福井県と若狭町は判決を踏まえ誠意ある判断をしてほしい」と話していました。
福井県と若狭町 現段階でコメントせず
福井県は「判決理由を詳細に検討し、若狭町と相談したうえでコメントしたい」としています。
若狭町は「今の段階ではコメントは差し控えたい」としています。
□月120時間超残業の教諭自殺 地裁、県と町に賠償命令
https://www.asahi.com/articles/ASM7B4J35M7BPGJB00C.html
朝日新聞デジタル 平野尚紀 2019年7月10日23時55分
〔写真・図版〕亡くなった嶋田友生さんの写真を置き、会見で心境を語る父親の富士男さん=2019年7月10日午後、福井市宝永4丁目、平野尚紀撮影
福井県若狭町立中学校の新任教諭だった嶋田友生(ともお)さん(当時27)が自殺したのは、校長が過重な勤務を軽減するなどの措置を取らなかったためだとして、父の富士男さん(59)が県と町に1億円余りの損害賠償を求めた訴訟の判決が10日、福井地裁であった。武宮英子裁判長は、校長に安全配慮義務違反があったと認定し、県と町に約6500万円の支払いを命じた。
判決によると、友生さんは2014年4月に採用され、学級担任や社会、体育などを担当し、野球部の副顧問として部活動の指導にあたっていた。日記の表紙に「疲れました。迷わくをかけてしまいすみません」と書き、同年10月に自殺した。16年9月、公務災害と認定された。
判決は、パソコンの記録などから、友生さんが4〜9月(8月を除く)、所定勤務時間外に月約120時間以上在校し、授業の準備や部活動の指導、研修の準備、問題のある生徒の保護者対応などをしていたと認定。「事実上、校長の指揮監督下で強い心理的負荷の伴う業務に極めて長時間従事しており、過重であることは明らか」とした。
そのうえで、校長が友生さんのこうした状況などを認識していたにもかかわらず、業務の量を適切に調整し、勤務時間を軽減する措置などをとらなかったと指摘。友生さんが過重な業務により精神疾患を発症し、自殺したと結論づけた。
判決後に会見した富士男さんは「息子の命を無駄にしたくない。教師をめざす皆さんが、最後まで全うできる環境を生み出してほしい」と訴えた。県教委学校振興課の小林利幸課長は「判決理由を詳細に検討し、若狭町と相談した上で対応していきたい」とコメントした。(平野尚紀)
□県などに6500万円賠償命令=中学教諭の過労自殺−福井地裁
時事通信 7/10(水) 17:53配信 時事通信
〔写真〕福井地裁の判決後、島田友生さんの遺影を前に記者会見する父の富士男さん=10日午後、福井市
福井県若狭町の町立上中中学校教諭だった島田友生さん=当時(27)=が過労自殺したのは、校長が勤務時間を減らすなどの措置を怠ったためとして、父親が県と町に約1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10日、福井地裁であり、武宮英子裁判長は両者に計約6500万円の支払いを命じた。
武宮裁判長は、校長は早期帰宅を促すなどの口頭指導をしただけで、島田さんの時間外勤務を把握し業務内容を変更するなどの措置を取らなかったと指摘。安全配慮義務違反と、精神疾患による自殺との因果関係を認めた。
判決によると、島田さんは2014年4月から同校で勤務し、同年10月7日に自殺。8月を除く4〜9月の時間外勤務は毎月約120時間以上だった。自殺は16年に公務災害と認定された。
判決後、福井市内で記者会見した父親の富士男さん(59)は「死ななくてよかった息子の命を無駄にしたくない。判決が現場に何かの形で反映されることを期待している」と語った。
福井県教育庁の小林利幸学校振興課長の話 判決理由を詳細に検討し、若狭町と相談した上で対応したい。
□教員の働き方改革へ「画期的判決」 福井の教諭自殺訴訟で内田良氏
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/892333
福井新聞 2019年7月11日 午前7時20分
新任教諭の自殺を巡り争われた訴訟の判決が言い渡された2号法廷=7月10日、福井県福井市の福井地裁 拡大する
新任教諭の自殺を巡り争われた訴訟の判決が言い渡された2号法廷=7月10日、福井県福井市の福井地裁
福井県若狭町の上中中学校の新任教諭だった嶋田友生さん=当時(27)=が2014年に長時間過重労働で自殺したことに対し、校長の責任を全面的に認め、町と県に約6530万円の賠償を命じた福井地裁判決。教員の長時間労働問題に詳しく「教師のブラック残業」(学陽書房)などの著書がある内田良・名古屋大学大学院准教授(43)=福井県福井市出身=はこの判決を「教員の残業は自主的ではないとして学校側の責任を認めた画期的な判決。教員の働き方改革の追い風になる」と評価した。
⇒父が判決後の会見で訴えたこと(D刊)
公立校教員の時間外労働について「教職員給与特別措置法(給特法)や判例で、自発的なものとの認識が根強いが、実際にはほとんどがやらざるを得ない業務。嶋田さんの日記からも分かるように、休めず、睡眠もとれないほど、業務が次々と降りかかってくる状況」と強調。「こうした実態は若狭町だけでなく全国であり、新任だけでなくあらゆる年代の教員に起きている」と日本の教員全体の問題だとの認識を示した。
また、これまでは長時間労働でうつや自死に至っても“給特法の壁”で教員が公務災害の申請をしないことも多かったと指摘。「今回の判決が公務災害の申請や教員の働き方に与える影響はとても大きい」と話した。
福井県内のある中学の校長は「勤務時間外での授業の準備や保護者対応を『自主的な活動』とするのは、教員に対し心苦しいし申し訳ない」と本音を吐露。今回の判決理由に「自主的に時間外勤務に従事していたとはいえず、事実上、校長の指揮監督下で行われていた」との判断が盛り込まれたことに「そのような指摘を受けても仕方ない」と冷静に受け止めた。
■教職員給与特別措置法(給特法)
公立学校の教員に対し「原則として時間外勤務を命じない」と定めている。時間外勤務を校長が命じるケースは、1校外実習や生徒の実習2修学旅行や学校行事3職員会議4非常災害で緊急措置を必要とする場合―に限るとし、「超勤4項目」と呼ばれる。教員には給与月額の4%相当の「教職調整額」を支給する代わりに、時間外手当の支給を認めていない。