技能実習制度の闇。奴隷労働を放置し、加害雇用主を罰せず、被害者の実習生を罰する日本政府
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2019年9月24日 8時31分 HARBOR BUSINESS Online
〔写真〕人権侵害が相次ぐ東京入管
現在、日本で働く外国人労働者が増加している。特にアジアの途上国から多額の借金をして日本に出稼ぎに来る技能実習生と留学生が急増している。だが、夢見た日本で待っているのは「奴隷労働」である。
保守言論誌『月刊日本』では、保守の立場からこの問題を常に追及。前号9月号から、定期的に連載を始めた。その第一回が、1か月の給料がマイナス2万円の明細書という衝撃的な実態であった。「低賃金」どころか「無賃金」という奴隷労働の実態。10月号掲載の第2回は、技能実習制度に焦点を当て、奴隷労働の実態をデータから浮き彫りにしている。
◆国連と米国から「奴隷労働」と批判される技能実習制度
読者の中には「奴隷労働とは大げさではないか」と思われる方がいるかもしれない。しかし、それは本誌の独断ではない。実は、日本の「奴隷労働」は10年前から国際的に問題視されていたのである。2009〜10年に国連の特別報告官が訪日調査の結果をまとめたレポートを発表している。重要な部分を引用しよう。
”研修生や技能実習制度内での虐待がある……人身取引に相当するような条件での搾取的な低賃金労働に対する需要を刺激しているケースも多く見られる”
”研修・技能実習制度は、往々にして研修生・技能実習生の心身の健康、身体的尊厳、表現・移動の自由などの権利侵害となるような条件の下、搾取的で安価な労働力を供給し、奴隷的状態にまで発展している場合さえある”
実習生は「奴隷的状態」で「人身取引」(人身売買)に当たるような条件での労働を強いられていたということだ。これは過去の話ではない。米国務省人身取引監視対策部が発表している「人身取引報告書」は、次のように指摘している。
”主にアジアからの移住労働者は男女ともに、政府の技能実習制度を通じた一部の事案を含め、強制労働の状態に置かれている”(2016年)
”技能実習制度における労働搾取を目的とする人身取引犯罪の可能性に関して、非政府組織からの報告や申し立てにもかかわらず、政府は、いかなる技能実習生も人身取引被害者として認知せず、また技能実習生の使用に関わったいかなる人身取引犯も人身取引犯として訴追することはなかった”(2017年)
実習生は「強制労働の状態」に置かれており、その背後には「技能実習制度における労働搾取を目的とする人身取引犯罪の可能性」があるが、日本政府はそれを無視しているということだ。
そもそも技能実習制度の仕組みは人身売買的である。実習生は「送り出し機関(本国)→監理団体(日本)→受け入れ企業(日本)」というルートで送り出される仕組みになっているが、実際には現地のブローカーから送り出し機関に送られる場合も少なくない。
つまり、実習生はまずブローカーから送り出し機関に「売られ」、次に送り出し機関から監理団体に「売られ」、最後に監理団体から受入企業に「売られる」ということだ。
技能実習制度そのものが「二重、三重の人身売買」といえるが、その過程で実際に「人身取引犯罪」が行われている可能性が指摘されているのだ。引用を続けよう。
”報告によれば、技能実習生の中には、契約した職場での虐待的環境から逃れたことにより、在留資格に違反することになり、失業中の身で人身取引の被害を受けやすくなった者もいた”(2018年)
”これらの労働者の中には、移動の自由を制限され、パスポートを没収され、強制送還の脅しを受け、その他の強制労働の状態に置かれた者もいた。……報告によると、契約を結んだ技能実習の仕事から逃れた実習生の中には、性的搾取目的の人身取引の被害者になる者もいる”(同)
実習生は実習先の受入企業で「強制労働の状態」「虐待的環境」に置かれているが、そこから逃げ出した後で実際に「人身取引」の被害者になるケースがあったということだ。法務省によると、人身取引の被害者数は2016年21名、2017年20名、2018年9名である(被害者の国籍はフィリピン、タイ、ベトナム、モンゴル、カンボジア)。
日本の技能実習制度において「人身取引犯罪」が行われている可能性があるが、いずれにせよ実習の現場では「奴隷的状態」「強制労働の状態」「搾取的な低賃金労働」「虐待的環境」が蔓延しており、そこから逃げ出した実習生が「人身取引の被害者」になった実例もある。技能実習制度の実態は「犯罪的」どころか「犯罪」そのものではないか。
◆奴隷労働を放置する政府
しかも、そもそも技能実習制度は国の制度ではないか。国際貢献を目的とする国の技能実習制度が「人身売買制度」「奴隷労働制度」になっているとは笑えない冗談である。国の制度管理はどうなっているのか。
国際的な批判をうけて、政府は2016年に「技能実習法」(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)を制定した。この取り組みは評価できるが、実効性は乏しい。具体的なデータを見てみよう。
技能実習制度の所管官庁は法務省と厚労省であり、監理団体や実習実施者(受け入れ企業など)を監督している。しかし、その対応は全く不十分だ。
法務省は監理団体や実習実施者に対して「不正行為」の通知や「行政処分」を行っている。同省によると、これまでに「不正行為」を通知した監理団体、実習実施者の数は273(2015年)、239(2016年)、213(2017年)。
また、現在までに法務省が公開した「行政処分」は、実習実施者に対する改善命令3件、認定取り消し11件、監理団体に対する認可取り消し1件である。
技能実習生が劣悪な実習先から逃げ出す失踪は年々増加しているが(後述)、それに反して「不正行為」の通知は減少している。「行政処分」の件数も少なすぎる。法務省はまじめに制度を管理しているのか。
一方、厚労省は実習実施者に対する監督指導を行っている。同省によると、2018年に全国の労働基準監督機関が行った監督指導は7334件、そのうち5160件(70・4%)で労基法違反が認められ、19件が送検された。2017年は5966件、そのうち4226件(70・8%)が労基法違反、34件が送検。2016年は5672件、そのうち4004件(70・6%)が労基法違反、40件が送検。
労基法違反のうち、主な違反は労働時間、安全基準、賃金・割増賃金の支払いなどだった。ある縫製業の事業場では、実習生6名に対して10か月間、月平均178時間の時間外労働を行わせる一方、賃金は半年以上全く支払わず、未払い賃金の総額は約1000万円に上っていたという。この事例は送検されたが、その後の経緯は不明である。
つまり、技能実習の現場では過去3年で1万3390件の労基法違反があり、少なくとも数万人の実習生が労基法違反の状態で働かされていたということである。しかし、労基法違反の件数に対して送検の件数が少なすぎる。これでは労基法違反を抑止するどころか助長するだけではないか。
今年5月、岐阜労基署は最低賃金法違反などの疑いで岐阜市の縫製会社社長を逮捕したが、弁護士によると、労基法違反での逮捕は極めて珍しく、年間数件程度しかないという。圧倒的大多数の違反者は野放しかお咎めなしだということだ。
法務省は監理団体や企業は全くと言っていいほど取り締まっていないが、その一方で劣悪な労働環境から逃げ出した実習生はどんどん摘発している。2016〜18年の過去三年間で、実習先から失踪した実習生は5058人、7089人、9052人と年々増加しており、それと連動して元実習生の不法滞在者も6518人、6914人、9366人と増え続けている。一方、過去3年間で退去強制措置がとられた元実習生は3343人、3146人、3461人である。
失踪者、不法滞在者が急増しているが、強制退去者は横ばいであり、法務省の対応が追いついていないということだ。だが、法務省がしっかりと監理団体や企業を取り締まっていれば、これほど失踪者らが増えることはなかったはずだ。
◆日本人加害者を罰せず、アジア人被害者を罰する
前出の「人身取引報告書」は、このような日本政府の対応を問題視している。
”技能実習生の強制労働に関与した者に有罪判決を下したという政府報告は何もなかった”(2018年)
”当局は、契約している機関での強制労働やその他の虐待的環境から逃れてきた技能実習生、特にベトナムからの実習生を引き続き逮捕し、強制送還した”(同)
日本政府は強制労働をさせた日本企業を罰せず、強制労働から逃げ出した実習生を逮捕・強制送還しているということである。つまり、技能実習制度では日本人の加害者が罰せられず、外国人の被害者が罰せられているのだ。日本は政府と企業が一体になって、アジアの若者たちを文字通り使い捨てているのである。
これまで技能実習制度が「奴隷制度」と化していると指摘してきた。だが、ある面では、実習生は奴隷よりも酷い扱いを受けている。一口に奴隷と言っても時代や地域、様態によって様々であり、一概に言うことはできないが、主人にとって奴隷は「貴重な労働力」であり、「重要な財産」として大切にされることがあったのも事実である。しかし企業にとって実習生は「安い労働力」にすぎず、「交換可能な消耗品」として使い捨てられている。これは一部の奴隷より酷い扱いである。
技能実習制度は必ず将来に禍根を残す。現在、日本は戦時中に朝鮮人に強制労働をさせた「徴用工問題」に直面しているが、技能実習制度は「現代の徴用工問題」であると言っても過言ではない。
ある支援者は「いま日本は国策として『親日』のアジア人を『反日』に変えて送り返しているのです」と嘆いていた。「反日」という俗語は使いたくないが、現状では将来的にアジアの国々が「反日」に一変するのは必至である。このままでは、21世紀の日本は「アジアの孤児」になるしかない。
<取材・文/月刊日本編集部>
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