「副業合算」過労死 川口労基署認定 残業158時間の運転手 (7/27)

「副業合算」過労死 川口労基署認定 残業158時間の運転手
東京新聞 2019年7月27日 朝刊
 
〔写真〕過労死した武田正臣さん。犬をとてもかわいがっていたという=妻・ちづるさん提供
 
 東京都足立区の運送会社ライフサポート・エガワでトラック運転手をし、昨年死亡した武田正臣さん=当時(52)=の労災認定にあたり、川口労働基準監督署が本業と副業先の労働時間を合算して過労死認定したことが二十六日、分かった。厚生労働省は労災として過労死を認める際のガイドラインで副業先の労働時間は合算しないとしており、労基署の判断は異例。厚労省の規定を適用すれば、過労死認定されない可能性があった。
 
 武田さんは昨年四月二十八日午前六時、埼玉県八潮市の倉庫内で作業中、フォークリフトの運転席で致死性不整脈で死亡した。
 
 弁護団によると、武田さんは連日、午前二時からその日の夕刻までトラックで荷物を集配して回る仕事をしており、亡くなる前の六カ月の残業時間は、過労死ラインの月百時間を大幅に超える百二十六時間から百五十八時間に及んでいた。
 
 トラックの運転業務は本社の社員として行っていたが、荷物の積み降ろし作業は関連会社の社員として副業の形でやらされていた。それぞれの会社での労働時間は過労死レベル未満に収まっていた。
 
 通常、過重労働が明確な場合は三〜六カ月で認定されるが、遺族側は昨年九月六日に労災を申請。今年七月五日に認定されるまで十カ月かかった。副業先を合算しない規定を適用するか否かで、時間がかかったとみられる。
 
◆厚労省ルールは「合算せず」長時間労働の温床に
 政府は、柔軟な働き方を促進するとして副業・兼業をさまざまな規制緩和により推進しようとしている。労災認定にあたり「副業先の労働時間を合算しない」とする厚生労働省のルールが企業に悪用される例が増える懸念がある。
 
 従来の労災認定ルールに加え、厚労省は25日、労働時間の算定や残業の割増賃金でも「副業先を通算しなくてよい」との選択肢を盛り込んだ報告書をまとめた。
 
 今回のケースでは、運転は本社社員として、積み降ろしは関連会社社員として行う不自然な形になっていたため、労基署は「事実上は1社の仕事」と認定しやすかったとみられる。
 
 しかし、例えば月曜日から水曜日まで本社で事務をやらせ、木曜日から金曜日は関連の別会社の工場で副業として製造作業をさせるなど、仕事の場所を分けて働かせる企業が出てくる可能性もある。厚労省が「副業先は合算しない」ルールを変えないなら、長時間労働で亡くなっても労災認定されない懸念がある。亡くなった運転手の遺族代理人の蟹江鬼太郎弁護士は「今回の例は副業をやみくもに推進すれば悪用される例が頻発する危険があることを示した。労災認定に副業を合算しないルール自体も再検討すべきだ」と指摘している。 (池尾伸一)
 

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