<働き方改革の死角>「副業の労働時間 合算せず」 企業の管理義務廃止案
東京新聞 2019年7月25日 朝刊
厚生労働省は、副業・兼業を推進するため、これまで「複数職場の労働時間は通算する」としてきた労働基準法の規定を削除する案を盛り込んだ報告書をまとめた。これが実現すると、本業と副業を合わせて過労死ラインを超える長時間労働をさせることも可能になり、働き方改革関連法により四月から定めた残業の上限規制が骨抜きになるおそれがある。今後、労使の代表らで構成する労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で議論するが、労働側の反発は必至だ。 (編集委員・久原穏)
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二十五日に開く専門家会合で報告書を決定する。
政府は二〇一七年三月にまとめた働き方改革実行計画で、柔軟な働き方を促進させるとして「副業・兼業の推進」を打ち出した。厚労省も一八年一月に企業の就業規則の事実上のガイドラインとなってきたモデル就業規則を改定。副業・兼業の解禁にかじを切った。
だが「副業先を含めた労働時間の管理が大変」とする企業が多く、解禁企業は増えていない。このため、規制改革推進会議は本業と副業先を通算して労務時間を把握し、管理するよう義務付けた労働基準法の規定(三八条)を見直すよう答申。厚労省は検討を続けてきた。
労働時間を通算しないとなると、現行法では違法な長時間労働も合法となってしまう懸念がある。
例えば、本業で法定労働時間の八時間働いた後、副業で六時間働くと、月間(二十日間の勤務)では本業百六十時間、副業月百二十時間も働くことになり、残業上限で「過労死ライン」とされる百時間を二十時間も超える。現行ルールでは違法となり、企業は罰則を科せられるが、通算しなければ本業でも副業でも法定時間内で働いていることになる。上限規制は空文化し、長時間労働をする人が増える懸念がある。
また法定労働時間を超えた時間外労働には25%増などの割増賃金を払わねばならないが、この義務もなくなる。企業の負担が軽くなる分、長時間労働の歯止めもかかりにくくなる。
過労死に至った場合の裁判でも企業の法的責任があいまいになる問題が出てきそうだ。
労働問題に詳しい専修大学の広石忠司教授は「通算規定が削除されると残業の上限規制が実質的に骨抜きにされる。労働者の健康管理の責任はどちらの会社が負うのか疑問点も多い。労働者の健康に直結する問題だけに、副業解禁に伴う労基法改正を拙速に行うのは無謀だ」と強い懸念を示している。
<労働時間と割増賃金> 労働基準法は法定労働時間を1日8時間、週40時間と定める。労使が協定(三六協定)を結べば「月100時間未満」を上限に残業が可能だが、法定時間を超えた部分は割増賃金(25%以上)の対象。複数の企業で働き、通算労働時間が法定を超えた場合は、後から雇用契約を結んだ企業が割増賃金を払う。